知的財産を経営に活かせ

知的財産の創造・保護・活用という、知的創造サイクルを速く回すことを重点に、政府は知的財産推進計画を毎年更新している。

日本経済新聞が1月18日に「知財、経営革新に生かせ」という記事を掲載した。知的財産を活用している中小企業として、代表的な三社を紹介するのが記事の中心である。特許を根拠に資金を調達して新事業に乗り出した企業、特許に裏付けされた自社製品の品質を客観的に証明する試験方法の国際標準化に取り組んだ企業、特許アイデアを製品化するために組み立てメーカなどと連合を組んだ企業、と三つの実例はいずれも興味深い。

知的財産の創造・保護・活用という、知的創造サイクルを速く回すことを重点に、政府は知的財産推進計画を毎年更新している。この創造・保護・活用の中で、メディアの関心は保護に多く向けられてきた。アジア諸国による特許・著作権侵害は繰り返し報道されている。直近でも、1月14日付産経新聞に「米国特許取得件数、11年連続日本企業で第1位」という、保護に注目した記事が掲載された。

保護と活用のどちらを重視するかが、経営の成功と失敗に直結する場合がある。ネットを介して個人間で音楽データの交換を行う、Napsterというアプリが市場に提供され、若者の間で爆発的に流行したことがある。しかし、個人間といえども音楽の交換は著作権法違反であるため、Napsterは短期間でサービスを停止させられた。Napster騒動に対して、ソニーは音楽データのネットへのアップを抑止するコピーコントロールCDを市場化して、問題の再発を防ごうと考えた。

一方、アップルは、音楽のダウンロードができるiPodを市場化して、若者のニーズに応えた。この事例では、保護よりも活用戦略が成功した。

情報通信産業では各社の研究開発が重複しているので、類似の発明が各社からほぼ同時に特許出願されるのが普通で、特許権はもっとも早く出願した企業に与えられる。次の発明もほぼ同時に出願されるが、その特許権は別の企業に与えられる可能性がある。このような事態が重なる結果、製品化に必要な特許すべてを一社が独占することは困難になる。

特許権を保護、すなわち特許侵害を訴えるのに利用しても、相手方から同様に特許侵害を訴えられるだけなので、特許権は相互使用許諾のために活用されている。

知的財産をどう活用したら、成功するのだろうか。当然のことながら、唯一の正解などない。日本経済新聞の記事のような、成功事例から学んでいくしかない。

日本知的財産協会は2月17日に「市場創生と知財戦略 ~多様な知財でチャンスをつかめ!~」と題するシンポジウムを開催する。僕が理事長を務める情報通信政策フォーラム(ICPF)でも、キヤノンに続き、NTTドコモに特許活用戦略について話してもらうセミナーを、2月4日に開催する。

知的財産は活用しなければ、経済的利益は得られない。これらのシンポジウム・セミナーは知的財産の活用方法について考えるよい機会になるだろう。

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