参議院選挙がもうひとつ有権者の関心が高まらなかった理由のひとつがテレビの伝え方の温度の低さがある。
たとえばNHKの看板ニュース番組である「ニュースウォッチ9」。
投票日前の最後の放送となった7月8日(金)、ニュース番組のなかでは参院選を扱わなかった。
この日の夜、21時から放送された「ニュースウォッチ9」のニュースの項目は30分の放送時間に以下のメニューが並んだ。
1.東京都知事選
2.アメリカ・ダラスで5人の警官が銃殺される
3.台風接近で猛烈な雨
4.会社の上司に飲み会に誘われたら断れる?
(会社の上司が主催する飲み会後に事故に遭ったケースで最高裁が労災とする判断が出たニュースで、
新橋のサラリーマンにインタビュー)
5.静岡県浜名湖などの遺体発見などの各地の死体遺棄事件
6.アメリカが迎撃ミサイルを韓国に配備
7.北朝鮮がアメリカの制裁などに反発
8.台北で爆発物の残骸が見つかる
9.IPS細胞の拠点が都内に
10.気象情報
11.アメリカ・ダラスの警官銃殺事件で容疑者が語っていた内容
「えっ? まさか参院選挙の直前の放送で、参院選を無視するのだろうか?」と
驚いて注目していると、番組の締めでメインキャスターの2人が言葉を発した。
「あさって日曜日は参議院議員選挙の投票日です」(河野憲治キャスター)
「みなさんの大切な一票です。ぜひ投票に行きましょう」(鈴木奈穂子キャスター)
この間、わずか7秒足らず。
ニュースのなかでは参議院議員選挙を一切扱わずに、この7秒足らずをにこやかに伝えることが報道番組のキャスターとしてやるべきことなの?
この厚顔無恥ぶりはある意味、驚くほどだ。
ちなみにこの夜、NHKは19時からの「ニュース7」でも、23時からの「ニュースチェック11」でも参議院選挙を扱わず。
この日は民放も日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビが夕方か夜のニュース(あるいはその両方)で参議院選挙について報道した。
一切報じなかったのは、NHKだけだ。
どんな選挙なのか。何が争点でそれぞれの争点について十分に伝えたのか?
ちなみに6月22日の公示日以降の「ニュースウォッチ9」で扱った内容は、6月22日の公示日に長く放送したほかは、「注目の選挙区」として大阪選挙区と宮城選挙区を扱った、争点を絞った放送は「アベノミクス」「保育と介護の人材確保」「安全保障」。また各党の党首の遊説に密着しただけの「党首を追って」というシリーズを放送したのと世論調査での各党への支持率を伝えただけ。
しかもテレビ報道として中身はけっして充実していない。
民放もテレビ朝日の「報道ステーション」が沖縄、社会保障、憲法などのテーマで当事者取材を敢行してズバズバ切り込んだ特集をやっていたのに比べると、NHKは各党のパンフレットをまとめたような表面をなぞったような報道なのだ。
参議院議員選挙をまったくふれなかった日は、6月23日、24日、7月7日、8日とある。
最後の日も番組ではまったく報道しないで「投票に行きましょう」とニコヤカに笑顔の鈴木奈穂子キャスター・・・。
もしも自分がこんな番組の担当者だったなら、穴があったら入りたいくらい恥ずかしさを覚えたはずだ。
ロクな報道をしていないで「投票に行きましょう」というのは、ジャーナリズムに携わる人間の感覚としては本来は恥ずかしいことだと思う。
まもなく投票が締め切られるが、多分、投票率に関しても有権者の関心は低調だろう。
そしてその責任はテレビにもある。
テレビ報道にかかわっている人間は肝に銘じてほしい。
(2016年7月10日「Yahoo!ニュース個人(水島宏明)」より転載