先に「警察・消防無線はLTEの上に構築すべき」という記事を書いた。趣旨は、「消防には消防無線、警察には警察無線というように個別に周波数を与え、個別に専用網を整備させる必要はない」と「警察や消防も通信事業者のLTEを利用すべき」の二点である。
これに対して、真野浩さんからコメントを頂いた。「個別に専用網を整備させる必要はない」には賛成だが、「トランシーバ2台だけの通信などの堅牢性が高い自営通信を、被災地など比較的局所に閉じる緊急通信として維持すべき」というのがご意見だ。真野さんは無線の権威だから、とても重要な指摘ととらえ、それに留意しつつICPFセミナーを司会した。セミナーの模様はすでにICPFサイトで公開している。
セミナーで明らかになったのは次の各点である。
第一に、公衆安全LTE(Pubic Safety LTE)には、トランシーバのようなPTT(プッシュ・ツー・トーク)が備えられているということ。被災地など比較的局所に閉じる、公衆安全用端末間の直接LTE通信には端末の無線出力を上げてこれを用い、民間のLTE網が動いている環境では普通に通信すればよい。このことについては、公衆安全LTEの国際標準化を進めている3GPPのサイトに説明されているので、参考にしていただきたい。
第二に、民間のLTEに依存する場合には、ちゃんと動いているネットワークを複数社の中から選択すればよいので、堅牢性が高いこと。わが国の場合、移動通信事業者がそれぞれ2兆円前後を投資して全国網を整備している。公衆安全LTE用に、新たに別に2兆円を投資しなくても三重の安全が自然に図られる。それに、希少な無線資源を公衆安全LTEに別に割り当てる必要もない。念のために追記するが、民間通信に公衆安全通信が混在する際には、固定通信では、何十年も前から公衆安全通信が優先的に扱われてきている。いざというときに、民間通信が邪魔をする恐れは少ない。
第三に、公衆安全LTEがすでに諸外国で実用化されていること。セミナーでは、ブラジル陸軍がサッカーワールドカップ及びオリンピック開催に向け導入したこと、韓国もフェリー沈没事故を契機に構築を決定したこと、イスラエル・シンガポール・オーストラリア・ニュージーランド、米国などでも採用されていると紹介された。米国では、「FirstNet」と呼ばれる連邦政府プロジェクトが動いている。サイトにはLTEを利用していることも明記されている。
セミナー参加者からは、日本も導入に進むべきという推進論のほかに、「警察・消防等の関係機関が合意しない限り成立しないが、行政縦割りの状況下ではむずかしい」という指摘も出た。まさにその通りで、縦割りで、個別に専用網を築く20世紀流から脱局しない限り、わが国では実現不可能であり、電波の無駄遣いを続けることになる。2013年6月に米国オバマ大統領は、公共機関の無線免許についても利用効率を評価し民間に開放するとの大胆な方針を打ち出しているが、わが国でも同様の施策が求められる。