総務省が『電波政策ビジョン』の策定に向けて3月4日締め切りで意見を募集した。僕も意見を提出したが、その中心は「専用無線はできる限り廃止し、汎用無線である移動通信を活用すべき」である。
NTTドコモが提供している映像配信サービスにNOTTVがある。これは、テレビのデジタル化に伴って空いた周波数帯を利用する有料サービスである。1千万加入者を目指して2012年4月にサービスを開始したが、2013年12月末で153万と苦戦している。NOTTV対応のスマートフォンだけで視聴可能、逆に言えば、無線回路が対応しないiPhoneなどでは視聴できないという専用性が苦戦の理由である。他のスマートフォン向けの映像配信サービスのように、NOTTVはコンテンツの提供に専念したほうが、利用者数の増加が期待できるはずだ。
現場からの生の映像を伝えるために、テレビ局はFPUと呼ばれる専用無線システムを利用してきた。従来は800MHz帯を利用してきたが、移動通信に明け渡すため、1200MHz帯と2300MHz帯への移動が進行中である。一方で、大雪の駅頭中継などの際に、「ポータブル中継」「簡易中継」といった表示をよく見かけるようになった。これは、移動通信を利用し回線数を増やして高精細化し、大型の中継車を必要とせず機動性が高い、新しい中継システムである。
夕方に、子供たちに帰宅を促す放送が屋外スピーカーから流れる地域は多い。これは、市町村防災行政無線と呼ばれる専用システムであって、いざというときに不具合が生じないように、テストを兼ねて、録音放送を毎日流しているのである。公衆回線が途絶しても大丈夫なようにというのが専用無線を用いる理由であるが、公衆回線が途絶するような状況下で防災行政無線だけが生き残れる可能性がどれほどあるだろうか。公衆光回線、公衆CATV回線とすべての移動通信事業者の回線を全部接続して、どれか一つでも生き残れば放送できるようにしたら、途絶の確率は低減できるのではないか。
ものとものとのインターネットが普及の兆しにある。電力使用量データを電力会社に自動送信するスマートメータがその一例だが、どのような無線システムが利用されようとしているだろうか。東京電力では、スマートメータ間でデータを飛ばしていく無線マルチホップ方式という専用システムだけを利用するとしてきたが、移動通信網などの他社インフラも活用すると、2013年11月に方針転換した。
移動通信のような汎用無線を用いることには、様々な利点がある。専用無線であれば必要となる設備投資が不要だから、起業が容易になり無線を利用した新ビジネスへの挑戦が促される。少数の利用者しかいないであるとか、たまにしか使わないといった利用効率が低い用途に、希少資源である電波を占有されなくて済む。その都度わざわざ免許審査を実施する必要がないので、行政コストが削減でき、利用開始までの期間が短縮される。技術的な話になるが、専用無線では隣の周波数(用途)と干渉しないようにガードバンドを設けるのが一般的だが、これも不要になる。
ブロードバンド用途の移動通信に周波数をできる限り与えるため、米国では、利用効率が低い免許は返上するように、政府機関に対して大統領が指示を出している。これを受ける形で、大統領直下のOffice of Science and Technology Policyは、2014年2月に政府機関からの免許返上方策について意見を求めるパブリックコメントを開始した。わが国でも、ブロードバンド向けの移動通信(汎用無線)に周波数をできる限り与えるため、既免許人の利用状況を厳しく精査し、たとえ政府機関であっても利用効率が低い場合には免許を返上させるべきであり、今後の新たな用途のために専用無線免許を与えることもできる限り避けるべきである。