12月6日(火)に開催される「女性の「自分らしさ」と「生きやすさ」を考えるアクションプランニング」(朝日新聞社WEBRONZA主催)の開催にあたり、ゲストにお招きしたライターの小川たまかさんとのイベント前企画として事前対談を行いました。今回はその様子をお届けします。小川さんは痴漢や性暴力の問題について取材を続けていらっしゃいます。
勝部「もうすぐ2016年が終わろうとしていますが、また性暴力に関連する暗いニュースが相次いでいますよね。特に、慶應大学(依然捜査中ゆえに事実は不明)、千葉大学、近畿大学と、大学生による性暴力の事件が相次いで発覚しています」
小川「被害を警察に訴えた女性たちは、本当に勇気が必要だっただろうと思います。性暴力は被害を訴えない人が非常に多く、無理やり性交された経験を持つ女性のうち、警察へ連絡や相談を行った人はわずか4.3%という調査もあります(平成26年度内閣府「男女間における暴力に関する調査」)。加害者は、被害者が簡単に被害を訴えられないことにつけこんで加害することもあります。暗数がとても多いです。
今回の事件を聞いて、中には『あんなことは大学ではしょっちゅう起こってる』と言う人もいました。悔しい思いをしていても、恐怖から訴えられなかったり、『お酒を一緒に飲んだ私も悪かった』と思い込んでしまって沈黙する人も多いのだと思います。
ツイッター上で、同じ大学生たちが被害者のことを『レイプされに行ったやつ』とか中傷したりしているのを、何度も見かけました。セカンドレイプ(二次被害)ですね。こういった中傷も、被害者を委縮させ、訴えづらくさせる要因の一つです。被害者への中傷は、加害者の肩を持つのと同じであり、加害者を野放しにするのに加担する行為かもしれない、ということが、もっと知られてほしいです」
勝部「被害者の視点に真っ先に注目する小川さん、さすがですね。ハッとさせられました。暗数の多さは本当に驚愕してしまいます。「日本は性犯罪が他国に比べて少ない」と誤解している人がかなりいますが、単純に見えていないだけ、かつ見えても不起訴になることも多く犯罪としてカウントされないだけなんですよね。
WEBRONZAの連載の第二回でも指摘したのですが、とりわけパートナーの男性ですら過去に相手の女性が性被害に遭ったことを知らない人が多いことが、非常に残念です。女性が「嫌われるから言い出せない...」というのは分かるのですが、それって結局はその男性が「そんなことじゃ嫌いにならないよ!」と相手に思われていない、つまり打ち明けられるほど信頼できる相手ではないって思われていることですよね。それはとても悲しいこと。もちろん「君は性被害にあったこと無いの?」なんて聞くのは言語道断ですが、男性には是非日ごろから「性暴力反対!被害者は100%悪くない!」と言い続けて欲しいです。それで勇気づけられる人がたくさんいるはずですから。
それから「性被害=レイプだけ」だと思っている人も多いですし、女性自身も痴漢は性暴力ではないと誤解してしまっている人も多いですから、日本では「性に関して自分が望まないことをされること全て=性暴力」という認識が不足していると常々感じています」
小川「以前、被害者へのカウンセリングを行っている心理士の方から、性被害は、最初に打ち明けた人がどういう対応を取るかが、被害者のその後の回復に影響しやすいと聞きました。たとえば、最初に打ち明けた人に「あなたは悪くない」と言ってもらえるかどうか。「それ本当なの?」「君にも隙があったんじゃないの?」と責めたり、「減るものじゃないし」「忘れればいいこと」など被害を軽視するような言葉は、被害者をさらに深刻に傷つけます。
「性犯罪なんてドラマの中だけのことじゃないの?」と思う人もいるかもしれないけれど、実はとても多い。女子大生のうち38.3%は痴漢被害、6.1%は性的行為の強要を受けたことがあるという調査結果もあります(2011年「青少年の性行動全国調査報告」日本性教育協会)。もしパートナーなどから被害を打ち明けられたら、疑わず責めず、安心させてあげてほしいです。パートナーが性被害に遭った男性同士で、どうパートナーを支えるかを語り合うような取り組みを行うNPO法人もあります。
また、上に挙げた調査では、男子大生のうち6.4%が痴漢被害、2.3%が性的行為の強要を受けたことがあると答えています。男性の被害もあるということも忘れてはいけないと思います」
勝部「本当にその通りですね。その一方で、たとえば"Chikan"で通用するほど日本には痴漢があふれていて、とりわけ電車内は本当に被害が後を絶たないので、一部の鉄道会社では苦肉の策で女性専用車両を導入していますが、これに対して「男性差別だ!」と言っている人たちが残念ながら本当に多いです。
