「TBS『ビビット』にヤラセを頼まれた」とホームレス男性が証言

SさんがなかでもTBSの「ビビット」に関して問題だと思うと話してくれたのは「やらせ撮影に協力させられた」ということです。

TBS「白熱ライブ ビビット」が、多摩川沿いに住むホームレスの人たちを「多摩川リバーサイド族」などとふざけた感じで揶揄してホームレスへの偏見を助長するような放送をし、特に特定のホームレス男性に「化け物」などという表現をしていた問題を先日、指摘しました。

私の教え子が以前ドキュメンタリーで取材させてもらったSさんが

「人間の皮をかぶった化け物」

「犬男爵」

などオドロオドロしいイラストで放送されていたことにはショックを受けました。

放送局の報道現場出身者として許してはいけない放送だと感じてヤフーニュース個人で問題提起したのです。

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MXと似てる?TBS「ビビット」もヘイト放送!

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これに対して、ホームレスの人たちを支援する活動を行っている認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長の大西連さんも番組内容を見て問題視しています。

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TBS「ビビット」のみなさまへ 悪意のある放送はホームレスの人を危険にさらすので、やめてください

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「人間の皮を被った化け物」とまで名指しされたホームレスのSさん。彼は今どうしているのかを彼のドキュメンタリー作品を撮ったことがある教え子の女子大生のNさんと訪ねてみました。

Sさんに話を聞く教え子のNさん

Nさんは昨年5月頃にSさんの元に3ヶ月ほど通い、ドキュメンタリーを作りました。

Sさんは今年70歳になったばかりです。

河川敷で犬を多数飼っているということで「ビビット」に限らず、テレビ局によって勝手に撮影されることが最近相次いでいて、そのことに腹を立てていました。

Sさんの話を聞く限り、自分の家としている河川敷の場所に暗視カメラを勝手に設置されて撮影されたり、ホームレスの人たちのことを人間扱いしないテレビ局の取材姿勢は確かに行き過ぎと思えるものが少なからずありました。

そのなかでSさんがなかでもTBSの「ビビット」に関して問題だと思うと話してくれたのは「やらせ撮影に協力させられた」ということです。

冒頭の画像を見てください。

レポーターが取材しているのを、Sさんが見つけて腹を立てて「何やってんだ!勝手に入りやがって」と怒鳴って注意している、という場面です。

(転載元の記事では冒頭にTBS「ビビット」の番組画像キャプチャが掲示されていますが、弊社ではテレビ番組のキャプチャ画像を掲載できないため、元記事でご覧ください)

Sさんに聞いたところ

「この場面はTBSに頼まれた」

「カメラマンが向こうで待ち構えているところに『怒鳴って来てくれ』と頼まれて、言われた通りに演技した」

と言います。

「ビビット」で放映された場面を見ると、レポーターを始めとしてTBSのスタッフがSさんが不在の時に犬のケージなど、Sさんの住居周辺を勝手に撮影しているとSさんが戻ってきて、怒鳴って注意する、という流れになっています。

しかし、これは実はSさんの説明では「やらせ」の場面だったということになります。

私が現場を見たところ、撮影地点は周囲が竹林などに囲まれた見通しのつかない場所です。

ここで勝手に撮影していたとしてSさんが遠くから怒鳴って戻ってくる、という場面が実際にあったとしても、カメラマンは予め予見してカメラの収録ボタンを押していなければタイミングよく撮影するのは非常に難しい場所です。

あの場面はカメラマンにスタンバイさせておいて、収録ボタンを押してから実際にはSさんに合図してから怒鳴る場面を撮影したものだと考えるほうがテレビの撮影現場の実態を考えれば自然に思えます。

Sさんによると、TBSのスタッフとはコンビニで缶コーヒーなどを飲みながら打ち合わせをしてから撮影に入ったそうです。

Sさんの言う通りならば、1月31日にTBS「ビビット」が放送した内容は実際の撮影の手順とはかけ離れたものだったことになります。

特にSさんがレポーターに怒鳴り声をあげる場面はこのコーナーで何度も使用されていて、Sさんの乱暴な人間像を象徴する場面として描かれています。

やらせ行為によって誇張されたものだったとしたら、「ビビット」が描く「多摩川リバーサイドヒルズ族」そのものが相当に脚色されて捏造されたものである疑いを抱くべきです。

当然ながら、「やらせ」はテレビ番組として捏造ややらせは決してやってはいけない行為としてそれぞれの局内やBPOなどの第三者機関も日頃から戒めていることですから、今後大きな問題に発展しそうです。

Sさんによると私が2月2日にヤフーニュース個人で問題提起してから、TBS側はSさんのところに以前取材に来た制作会社のディレクターが一度来たそうです。

その際に「水島さんという大学の先生が学生と一緒に来なかったか?」としきりに聞いていたとSさんは言います。「ビビット」のスタッフである制作会社ディレクターの名刺も見せてもらいました。

ただ、その上司であるはずのTBSの社員プロデューサーやチーフ・プロデューサーの名刺は見当たりませんでした。

つまり、今回の対応を制作会社所属のディレクターに任せただけだったのです。

先に述べたように、この制作会社所属のディレクターによる撮影は「やらせ」と言えるものだった可能性がSさんの口から出てきました。

「やらせ行為」やそれに近い過剰な演出行為は、フジテレビ「ほこ×たて」の"ラジコンカー対決"やNHK「クローズアップ現代」の"出家詐欺"でもかつて問題になっていて、BPO(放送倫理・番組向上機構)の「放送倫理検証委員会」が厳しく糾弾した過去があります。

