インターネットを知識データベースへと進化させる技術
インターネットの登場は、人類の歴史が始まって以来はじめて、あらゆる人がひとつのネットワークでつながるという革命的なインパクトをもたらしました。
いま、そのインパクトに匹敵するほどの革命的な技術が、世界中の注目を集めています。
それが「LOD(Linked Open Data)」です。
LODとはデータを誰にでも利用できる形式で公開し、すべてをリンクさせていく仕組みのことです。これにより、インターネットをこれまでとはまったく異なる"知識のデータベース"へと進化させていきます。
その先に見えてくるのは、Webサイト上のテキストや画像、音声などのデータを活用し状況や人の感情に応えることができる人工知能の存在です。
いつの日か人工知能を備えたロボットが私たちの生活を助けてくれるという、SFのような未来が実現できるかもしれません。
情報のLOD化は、そのような人工知能の実現にもつながるという、大きな可能性を持っています。
■研究者インタビュー
Web全体を巨大なデータベースとして扱う
各国首脳がG8サミットで「オープンデータ憲章」に合意するなど、オープンデータ化への取り組みが進められ、それに合わせて世界各国の政府や自治体、学会からメディアに至る様々な分野の情報をオープンデータとして公開するという動きがすでに浸透し始めています。
LODは、様々な情報をコンピュータが処理しやすいデータ形式で公開、データ同士を相互にリンクした、誰でも二次利用できるオープンなデータネットワークです。これによって、インターネット全体をあたかもひとつのデータベースのように扱い、いまのWebサイトをはるかに超える高度な検索を行うことが可能になります。
現在のWebサイトは、テキストやCSV、PDFなどの人間が読んで理解するために作られたデータで成り立っており、機械的なデータ処理を行うのは困難です。
例えば「従業員あたりの利益率が世界で最も高い会社」を調べるには、ユーザー自身が「従業員数」「利益率」「世界一」などのワードから検索を重ね、その内容を収集・比較することが必要です。また、人が検索をするため、Webサイト上のすべての情報を確認することは難しく、重要な情報を見落とす可能性もあります。
対してLODは、関連したデータ同士が幾重にもリンクしたひとつながりの構造体となっており、そのすべてのデータを一括で機械処理することが可能です。
これにより「従業員あたりの利益率が世界で最も高い会社」とひとつの文のまま検索するだけで、従業員数や利益率についてまとめられたデータ群から、正確な結果を提示されるようになるのです。
現在、イギリスのある公共放送局では、1日に1000以上にもおよぶ番組のデータを管理し、知りたい番組の情報がどこにあるのかをすぐに見つけられるオンラインプラットフォームとして、LODを利用しています。
富士通の「LOD活用基盤」にできること
LODの活用には、すぐれた検索技術の開発が欠かせません。しかし現在はまだ、世界中の公開データがリンクされておらず、その活用まで至っていない状況です。また、無数のデータを組み合わせた複雑な処理を行うための、高いデータ処理能力も必須です。富士通では、他社に先駆けて実社会における利用シーンを想定したLODの活用方法や技術開発に力を注いでいます。
■利用シーン研究
利用例1:LODを活用した企業分析(金融業)
世界中の企業情報を、業種や従業員数などの基本情報から、売上高や利益などの財務情報、株価などの金融データ、さらに新聞記事などのメディア掲載情報に至るまで、求めている情報に関連した複数のデータを瞬時に取得。微細な情報まで漏らすことなく、企業業績を多角的に分析することが可能になります。さらにデータの規格化により都度の作業を簡略化。分析データの更新や差分の比較にも素早く対応できるなど、ビジネスにイノベーションをもたらします。
利用例2:LODによる地域振興(地方自治体)
地方自治体や地域住民と連携して、観光にまつわる情報をLOD化し、観光情報サービスを展開。有名な観光スポットだけでなく、移動ルート周辺の穴場観光スポットなど、地域の隠れた魅力を提供することで観光客の増加や観光資源の有効活用、地元産業の活性化などに貢献します。
■独自開発によるLOD検索技術
LODの活用には、複雑で膨大な量のデータを高速に処理する技術の開発が欠かせません。富士通は、LOD研究のトッププレイヤーであるアイルランドの研究機関INSIGHT CENTRE(旧名称:Digital Enterprise Research Institute)との共同研究を実施。高速な一括を実現する新たな基盤を開発し、その成果を世界に先駆けて公開しています。
世界各所でLOD化が進められているものの、現状では各データ間がリンクがされておらず、探したいデータがどのWebサイトにあるのかわからないという問題があります。中には検索機能を備えていないWebサイトもあり、すべてのLODデータを検索するのは困難な状況でした。
これに対して富士通では、INSIGHT CENTREとの共同開発により数百億項目にもおよぶ世界中のLODデータを一箇所に格納することで、個々のサイトを探し回ることなく、情報を一括で検索できる方法を確立しました。
同時に、データ同士がリンクした構造体を検索するには、複雑な突き合わせ処理が必要で、検索に時間がかかるという問題に対しても、従来比で5〜10倍の高速検索を実現しています。
LODがもたらす未来の生活
LODは、社会や産業など、私たちの暮らしやビジネスを支えるたくさんのデータを誰でも利用できるかたちで公開し、相互につなぎ合わせていくことで、インターネット全体を巨大な"知識のデータベース"として役立てようとする仕組みです。
今後、さまざまな情報を集約することで、最先端の研究だけでなくビジネスやプライベートなど、暮らしのあらゆるシーンに役立つ情報の共有や分析が大幅に向上するでしょう。
さらにその先には、進化し続けるデータ活用技術と、人間の感覚を読みとるセンシング技術が融合することで、人々の意志や感情を汲み取って行動する人工知能を搭載したロボットなど、人の気持ちに深く寄り添うサービスまで実現するかもしれません。
人にやさしく、暮らしに寄り添うICTの力で、新しいサービスや価値が生まれる豊かな土壌を創り出し、誰もが幸せな社会を実現していくために。
富士通は、今後もLODの開発に取り組みながら、これからのビジネスや社会の発展に貢献していきます。
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