東京大学が女子学生に対して3万円の家賃補助をするということがニュースになった際にも、「男性差別だ!」の声が凄まじかったですね。私も「安全な暮らしということに対して見えている世界が男女でこんなにも違う」という内容の記事を女子SPA!で書いたのですが、転載されたヤフコメでは男性差別だというコメントの嵐でした。
社会におけるVulnerability(=脆弱性。ただし自己責任的な弱さではなく社会構造上の脆弱性が存在するというニュアンスが含まれる)という概念をどうして理解ができないのか、どうして理解しようとしないのか、いつも不思議に思ってしまいます」
小川「私は、女性専用車両があるのは恥ずかしいことだと思っています。性被害を防ぐために、そんなもので人と人の断絶をつくらなければいけなかった状況が恥ずかしいですよね。現状ではまだ被害があり、女性専用車両があるから安心して通勤・通学できるという人がいるから、必要です。でも本当なら、そんなものがなくても被害はない状況が望ましい。
カフェでトイレに行くとき、日本はバッグを席に置いていっても盗まれない国と言われます。それなのにどうして、電車では性犯罪をする人がいるのでしょうね。
女性専用車両が男性差別っていうのは、実際にはごく一部の人がそう言っているだけだと思いたいのですが、ちょっと想像力に欠けた視点だなと思います。でも、それだけ男性と女性の見えている世界が違うということ。実態を知って「そんなことがあるのか」と真剣に考えてくれる男性も多いので、自分の経験を話してみることも大事だと思っています」
勝部「自分の見えていない世界を想像して、共感でなくても受容できる、そんな素敵な男性がもっと増えて欲しいですね」
◆後半では問題意識が芽生えた背景等もお聞きしました
勝部「そもそも、小川さんはなぜ痴漢を含む性暴力の問題を取り上げようと思うようになったのですか?」
小川「もともと女性の働き方とか、待機児童の問題とかを取材していて、そういった記事を書くだけでも、「子どもができてからも働きたいなんてわがまま」とか反発が結構あったので、性暴力の問題を書き始めたら、相当反発があるんだろうなと、ちょっと腰が引けていたところがありました。
でも昨年の1月に、60歳代の女性の7割が女性専用車両に賛成しているという調査結果に対して「痴漢も相手を選ぶと思いますがね」と書いてプチ炎上した記事を読んで、「もう怒りの限界がきた!」みたいな感じでした。同じ犯罪でも、たとえばオレオレ詐欺とかスリに遭わないように気を付ける人に対して「泥棒も相手を選ぶと思いますがね」とか言って、わざわざ犯罪者の肩を持ったりしないですよね。
当時の私のように、嫌だな、変だなと感じていても、あと一歩のところで言葉にできていない人も多いと思うので、少しずつ講演会とか、署名とか、発信で、「それって怒っていいこと」っていうのを伝えていくのは大事なんだろうなと思っています」
勝部「昔から問題意識はあったのですか?」
小川「高校生の頃とか痴漢に遭ってとても嫌だったのですが、その時はまだ問題意識は持っていなかったですね。問題意識がなかったことが問題だったと今になっては思いますが、当時はあまりにありふれていて、それが普通だと思っていましたから。
でも大人になって制服を着なくなったら遭う回数が減って、「あれってやっぱり異常だった」と思うようになりました。小学生や、制服を着ている中高生を「子ども」「守る対象」と見ている大人も大勢いるけど、一方で一部の性犯罪加害者は子どもであることや、制服を着ていることから「弱さ」や「未熟さ」を読み取っているのではないかと思います。弱くて抗議しなさそうだから狙う」
勝部「なるほど、とても安易なたとえになってしまって申し訳ないのですが、まとめると「花粉症」みたいな感じなのですね。長年蓄積した「おかしいんじゃないの?」というものが、一線を超えて以降一気に噴き出したというか。
「それって怒っていいこと」を伝えられるというネットメディアの側面は、これまでそれを伝えられる機会の少なかった既存メディアには無い良い点だと思うので、どんどん声を大きくしていきたいものですね!」
小川「あ、まさにそんな感じですね! 姪や甥が大きくなっていくのを見たり、自分が30代になったり、結婚したりする中で、社会や子どものために何かして当たり前だよね、って思ったことも大きいです。 10代や20代の頃に自分のためにもっと怒っても良かった、もっと自分を気遣ってあげれば良かった、みたいな後悔がやっぱりあるので、同じような思いは若い人にしてほしくないですね」
