10月8日から10日の3日間、コンピューター将棋の熱きバトル「第4回将棋電王トーナメント」が行われました。
大方の予想通り、昨年の覇者Ponanzaが強さを発揮して連覇。賞金300万円と「電王」の称号が与えられるとともに、来春の第2期電王戦への出場権を獲得しました。
なお、対局相手のプロ棋士側は、現在行われている第2期叡王戦によって決定します。
ディフェンディングチャンピオンとして臨んだPonanzaの開発者・山本氏と下山氏は、今大会ギリギリまで調整したそうです。コンピューター将棋界は、Bonanzaが2009年にオープンソース化したことで、さまざまなコンピューター将棋ソフトが登場。
さらに、近年も平岡氏率いる「Apery」や出村氏の「技巧」、磯崎氏の「やねうら王」がオープンソース化。これらを基に、初出場でもかなりの成績を残すソフトが増え、群雄割拠の時代に突入しています。
コンピューター将棋の進化は、評価関数の調整はもちろんですが、局面ごとで最適解が得られるよう、どのように学習させるのかが肝になってきています。それには、マシン性能に比例した時間との戦いです。
学習の仕方があまりよくなければ、それにかけた時間が無駄になってしまいます。いかに効率よく、正しく導くかが開発者の腕の見せ所です。
電王トーナメントは、マシン性能が統一されているので、完全にプログラミングの勝負です。それぞれのプログラムの本質が見えてくるだけにごまかしが効きません。
常連となった開発者たちが、打倒Ponanzaを掲げる中、迎え撃つPonanzaも、どうしたらより強くなるか、試行錯誤の毎日だったようです。その結果、前回の電王戦に出場したソフトに対し、今回のバージョンは約9割勝てるまで強くなったそうです。これはかなり衝撃的な数値です。
▲「勝ちたいです」と言い続けてきたPonanzaの開発者・山本氏(右)。
初日の予選の結果は以下のとおりですが、昨年の電王トーナメントで2位だった「nozomi」、5位だった「技巧」、電王戦常連だった「習甦」や「ツツカナ」といったソフトが大苦戦。ツツカナや技巧は決勝トーナメントすら進めずに終了してしまいました。
逆にPonanzaは全勝。続いて「浮かむ瀬(Apery)」がPonanzaにだけ負けての2位で予選を通過。「真やねうら王」、「大将軍」、「Selene」など昨年も予選を通過した強豪ソフトの中に、「読み太」、「たこっと」、「†白美神†」などといった新顔が進出しました。
▲第4回電王トーナメントの予選結果。
決勝トーナメントは、Ponanzaと真やねうら王、浮かむ瀬が順当に勝ち進み、読み太が初出場ながら準決勝まで勝ち進む快挙。5位決定戦は、Selene、たこっと、Qhapaq、大将軍の4ソフトがトーナメントで決まることになりました。
読み太は、やねうら王の学習部分をベースにほかの評価関数を実装。Stockfish7 の探索部をベースに改造し、機械学習にも取り組んでいるソフト(PR文書)。オープンソースを活用して急成長を遂げた形です。
準決勝は3戦し2勝したほうが次へ進めます。Ponanzaと真やねうら王の対戦は、2勝したPonanzaが決勝へと進みましたが、相入玉し真やねうら王が251手目で宣言勝ち(入玉のルールはこちらを参照)を納めたのが、今大会唯一Ponanzaが1敗を喫した戦いになりました。
Ponanzaは順調に評価値を稼いでいましたが、途中から下落しマイナス評価へ反転する珍しい展開でした。コンピューター将棋でもまだ逆転は十分ありえるということでしょう。
▲今回唯一Ponanzaを追い詰めた真やねうら王。
一方、浮かむ瀬と読み太は、浮かむ瀬の3勝で決勝に進出。「浮かむ瀬」は今回も命名権をヤフオクのチャリティーオークションに出品し、落札した方に決めていただいた名前です。落札額はなんと89万1000円でした。
また、機械学習では数十億単位の局面数を相手にするため、相当なリソース(マシンパワー)が必要で、それを解決するために専用ツールを用意。みんなにツールをインストールしてもらい、実行してもらうことでボランティアによる評価関数を鍛えるための計算をしてもらいました。これにより成果を上げたようです(PR文書)。
今回特別賞が新たに制定されましたが、このボランティアによる強化作戦が評価され、浮かむ瀬が受賞しています。
▲宿敵Ponanzaには今回4戦4敗だったが、ボランティアの活躍次第では今後期待できるかも。
この結果、決勝はPonanzaと浮かむ瀬との戦いに。打倒Ponanzaを叫び続けている平岡氏ですが、序盤から中盤まではいい戦いをしているものの、途中で一気に崩れていくパターンが多く、結局1勝もすることができませんでした。
ただ、浮かむ瀬はPonanza以外は全勝しており、今後も打倒Ponanzaを目指して頑張ってほしいところです。
最終順位は、
優勝 Ponanza
2位 浮かむ瀬
3位 真やねうら王
4位 読み太
5位 大将軍
となりました。
▲Ponanzaの安定した強さは、見ていても怖いくらい。
今回見ていて思ったのが、入玉する対局がいくつかあった点。入玉と言えば判断が難しいため人間側が指すことが多く電王戦でも何回か行われています。最新の機械学習によって、入玉に対する評価が変わったということなのでしょうか?
磯崎氏が「2駒を交換して、別の局面のデータをつくって学習している」とのことで、これにより中段に玉がいるときの評価精度が上がり、ふわふわした局面でもいけるようになったとのこと。近年はすでにプロ棋士の棋譜だけでは学習にならないため、自分自身の棋譜を含め教師を何にするかがポイントとなってきています。
また、今回上位のソフトは定跡を逆に入れていないという傾向にあるといいます。もはや、常識にとらわれない指し手を引き出すために、人間の常識は逆に排除しているのかもしれません。
今後もより一層人間では発想できないような指し手を繰り出し、人間がそれらの棋譜を見て教わる立場になるでしょう。まだまだ開発の余地は残っていると思うので、今後ますます人間離れした世界に突入するかもしれません。
▲最終日の解説は西尾明 六段(右から2人目)、聞き手は藤田綾 女流二段(右から3人目)。聞き手も解説も慣れているので、わかりやすくおもしろかった。
優勝はPonanzaとなりコンピューター側の電王戦出場選手は決定しました。一方、プロ棋士側は叡王戦の決勝トーナメントの真っ最中で、本日10月11日も深浦九段と豊島七段などの対局があります。
注目の羽生九段は山崎叡王を下して準々決勝に進んでおり、Ponanzaと対局するのは誰になるのか、興味深いところです。
(2016年10月11日 Engadget日本版「将棋電王トーナメントPonanzaが連覇。コンピューター将棋界の進化が止まらない」より転載)
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