NASAが予告していた「火星に関する重大発表」は、火星に現在も液体の水が存在することを強く示す根拠の発見でした。
今回の発見についての論文は、Nature Geoscience に掲載された " Spectral evidence for hydrated salts in recurring slope lineae on Mars " (Lujendra Ojha他)。概要をものすごく乱暴にまとめると、
1. 探査機 Mars Reconnaissance Orbiter が撮影した写真から、特定のクレーターの斜面に、火星が暖かい季節に現れ、寒い冬には消える暗い「線」が見つかった。(これが " recurring slope lineae " 、R.S.L、「繰り返し現れる斜面の線」)
2. 数年分の観測でも地形そのものは変わらず、地表を水が流れているわけではないらしい。滲みでた水でコンクリートが黒く見えるように、地下に流れる水が地表の色を変えているのでは?との仮説。
3. 実証するため、Mars Reconnaissance Orbiter に載せたスペクトロメーターを使い、さまざまな手法を考案し組み合わせて、「線」を部分を分析。
4. 結果、過塩素酸マグネシウムなど、塩水の存在を強く示唆する物質があることが判明。
といった内容です。火星の気温は赤道近くの夏の昼間で最高摂氏20度程度と低く、中緯度では平均して昼間でも最大摂氏0度〜夜にはマイナス50℃程度ですが、塩分を多く含む水は凝固点が下がるため、地下に濃い塩水が流れている可能性が示唆されています。
従来の観測では、火星にはかつて川が流れ大きな湖や海もあったと考えられており、また氷の存在も判明していましたが、現在も液体の水があるかどうかは分かっていませんでした。
今回の発表も「液体の水を発見した」と断定はしていませんが、数億年前でもなく数百万年前でもなく、いま現在も火星に液体で水が存在することを支持する強力な根拠である、と著者らは主張しています。
これまでNASAが定期的に予告してきた「重大発表」は、フタを開ければ専門的すぎて一般には重大さが伝わらなかったり、専門家でも重大かどうか意見が分かれるような微妙な内容がたびたびありました。しかし今回は分かりやすく、インパクトのある発見です。
水の存在からは生命の発見も期待しますが、今回の論文の著者らの仮説が正しい場合、地下を流れる水は氷点下でも液相を保つ濃い塩水であると考えられるため、微生物の生存は難しいだろうとの予想もあります (たとえばリンク先 NY Times に答えた NASAの宇宙生物学者 Christopher P. McKay 氏など)。
穴を掘ったりサンプル分析もできるローバーや無人探査車を今すぐに向かわせて調べれば良いのに、とも思えますが、仮に地形的に近寄ることができたとしても、現在のローバーは地球由来の微生物を完全に殺菌できていないため、NASAは火星(のサンプル)を汚染する可能性を考慮し、敢えてローバーを向かわせていません (完全に滅菌するほどの高温に晒しても壊れない電子機器の開発などが必要となり、費用が極めて高くなるため)。手軽に掘り返してサンプルを覗くわけにもいかないのがもどかしいところです。
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(2015年9月29日Engadget日本版「NASAの「重大発表」は火星に液体の水の存在を示す発見。現在も地下水流の高い可能性」より転載)