勝部「社会や子どものために何かして当たり前というのは本当にそうですよね!先日、認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんが「ストレートアライ(同性愛差別に反対する異性愛者)」をもじって、子供がいないけれど子育てに対して意識が高く支援をする人々のことを「子育てアライ」と名付けていたのですが、大人になったら皆が自然と「子育てアライ」になれるようになると、社会はもっと良くなるのかもしれません。
私は独身で子供いないですが、子育てアライでありたいと思っています。そして個人的にはネクストステージとして、その怒りの声を今度は何か具体的な形に変えて行きたいと思うんですよね。社会はなかなか変わらないので、自分たちが何かのアクションをすることで、前進させたい気持ちでいっぱいです。
メディアは社会問題を掘り起こして言語化して世論を作るという形で社会問題の解決に貢献できるものですが、これからのソーシャルメディアの時代はその後のソーシャルアクションを作ることにも貢献できるのではないかという気持ちが強くて、今回のイベントも組んでみました」
小川「具体的にはどんなことを考えているのですか?」
勝部「前半では「読書会」や「哲学カフェ」を参考に、少人数で密度の濃い意見交換を行います。後半のワークショップでは、前半の議論を踏まえた上で、問題を解決するためのアイデアを出し合う「アクションプランニング」を行う予定です。
たとえば、一緒にコーディネーターをして頂いているChange.orgの武村若葉さんのアドバイスのもと効果的な署名運動の展開を作り出せるか検証したり、 朝日新聞社のクラウドファンディング「A-port」を利用したりして、「実際にアクションにつなげられる仕組みはあるか?」等について議論していきます。
初回のテーマは痴漢を含む性暴力の問題なので、問題意識の高い自治体と一緒に集中的に取り組んで「痴漢ゼロ都市宣言」キャンペーンの実施や、イギリスの警察が作った性暴力啓発動画のように真面目だけどシュールなコンテンツを作ってデジタルサイネージで使ってもらうというのもアリかもしれません。痴漢反対ポスターのコンテストを開いて最も質の高いものを勝手に表彰するのも面白そうです。全てジャストアイデアですが、こんな感じで何か自分たちにできることを探って行きたいと思っています」
小川「それは面白そうですね!当日が楽しみです。性暴力は、そもそも被害が表面化しづらく、被害者が語りづらい。だから実態が知られづらいという問題があります。そして実態を知り、問題意識を持った人でも「じゃあ、一体何ができるんだろう?」「問題が深刻過ぎて、自分にできることがあるかわからない」となりやすい。
だから、実態を伝えるとともに、問題意識を持った人が、その問題意識を具体的な行動に変えるための方法についても、記事やワークショップで伝えていければいいなと思っています。被害者支援の団体はたくさんあるし、関連する署名活動やクラウドファンディング、イベントも実はたくさん行われています。
まずはそういうところに出向くのでもいいし、イギリスの警察が作った啓発動画のような素晴らしい作品をインターネット上でシェアするのでもいいと思います。ネット上でシェアされていた、レイプに使われる薬を感知するネイルが開発されたという記事も興味深かったです。テクノロジーや心理学や表現がどんどん進化していく中で、加害抑止や防犯のためのアイデアは、絶対にもっとあると思います。そのためにも、多くの人と一緒に考えたい。
性犯罪・性暴力って、法律にしても、世間の認識にしても、被害者への支援にしても問題が山積みだし、実際に起こっている事件も深刻です。でもだからこそ、たくさんの人で話し合って、知恵を出し合っていくことが必要なんじゃないかなと思っています」
勝部「その通りですね!課題だらけだからこそやれることもたくさんある。少しずつかもしれないですが、力を合わせて希望を見いだしていければ良いなと思っています」
実際にこの後、打ち合わせでは様々なアイデアが出てきました。イベント当日はさらに来場者とともに机を囲んで、様々な意見交換から実際のソーシャルアクションに繋がりそうな「種」を探していければと思っています。
Author 勝部元気(Katsube Genki)
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『恋愛氷河期』(扶桑社)
(2016年11月28日「勝部元気のソーシャルアップデート論」より転載)