●懲戒解雇
私、小松秀樹は、2015年9月25日、懲戒委員会での形ばかりの弁明の後、即日、亀田総合病院を経営する医療法人鉄蕉会から懲戒解雇を通告されました。弁明の機会付与通知書には「手段の如何を問わず、厚生労働省及び千葉県に対する一切の非難行為を厳に慎むことを命じます」と日本国憲法の下ではありえない文言が記載されていました。
●安房10万人計画
懲戒解雇の3年6か月前、2012年3月、私は、安房地域の人口減少への対応策として、医療・介護によるまちづくりビジョン「安房10万人計画」を提唱しました。安房地域に首都圏から高齢者を迎えて、楽しく穏やかな余生を過ごしてもらうことと、それによる雇用創出が目的でした。
以後、まちづくり活動として、安房地域医療センターでの無料・低額診療、民間公益活動へのふるさと納税利用の制度化、社会人に安定した雇用を提供するための看護学校創設、看護学生寮への高齢者向け住宅併設、高齢者を支えるワンストップ相談サービスの事業化などを開始しました。こども園を中心とした複合組織による子育て支援(必要時夜間保育、病児保育、学童保育、母子家庭・父子家庭支援)の準備も進めつつありました。安房10万人計画のハブとして特定非営利活動法人ソシノフを設立しました。
●亀田総合病院地域医療学講座
2013年9月、亀田信介院長から、「補助金で亀田総合病院地域医療学講座が作られる。これまでにない独創的な活動を行ってほしい」と依頼されました。
私は地域医療学講座の活動を安房10万人計画に組み込むことにしました。地域で魅力的な取り組みをしていることを全国に発信することで、医療人材確保策としたいと考えました。ソシノフの活動の一部を地域医療学講座が担当する形になりました。
地域医療学講座の活動内容は2つ。1つは、地域包括ケアについての映像シリーズ作成とそのシナリオを書籍化すること、2つ目は、地域包括ケアの規格作成です。2013年度、映像シリーズ作成の準備を始めました。枠組みについてのコンセプトの明確化、プログラム作成、講師の選定を行いました。2014年度はシナリオ作成と撮影を行いました。2015年度は、映像と書籍の編集出版、規格作成を予定していました。
●虚偽通告
ところが、2015年5月1日、新任の千葉県健康福祉部医療整備課の高岡志帆課長と新田徹医師・看護師確保推進室長から、地域医療学講座の2014年度の補助金を1800万円から1500万円に削減する、2015年度の予算は打ち切りにすると告げられました。理由として、10分の5補助だったこと、予算がなくなったことが告げられました。2015年3月30日付けの1800万円の交付決定通知(千葉県医指令2082号)が送付されてきていたので、この通告は虚偽であり違法です。
地域医療再生基金管理運用要領には、「都道府県は、事業者から基金事業に係る助成金の申請を受けた場合には、審査を行い、当該申請の内容を適正と認める場合は、当該事業者に対し助成金の交付を行うものとする」「都道府県は、基金事業を中止し、又は終了する場合には、厚生労働大臣の承認を受けなければならない」と書かれています。不適切だと認められた場合を除いて、県の役人の恣意で、助成金の交付を拒むことはできないし、事業を中止することもできません。
●虚偽の破綻
私は、亀田総合病院に勤務する弁護士と戦術を相談。言論で戦うことにしました。経緯を「亀田総合病院地域医療学講座の苦難と千葉県の医療行政」http://medg.jp/mt/?p=3953 http://medg.jp/mt/?p=3955 http://medg.jp/mt/?p=3957と題する文章にまとめて、メールマガジンMRICに投稿しました。5月27日、高岡課長と面談。予想通り千葉県が折れてきました。
高岡:事業の要綱にもですね、一番最後のページですけれども、はっきりと、5ページ目をご覧いただきたいのですが、はっきりと補助率10/10というふうに書かれていると。
(中略)
小松秀樹:それ(交付金)はどこにいったんですか。
高岡:それはどこにもいっておりませんで、出納局が管理しております。
(中略)
高岡:それで、実は去年度の時点でも、執行の留保がかかっていたような状況だったんです。お知らせできてなかったんです。先生には。
小松秀樹:そんなの聞いてないし、そもそもそれはむちゃくちゃじゃないですか。
高岡:おっしゃる通りでして。
2014年度の予算は確保されましたが、2015年度の予算が認められるかどうか曖昧にしました。国で決まった基金の扱いとしては不適切です。そこで、県を押し込むために「千葉県行政における虚偽の役割」http://medg.jp/mt/?p=5898をMRICに投稿。実名を含めて、出来事をできるだけ正確に再現しました。
●言論抑圧
