6月18日に東京都議会で飛び出したセクハラ野次。
ブラック企業問題などを追及している弁護士の佐々木亮さんが以下のように書いているが、まったく同じ意見だ。
今回の件は、絶対に曖昧にすべきではありません。 なぜなら、現実の職場ではこういった類のセクハラ言動が多くあるからです。 労働局の雇用均等室に寄せられたセクハラに関する相談件数は約1万件です(2012年度)。これはほんの氷山の一角でしょう。 こういう現状があるのに、都民の代表である都議が無神経にこのような発言をしたことは、オリンピックが開かれるとか、国際都市だとか、そういうことと無関係に大問題なのです。 ですので、都議会は、単なる野次だとして不問にすることなく、発言者を特定すべきです。 こういう言動がセクハラとして許されないことを都民に示すべきでしょう。
しかし、数日たった今になっても発言者が特定されないのはなぜなのか?
それには、テレビや新聞の「本気度」がかかわっている気がしならない。
つまり、大手マスコミはSNSなどで問題になったからニュースとして流しているものの、追及に本気ではないのでは?と感じるのだ。
都議会における塩村あやか議員の一般質問中のヤジの問題は、同じ会派の同僚議員、おときた駿議員の以下のネット記事で火がつき、各マスコミが取り上げるようになったらしい。
まず始めに書きますが、怒っています。 すごく。
このネット記事を詳細に読めば流れが分かるが、野次を飛ばされた当事者である塩村議員がツイッターで発信し、それを引用した「みんなの党Tokyo」の同僚のおときた議員のネット記事で反響が広がる、という展開だった。
SNS時代の象徴するようなニュースの流れの典型だといえる。
ところが、テレビや新聞などの大手マスコミはこの流れを「後追い取材」する程度。
テレビ番組のスタジオで「けしからん」などと言いながらも、本気でヤジを飛ばした議員を特定して真偽を追及するつもりがどこまであるのか、疑問なのだ。
ここまで大きな問題になったのなら、野次を飛ばした議員は堂々と名乗り出て「釈明」するのが筋。
都民の代表として選ばれた者としての最低限の義務だろう。
また、所属議員を抱える政党・党派も真偽を調査すべきだと考える。
都議会という地方行政の意思決定にかかわる重要な場で起きた事件をあいまいに終わらせてはならない。
だが、塩村議員らによる、発言者への処分を求める都議会議長への要請は、結果的に拒絶された。
議員本人が名乗り出ない以上、大がかりに取材する能力を持っている「大手マスコミ」こそがもっとこの問題を追及すべきだ。
今の段階で大手マスコミがとりうる方法は3つある。
いずれもマスコミ各社が本気で取り組む気があればできる方法だ。
(1)ひとつは、「声紋分析」だ。
当日の議場の音声を専門の研究者や業者などに「声紋分析」させれば、かなりの精度で発言者を絞り込むことができる。
ふつう、テレビの報道番組などは、こうした分析が必要な場合に備えて専門家や業者をリストアップしている。
マスコミが抱える専門家は、たとえば口の動きの映像を分析して相手の発言を特定することができる専門家、服装やしぐさで相手の心理を読み取る専門家、未解決事件の犯人像を絞り込むプロファイルの専門家など、多岐にわたっている。
当然ながら「声紋分析」の専門家も把握している。
現在の声紋分析の技術では、たとえば、発言者の身長や顔のかたち、年齢などの特徴はおおよそ分かる。
そうした専門家に議場の音声を分析させて、野次を飛ばした議員について、特徴を明らかにすることはさほど難しいことではない。
特定するには最新のテクノロジーを利用するのが一番早い。
もし、当日の議場での音声がまだマスコミ各社に公開されていないのなら、記者クラブを通じて公開させることも大手マスコミならばできる。
(2)もうひとつは、一人ひとりの都議会議員に対して「個別取材」をすることだ。
議員個人がその野次を飛ばしたのか。あるいは他の議員の野次を聞いたのか。誰が言ったと思ったのか。
それに対して取材相手の議員は同調したのか。その議員は同調したのは誰だと思ったのか。
野次を飛ばした本人が答えずとも、近くにいた議員がそれを聞こえなかったというならば、それは「グルになっている」というのと同じだ。
「取材」には答えない、という姿勢だったら、その事実も個々の議員名と合わせてまとめて発表すればよい。
読者や視聴者は、「取材拒否」の議員集団に、ある種の憶測を持つだろうが、それは取材拒否をする側の選択である。
個別面接での質問というのが難しければ、都議の全員アンケート、という形式でもよい。
(1)の声紋分析で分かった特徴について、議員本人にぶつけて反応をみるという取材もあってよい。
もちろん、この場合には議員やその同僚議員が「ウソをつく」可能性は残る。
だが、仮にマスコミの取材に「ウソをつき」、後からその事実がバレた場合、その議員は辞職も含めた大きなリスクを背負うことになる。
現状では、議員や政党とマスコミとの関係が、どうも「なあなあ」な感じで「緊張関係」がないことが問題なのだ。
都庁記者クラブに席を置く各社の記者たちも「議員」の目星はついているはずだ。
それなのに「あえて特定しない」のか。今後のつきあいなども考慮しているのか?
だとすれば記者たちも同罪になってしまう。
(3)さらに・・・それぞれの議員の後援会の「女性役員」の意見や評価を取材する、という方法がある。
今回のセクハラ野次について女性としてどう考えるか。
発言したのに名乗り出ない都議がいることをどう考えるか。
もしも自分が応援する都議だったら、どうするべきと考えるか。
それを一斉に調査してまとめて記事にするのだ。
また、議場での野次の声や声紋分析で分かった野次の特徴を、都議をよく知る人間として判断してもらうという取材も「あり」だろう。
今回の問題を振り返ると、前述したように大手マスコミはあまり関心がなかった問題だったのが、SNSでの発信からニュースになっていったという流れがある。
そのせいなのか、大手マスコミも徹底追及しよう、というよりは、スタジオなどで「けしからん!」と言って溜飲を下げて終わり、という印象が見え隠れする。
それで終わりにしてしまうのなら、大手マスコミも下品な野次を飛ばした議員に同調したり、黙認したりした議員たちとさほど変わりはない。
今回の野次は、内容だけが問題なのではない。
今もって発言者が名乗りを上げないという点が、何より「卑劣」だ。
大勢の議員集団のなかに紛れ込んで、自分の野次に責任を持とうとしない「後ろ黒さ」を感じる。
早い段階で名乗り出て、反省の弁を口にして謝罪したならば、世間の批判は一時的に浴びたとしても「潔さ」には共感する声も集まるだろうと思う。
だが、今回の野次の主たちは「潔く」はない。
その一点だけ考えても、議員でいる資格はないと私は思う。
いったい誰なのか?
それを特定する仕事は、ジャーナリズムとして「要の軽重が問われる」ことだ。
そのままで終わらせてしまったら、民主主義もマスコミのチェック機能も「絵に描いた餅」にすぎない。
議会という公的な場の問題は、できるだけオープンにすべきだ。
今回のセクハラ野次を「言語道断」「許せない」と感じるのなら、マスコミ関係者はあいまいに終わらせずに徹底的に追及してほしい。
発端でSNSが火をつけたニュースだとしても、最終的に大がかりな取材を展開したり、検証したりできるのは大手マスコミしかないのだから。
心ある記者たちの奮起を期待したい。
(2014年6月21日「yahoo!個人」より転載)