ベネッセが提供する「進研ゼミ」やジャストシステムの「スマイルゼミ」のように、タブレットを使った家庭学習のCMを、最近、よく見かける。総務省と文部科学省の実証実験が成果を示せなかったのに比べて、民間の動きは急速である。そこで、情報通信政策フォーラム(ICPF)では「ベネッセの教育デジタル化戦略」と題するセミナーを開催し、お話を伺った。
紙を用いた家庭教育プログラムとして進研ゼミを提供してきたが、今春から始めたのがタブレット版である。タブレット版には、紙では実現できなかった価値が付加されている。今までは赤ペン先生が添削問題を採点してきたが、個別の質問を受け付けることはなかった。これからは、タブレット経由で受講生が質問できる。小学生には家庭学習に親が寄り添う必要があるが、「ちゃんと勉強している?」と聞いて「うん」と返事があれば、それ以上の指導はむずかしかった。タブレット版は解かないと次のページに進まないので、学習のプロセスがわかるようになっている。紙に書いた結果では筆順は判断できないが、タブレットには筆順の記録が残っている。また、動画解説で理解が深まる科目や分野があり、そういったことも配慮してコンテンツを用意しているそうだ。
中高の受講生は紙とタブレットが併用でき、小学生については、紙とタブレットのどちらに子供にとって適性があるかを、親が判断して選択する仕組みである。
総じて子供一人ひとりに合わせて適切なプログラムを提供しようという姿勢を感じることができた。行政事業レビューの際に小学校を見学したが、タブレットを持つ児童全員にほぼ一律に同じ操作をさせていたのとは好対照であった。
進研模試の規模はセンター試験(約50万人)よりも大きいが、事故なく実施されている。小学校向けの全国学力・学習状況調査(記述式問題)について、ベネッセは文部科学省から実施を請け負っているそうだが、それと同様にセンター試験も民間に実施を委ねたり、民間が提供する試験を利用するように変えたほうが、効率的ではないか。すでに、自由民主党の教育再生実行本部は、大学入試でTOEFL等を受験資格にすべきとの提言を行っているが、その先に、他の科目についても民間活用の可能性を検討してほしい。
進研模試は生徒の進路指導に当然利用されるのだが、同時に、教員の日々の授業改善にも役立つという話も興味深かった。高校では各学年10クラスくらいあるため、同じ学年の同じ科目を複数の教員で担当するのが普通である。そこで、学年別・クラス別・教科別の模試成績を見ると、教員個々の指導課題が見えてくるというわけである。
公教育だからとすべてを公に委ねるよりも、民間の教育産業の知見を活用したほうがICTの利活用は進む。「進研ゼミ」や「スマイルゼミ」は、効果が上がらなければ保護者は契約を切るに違いない。そんな市場からの厳しい眼の下で、教育効果は定量化され、課題が見つかれば急速に改善が進むだろう。