IEEE Spectrumで、欧州のスーパーコンピュータプロジェクト(Mont-Blanc)が記事になっていた。膨大な数のプロセッサを搭載し、並列に高速計算を実行するのがスパコンである。かつては特別に開発した専用プロセッサを利用していたが、近年はパソコン用を用いるようになってきた。今度のプロジェクトはスマートフォン用を使うことで、開発経費をさらに削減し、消費電力を押さえつつ、高速を実現しようというものだ。
目標とする性能はエクサ(10の18乗)、つまり京(10の16乗)の100倍で、わが国のスパコン「京」の後継機と同レベルである。経済産業省に設置された「今後のHPCI計画推進のあり方に関する検討ワーキンググループ」は2013年6月に中間報告を発表した。中間報告は、汎用プロセッサを用いるスパコン技術について、欧州のMont-Blancを含め言及してはいるものの、わが国は専用プロセッサを用いたスパコン開発を目指すとしている。「京」には1111億円を要したが、後継機にも同様に投資しようという計画である。これに対して、欧州プロジェクトの当初予算は22百万ユーロ(約30億円)と圧倒的に少ない。さらに、IEEE Spectrumは、数十メガワットの電力を消費する「京」の後継機では、毎年の電力代だけで数十億円を要するだろうと指摘している。
以前、『中国スパコンが世界一』と題する記事をネットに上げた。そこで詳しく解説したように、スパコンの性能指数LINPACKは1970年代に開発され、すでに時代遅れである。LINPACKがトップなら、どんなシミュレーションでも最高性能が出るということでもない。そのような意味で、蓮舫氏の「2番じゃダメなんですか」発言は的を射ている。
間もなくアベノミクスの成長戦略が発表される。その中では、当然、科学技術力の強化が謳われるだろう。実は、科学技術関係予算は、他が削減されてきた中で増加の一途をたどってきた。1996年からの第1期科学技術基本計画(5か年計画)は17兆円、第2期は24兆円、第3期は25兆円、2011年からの第4期も25兆円の政府予算を投じている。スパコン計画もその一環であるが、欧州プロジェクトと比較すれば、費用対効果が悪すぎる。過去の成功者(有識者)を集めてワーキンググループで議論しても、従来の延長線上でしかプロジェクトが起こせない、という問題点が露見した悪しき実例である。成長戦略の実行過程では抜本的に見直しをする必要がある。