前回と前々回に引き続き、3月19日に行われるイベント「女性の「自分らしさ」と「生きやすさ」を考えるクロストーク」(朝日新聞社WEBRONZA主催)の開催にあたって行われた「Change.org」の武村若葉さんとの事前対談を書いていきます。今回はライフステージが変わるごとに女性がぶつかる壁について話が展開して行きます。
勝部元気(以下勝)「色々なところで口酸っぱく言っていることなのですが、道徳的に「自分がして欲しくないことは他人にしてはいけない」という当たり前のことを、ジェンダー規範が平気で超越してしまうケースが多々あると思っています。
たとえば夫婦同性。多くの男性は自分の苗字は変えたくないと思っているのですが、相手の女性が変えるのは、「女性だから」「これまでそのようにしてきたのがスタンダードだから」という理由で、大して問題視はしません。だから幼い頃に道徳を学ぶと同じ時に、ジェンダー平等についても学ぶ機会を設けなくてはならないなと常日頃感じています」
武村若葉(以下武)「私もジェンダーの問題に最初に直面したのは夫婦同姓の問題でした。自分が結婚するにあたって、「苗字を変えなきゃいけなくなるんだ」という気持ちでしたね。その前から何となく女性のほうが不利っぽいという雰囲気は感じていましたけれど、強く当事者意識を持ったのは、結婚のタイミングでした」
勝「私の知人・友人でも、学生時代にジェンダー論やフェミニズムを専攻していたわけではなかった女性がライフステージの変化で壁に直面して、問題意識を強めたという同性代は本当に増えていると思います」
武「男性よりも女性のほうが、ライフステージが変わるごとに環境の変化にさらされることがすごく多くて、10代よりも20代、20代よりも30代と、歳を重ねれば重ねるほど、世の中で女性がぞんざいに扱われて良いんだということがどんどん分かって来ると思うのです。
でもなぜ30歳になるまで意識しなかったかと言うと、小学校で社会的性差の問題について話さないということもあると思うのです。性差について話すのは、性教育で女性には子供ができますよ、生理がきますよ、くらいのことだけ」
勝「社会的性差を教えることで女子生徒が絶望してしまったらマズイので細心の注意を払う必要がありますが、確かに直面してから悩むという現状にはメスを入れるために事前に知識として知ることは重要かもしれないですね。ただそんなことをしたらきっと若いうちから日本を脱出するプランを立てる女性が今の10,000倍くらいになると思うので、文部科学省がOKを出すことはなさそうです...」
武「あぁ...確かに...」
勝「ただ、日本って形だけはわりと進んでいると思うんですよ。たとえば、男女混合名簿も8割くらいに達していると言われています。育休の規定等もアメリカよりしっかりとしているように、ハード面に関してはまだまだだとは思うんですけど、ある程度は整備が進んでいると思うのです。その一方で、ソフト面が本当に遅れている」
武「ハード面がしっかりしているほど、ライフステージを進んでいかないと気が付かないんですよね」
勝「それが非常に厄介なんですよね。じんわりとある女性の生きづらさの根源が、小さい頃にはなかなか分かりにくい。痴漢の問題でモヤモヤすることはあっても、それを感じないで大人になれば、なかなか日本の女性差別に対する根幹を目の当たりにする機会は多くありません。
就活の壁、昇進の壁、結婚の壁、出産の壁、育児の壁、復職の壁、そのような壁にぶつかって初めて、日本は男女平等ランキング世界101位であるという実態に直面するんですよね」
武「小中高での痴漢に関しては、問題に対してしっかりと対処してくれる大人に出会える確率が少ないということが問題だと思っています。だから子供たちは、「しゃべっちゃいけないんだな」ってなって、これほどまでに痴漢という現象が固定化されてしまうんだろうと。手を出された側が落ち度があったと責められ、責任が発生するという状況は本当に意味が分かりません。何でそうなってしまうんですかね?」
勝「男性はオオカミだと言われるように、性欲を抑えつけられない存在だから仕方ないという決め付けがあると思います。それは当たり前のことだから女性は予防しなければならないとなるわけですが、それは男性に対しても侮辱ですよね。皆が皆、アンコントローラブルなわけではなくしっかりと管理できる男性もいますし、そもそもそのような一方的に性欲をぶつけたいという願望を持たない男性もたくさんいますから。
それから、男性たる自分は性的に満たされて当然の権利があるという「male sexual entitlement」の考えも根強いですね」
武「なるほど」
勝「あとは、前にも述べたように、そういう男性にとって守るべき存在は貞操なので、性被害に合った瞬間守るべき対象から外れるわけです。手を出された女性に関しては貞操的な価値が無くなるとみなしているので、被害者のケアに動こうという人は極端に減ってしまうわけです」
武「もう理解を越えていますね」
勝「処女崇拝は本当に気持ち悪いです」
武「でもそれって女性の人としての価値が性的な基準で評価されているってことですよね? そういうところに疎外感を感じてしまうんですよね」
勝「疎外感ですか?」
武「その人がどういう言動や行動をしたかは全く関係なく、処女かどうかが男性にとっての魅力ということじゃないですか。自分の努力や、「こういうことを達成したい」という生き様が、全く相手の評価に影響を及ぼさないので、すごく寂しいですよ」
勝「人としての存在意義が正当に評価されないということ、つまりいかなる評価も処女か否かという選別が全てを凌駕してしまうということですね」
武「はい、そこが非常に寂しいです」
勝「本当はジェンダーの問題を解決するにはフェミニズムと同時にメンズリブが必要だと思っています。そうしないと加害をする人は減らないですから。そもそも差別する人や処女崇拝に陥る人というのは基本的に弱い人だと思うんです。弱いからこそ男性という属性に依存するわけですし、弱き自分よりさらに弱いと思われる処女に限定するわけです。
ですが、自分たちが有利に立っていると勘違いしているから、「メンズリブが必要ですよ」と言っても、「別にそんなもんいらねぇよ」ってなってしまうんですよね。そういう上下思考そのものが問題なのですが...」
武「確かにフェミニズムにはfemaleという言葉も入っていますが、その精神は男性も男性らしさに縛られず自分らしくあるという意味も含まれていると私の中では捉えています」
勝「セクシャリティーや価値観が多様化している中で事態はかなり複雑化しているので、フェミニズムとメンズリブの境界線をキッチリと分けることの意味があまり無くなってきていると思いますね」
第四回につづく
「女性の「自分らしさ」と「生きやすさ」を考えるクロストーク」概要
●日時:3月19日(土) 14時~ (開場13時30分) *終了は16時の予定です
●会場:朝日新聞メディアラボ渋谷分室
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目19?21 ホルツ細川ビル4階(明治通り沿い。JR渋谷駅、地下鉄渋谷駅から徒歩5分。地下鉄ですと13番出口が便利です)
*ベビーカー可。託児所はありませんが、畳敷き(3畳ほど)、絨毯のスペースはあります。
*飲みものが必要な方はご持参ください。
*館内は禁煙です。
●参加料:無料
●申し込み: http://t.asahi.com/womanlife までアクセスしていただき、お申し込み下さい。
*必要事項とアンケートにお答えください。当日の参考にさせていただきます。
*応募多数の場合は抽選のうえ、当選された方にのみお知らせします。
*当日のトークを踏まえて、後日、WEBRONZAとハフィントンポスト日本版で関連記事を配信する予定です。
●主催:朝日新聞社 WEBRONZA
●問い合わせ先 WEBRONZA編集部
webronza-m@asahi.com
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