6月22日、亀田総合病院の亀田信介院長から、「厚労省関係から連絡があった。千葉県ではなく厚労省の関係者である。厚労省全体が前回のMRICの記事に対して怒っており、感情的になっていると言われた。記事を書くのを止めさせるように言われた。亀田総合病院にガバナンスがないと言われた。行政の批判を今後も書かせるようなことがあると、亀田の責任とみなす。そうなれば補助金が配分されなくなるとほのめかされた」と告げられ、行政批判を止めるよう要請されました。私は、「言論を抑えるというのはひどく危険なことである」「権限を持っていて、それを不適切に行使すれば非難されるのは当たり前だ」と主張し、いずれ社会に発信すると伝えました。
7月13日、医療法人鉄蕉会の亀田隆明理事長は、ソシノフ代表理事に対し、「地域医療学講座がもめて、そこでソシノフの名前が出たことで、国も県もソシノフに拒否反応を示している。補助金が変に使われたのではないかと疑っている。1円もソシノフにいっていないとしても、このようになってしまった以上、鉄蕉会としても、亀田隆明個人としても、今後ソシノフのメンバーに加わることはできない」として、亀田隆明、省吾両氏がソシノフから脱退すると表明しました。
さらに地域医療学講座をソシノフと関係させるのをやめるよう求めました。設立時の運営会員の内、2名がソシノフから離れ、医療法人鉄蕉会と学校法人鉄蕉館の協力が得られなくなりました。行政の圧力によってまちづくり活動の枠組みが壊されました。
地域医療学講座とソシノフを関係させるなということは、DVDと書籍の出版を差し止めよということに他なりません。すでに、映像シリーズのDVD、書籍はソシノフが販売することで合意されて、準備が進められ、千葉県もこれを了承していました。
●井上肇結核感染症課課長
7月15日、経営者に近い人物から、第三者を介して、言論抑圧をしかけたのが厚労省の井上肇結核感染症課課長であると伝えられました。彼は数年前千葉県に保健医療担当部長として在職して以後、亀田隆明理事長と個人的に親しくしていました。行政が大きな権限を持つことを是とし、批判されることを極端に嫌っていました。東日本大震災当時、亀田隆明理事長を通じて、私に行政批判を控えるよう言ってきたことがあります。
以後、震災の救援活動、インフルエンザ対策について個人的に長期間にわたって議論し、科学と立憲主義の二つの立場から、井上氏を論破しました。
●懲戒処分原因事実
行政による言論抑圧は市民として看過できることではありません。私は、知人の厚労省高官に調査と厳正対処を求める文書の原案を送って、手渡す窓口と日時を相談しました。この文書が、千葉県に送られ、高岡医療整備課長から、9月2日11時18分、亀田隆明理事長に送られました。
千葉県医療整備課の高岡です
メールで失礼いたします
既にお耳に入っているかもしれませんが、別添情報提供させていただきます
補足のご説明でお電話いたします
この日、亀田総合病院経営管理本部であわただしい動きがあったこと、亀田隆明理事長が9月中に小松秀樹を懲戒解雇すると息巻いていたことを知人から伝えられました。
処分通知書の懲戒の原因事実は、「貴殿は、職務上及び管理上の指示命令に反し、亀田総合病院副院長の名において、厚生労働省に、2015年9月3日付け厚生労働大臣宛書面を提出し、同省職員の実名をあげ、調査と厳正対処を求める旨の申し入れを行った(懲戒処分原因事実3)」と締めくくられていました。公務員の不正について調査と対処を要請したことが、懲戒処分の理由として堂々と記載されていました。
●刑事告発
私が亀田総合病院事件で千葉地検に告発した人物の中に、二人の千葉県職員、高岡志帆と新田徹が含まれます。
2015年5月1日の高岡志帆、新田徹の行為は、予算がなくなった等の虚偽の事実を述べて,既に決定されていた補助金額の削減あるいは交付の打ち切りを告げ、補助金の交付・受領を妨害するとともに、地域医療学講座の遂行に混乱・支障を生じさせたものであり、公務員職権乱用罪、偽計業務妨害に相当する。
小松秀樹が厚生労働省に対して、「地域医療学講座」の円滑な実施を妨げる厚生労働省職員についての内部調査及び厳正な対処を、一般に知れないよう、8月17日に非公式な文書をもって相談窓口を求めて厚生労働省に打診したところ,高岡志帆はこれを入手し,同9月2日,これを正当な理由なく医療法人鉄蕉会理事長亀田隆明に漏らした。高岡志帆の行為は、地方公務員法に定める秘密保持義務違反の罪に相当する。
●森田千葉県知事への申し入れ
一連の事件で、千葉県職員である高岡志帆と新田徹に行政官として不適切な行為がありました。事件は、公務員による憲法と法治主義への組織的挑戦です。森田千葉県知事は県民投票により、県行政を担当しています。知事には、民主主義を守るために、厳正な調査と処分を求めるものです。公務員の弾圧行為を放置するのか、市民を擁護するのか有権者が注視しています。
(2016年2月2日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)