今回はアベノミクスの成長戦略の目玉である農業改革を取り上げたい。
それは2014年6月に閣議決定された第二次成長戦略の中でしっかり記述されている。農業改革はいわゆる「岩盤規制」の改革であり、多くの改革項目の中で最も困難なものとされてきたが、第二次成長戦略はその課題に正面から取り組んだ。
この改革は2013年頃から準備され、戦略の発表後も改革作業は続けられているが、困難な対象であるだけに、課題も多く残されている。
改革の眼目はつぎの3つに集約される。それは減反政策の廃止、農協の改革、農地政策の改革である。
以下、それぞれの改革の意義と改革がどこまで進められ、何が残されているかを述べよう。
(1)減反政策の廃止
減反政策とは、米の作付けを減らした(減反)農家には、減反による減収の相当部分を補助する政策である。
第二次大戦後の日本は、占領下の農地改革で生まれた多数の小規模自作農家を、食糧供給を確保するため食糧管理制度の下で政策的に米価を決めて保護してきた。
しかし、1970年代頃から、国民の食生活パターンの変化が進み、需給バランスが逆転したため、米の過剰供給を回避して農家の所得を守るため減反を奨励するこの政策が導入されたのである。
減反制度では生産を減らしても農家の所得は維持されるので、農家の生産性向上への意欲を削ぐ弊害がある。TPPが実施されると農業も国際競争にさらされるので、米も含め生産性向上が求められる。
そこで2013年11月に政府は減反制度を5年後に廃止することを決定した。これは"岩盤規制"で守られた農業の既得権益に踏み込んだ画期的な改革だが、この改革の本旨は生産性が高く技術革新力のある農家や農業者を生み出すことにあり、そのためにはそうした農業者育成のための総合的な戦略をこれから本格的かつ強力に進める必要がある。これは減反政策廃止以上に大きい残された課題である。
(2)農協の改革
農協の基本は、地域の農家が集まって相互に支援したり切磋琢磨する活動であり、そうした地域農協は世界各国に存在する。
日本の特異性はそうした地域農協の上に全国の巨大組織が君臨していることだ。安倍政権の規制改革会議は2014年5月に、JA全中(全国農協中央会)の地域農協への指導権と監査権を廃止、JA全農を株式会社化し経営を効率化させる、地域農協の金融事業を農林中金に売却させて地域の事業リスクを減らす、などの改革案を提示した。
この改革案は当然、既得権を失う農協全国組織と関係勢力から激しい抵抗があったが、総理はじめ、政権側の努力で相当程度改革は実現した。しかし、地域農協が自由に存分に活動できるためにはさらに多くの改革が必要だ。
(3)農地政策の改革
現代日本農業の構造的欠陥の最たるものは、占領下に法定された「農地法」により、土地所有が多数の零細農家の小規模所有のままであり、大規模農家が土地を集約することも、企業が農地を所有することも困難であるため、生産性の向上が進みにくいことだ。
零細農家の大部分が高齢化しているなかで、土地所有の改革が遅れると日本農業は遠からず衰滅するおそれさえある。
今回の改革は、企業が農地を利用するためには参加しなくてはならない「農業生産法人」への出資上限が25%から50%未満に引き上げられ、「農業委員会」の委員が農家の互選でなく市町村長の任命になったこと、また土地の集約などを仲介する農地バンクが創設されたこと、が主な内容だ。
企業が土地を所有して高生産な農業をするためには、出資比率が50%以上必要であり、また、農地バンクの機能も大幅に強化される必要がある。
アベノミクス第二次成長戦略で手がけられた農業改革は、これまでの政権が手を入れることもできなかった戦後占領体制以来の岩盤規制に取り組んだことは高く評価される。
だが、改革の目的を実現するには、企業の土地所有自由化や高生産性で革新力のある農業者の育成など多くの大きな改革作業が残されており、これこそは安倍政権がさらに全力をあげて取り組むべき課題だろう。