自由民主党の教育戦略は、右傾化に対する警戒感をベースに語られることが多い。報道も同様である。自由民主党教育再生実行本部は1月9日に「教育再生推進法案」(仮称)の概要を発表したという。これに対して、読売新聞は「愛国心を重視する教育基本法の理念を踏まえ、教育内容の『適正化』を図る規定も盛り込む。」と報じている。産経新聞は、同党が今年の運動方針案で「『自虐史観に陥らない』教科書の在り方など『教育再生』を引き続き重点政策」に挙げているとの記事を掲載している。尖閣・竹島を領土と教科書に明記するとの文部科学省の方針には、「領土に関する教育を強めたい自民党などの意向が背景にある」と朝日新聞は書いている。
しかし、自由民主党の教育戦略を愛国心教育だけと捉えるのは間違いである。たとえば、昨年4月に公表した成長戦略に資するグローバル人材の育成に関わる提言は、三本柱として「英語教育の抜本的改革」「イノベーションを生む理数教育の刷新」「国家戦略としてのICT教育」を掲げている。「教育再生推進法案」にも学校におけるICTの活用が明記される予定だという。
先の提言には「結果の平等主義から脱却し、トップを伸ばす戦略的人材育成」という表現がある。量産工場に働く労働者の育成を目指した20世紀型の一斉学習主義からの転換を宣言するもの、というように僕には読み取れる。民主党政権下で発表された文部科学省の「教育の情報化ビジョン」は、知識基盤社会・グローバル化・国際競争力の低下に対応するため、情報活用能力を高める教育を進めると宣言した。その後、政権交代があったが、この部分については方針に変更はなかった。
僕は昨年秋の行政事業レビューに参加し、その体験をハフポストで「全く評価されなかったICTを活用した教育学習振興事業」と題して記事にした。記事にも書いたように、総務省・文部科学省の実証実験は「ダメダメプロジェクト」なのだが、教育の情報化は知識基盤社会の中でわが国が存在感を保つために絶対に進めなければならない施策なのである。
高等教育では一流の講義をネットで配信するMOOCsがますます大きく取り扱われるようになってきた。それに対抗して日本版MOOCs(日本オープンオンライン教育推進協議会)を作ろうという動きもある。「自宅に居ながら一流講師の分かりやすい個別指導・講義・授業を受けることができます」とうたう予備校もある。教育の情報化が進み、オンラインで一流の教育が受けられる時代がすでに始まっている。初等教育でも、走るのが苦手な教員にかけっこを教わるよりもビデオで学ぶほうがよい。周辺の環境で観察がむずかしい動植物や、世界各地の気候や風土もネット経由で勉強できる。こうして、いつでもどこでも一流の教育が受けられる時代になりつつある。やる気があれば、学年を問わず高度な科目にチャレンジする個別学習が可能である。それこそが「トップを伸ばす戦略的人材育成」であり、成長戦略・国際競争力の強化につながるものだ。
しかし、教育でのICT利活用の実現には、文部科学省が本気になる必要があり、そのために政治的な力が必要である。この観点で、僕は「教育再生推進法案」に期待し、その内容を早く知りたいと思っている。幸いにも情報通信政策フォーラム(ICPF)では教育再生実行本部の遠藤利明本部長に近々講演いただくので、教育におけるICT利活用について考えを伺うことにしよう。同時に、愛国心教育以外の側面についても、メディアがもっと報道するように希望する。