同委員会は「やらせ」という表現は使いませんでしたが、2014年にはフジテレビ「ほこ×たて」の"ラジコンカー対決について出演者のラジコンカー操縦者が放送後、「対決内容が編集で偽造された」と指摘して社内調査の結果、視聴者の期待と信頼を裏切ったとして番組が打ち切られた事案について、「ない対決を、ある」としたことや制作体制の組織的な問題などを指摘して、「番組の制作過程が適正であったとは言い難く、重大な放送倫理違反があった」と断罪しました。

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フジテレビ『ほこ×たて』「ラジコンカー対決」 に関する意見

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"2015年にはNHK「クローズアップ現代」の"出家詐欺"について、「情報提供者に依存した安易な取材」や「報道番組で許容される範囲を逸脱した表現」により、著しく正確性に欠ける情報を伝えたとして、やはり「重大な放送倫理違反があった」と結論づけました。

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NHK総合テレビ『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見

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放送局の出身者としてみた時、番組放送後に私や大西さんが指摘したにもかかわらず、局の責任者が当事者であるSさんに話を聞いて検証しようとしないTBSという放送局の(プロデューサーたちの)危機管理は正直に言えば驚くほどずさんです。 

さて、「TBSにやらせ行為を頼まれて演じた」というSさんの主張が本当かどうか。

それは私にも正直わかりません。

Sさんの話はいろいろなテレビ局が次々にやってきたので事実関係を混同している点があることも事実です。

ただ、私が聞いて現場の様子やVTRを見た限りではSさんはウソは言っていないし、TBSに関しては記憶は一貫して「やらせがあった」という主張で変化がない印象です。

NHK「クローズアップ現代」の"出家詐欺"の時も当事者が週刊誌に「やらせを頼まれた」と主張し、番組制作者は「やらせ行為はなかった」と主張するなど、双方が真っ向から対立したために白黒をつける立場のBPOも本当の意味での真相の究明まではできなかった前例があります。

その意味では、今回の「ビビット」での「Sさんが怒鳴ってレポーターに抗議する場面」はNHK「クローズアップ現代」での「記者がブローカーに相談に訪れた多重債務者を追いかけてインタビューした場面」にとても似ています。双方とも「了解済みの出来レース」であるにもかかわらず、映像の真実味を高める効果があるからです。

ただ、TBS側には真相を知ることができる簡単な方法があります。

それはSさんの取材を行ったオリジナルの撮影映像を見ればすぐにわかります。

オリジナルテープにはどういう順番で撮影が行われたのかがすべて記録されています。それを見ればどの段階でSさんが怒鳴ってやってくる映像があるかは一目瞭然です。

万が一でも、その時のオリジナル映像が消去されたりすれば、この番組のプロデューサーは危機管理能力がゼロに等しいと言っても過言ではないと思います。それは早急に確認してほしいと思います。

Sさんが信頼を寄せる盲目の犬モモちゃん

現在の場所に来て13年ほどになるというSさんですが、高齢で目が見えなくなってしまった雑種犬のモモちゃんがかつて猫の出産を手伝ったエピソードなど動物との生活での感動した体験談を話してくれました。

他方で、飼っている犬が近所の人を噛んでしまうなどの問題があったことも素直に認めていました。

Sさんの話を聞いているうちに心配になったのが、TBSなどの放送後に急に投石の被害が目立っているということです。

犬を入れている小屋にも大きな石が数個投げつけられて、小屋にヒビが入っていました。

Sさんが犬を飼う飼育小屋

投石によってひび割れた小屋

投石に使われた石(直径20センチ大)

石は直径20センチほどの大きさで人を直撃すれば命にもかかわると感じました。

また、近くでホームレスの人たちが居住するテントなどを狙ったような野火も相次いでいます。

ホームレス男性のテントそばでの野火の跡

ちょうど私たちがSさんの話を聞きにいった時にも、野火が上がっていて警察官や消防署員が走り回ってSさんが犬を飼っている場所にも来ていました。

Sさんによると、こうした被害が目立つようになったのはここ最近のことで、特に投石被害は毎日のようにあるということです。

もしもテレビの放送を見て、「ヘイト感情」を募らせてこうした容赦ない行為をしている人がいたら大変残念なことですし、万一、本人に被害が及んだらと考えると心配でなりません。

Sさんの元へは現在、私のような大学教員やホームレス問題に関心を持つ活動家やドキュメンタリー映画監督、小説家、動物愛護団体の関係者など様々な人たちが訪れては決着を模索しています。

また一部の番組出演者も連絡をしてくれて「ビビット」の取材・放送姿勢を問題あるものだと考えているとして問題意識を共有しています。

どうか無事な形で収束することを願っています。

一方で、名誉棄損などの人権侵害ばかりか「ヤラセ」行為の疑いまで出てきたTBSの取材姿勢はどうしたことでしょう。

何よりも番組の責任者がSさんの前に顔を出さないというのはかつての同業者としては危機管理上も不思議でなりません。心ない放送が行き場を失っているSさんのような人たちを追い詰めているのかどうか不安にならないのでしょうか。

いずれにしても、「ビビット」の問題は、Sさん自身がBPOの放送人権委員会に申し立てをすることで放送についての検証が行われるものと考えていましたが、ここへ来て「やらせ」という疑惑も浮上してきたため、同じBPOの放送倫理検証委員会も関係する問題に発展しそうです。

この点については他社の番組も含めて今後しっかりとチェックし、今後、必要に応じて対応策を講じていきたいと考えています。

(2017年2月27日「Yahoo!ニュース個人(水島宏明)」より転載)

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