ネットで勇ましい差別発言を繰り返していた人物が身元を特定されて社会的制裁を受ける人体発火事件はもはや風物詩ですらない日常になりましたが、こうした「ネット発言のリアルな帰結」を広く問いかけるキャンペーンがブラジルで反響を呼んでいます。
写真の看板は、プロフィールアイコンと名前こそモザイク処理してあるものの、実在のネットユーザーが投稿した人種差別的内容のツイート。ブラジルの反差別グループCriolaはジオタグ等から発言者の自宅を特定し、近隣の看板を借り上げて大きく掲示することで、「実生活でいきなり自分のネット発言を目撃する」恐ろしい作戦を実施しました。
Criola はアフリカ系女性の権利を守るブラジルのグループ。今回のリアル看板キャンペーンは、ブラジルの大手テレビ局で黒人女性として初の天気リポーターになったジャーナリスト Maria Júlia Coutinho 氏に向けたネット上の差別発言が相次いだことに対して、広く抗議するために実施されました。対象はひとつの発言ではなく、ブラジル各地で同時多発的に実施されています。
ジオタグでの住所特定と聞くと、身元を晒して勤務先の電話とメールをパンクさせる系の報復合戦を連想しますが、Criolaによれば目的は発言者本人よりもむしろ、看板に目を留める周囲の人々にも想像してもらうこと。
住所そのものを本人の意志に背いて公開するのはいかにヘイトスピーチと戦うといえど法的にややこしい問題がありそうですが、キャンペーンのサイトに掲載された例を見る限り、どうやら場所の正確さは発言者がネットで公開した地名レベルまで。同じ町レベルで、たまたま協力を得られた看板のある場所に掲示しているようです。
発言そのものは掲載されていても、プロフィールアイコンや名前はフィルターが掛かっており、本人が見たらぎょっとする、周囲の人々は検索すれば辿れるかも、といったところに留められています。
こうした差別発言をする人には、近所で大きく掲示されたところで何も恥じることがない、むしろ堂々と主義主張を看板に載せてくれてありがたいというタイプ、炎上歓迎で承認欲求を満たしたいタイプも多そうですが、名前と顔を消しているのはその対策もあるかもしれません。
また単なる差別看板にならないよう、下にはバーチャルな差別、リアルな帰結というフレーズと、黒人女性への差別と戦う団体が掲載したことが記されています。
差別発言への抗議という大義がありつつ、「自分がターゲットになったらどうしよう」と想像させることを含めて本質的には街宣車戦術でもあり、論争の的になる話題ではありますが、賛否にかかわらず注目を集めて「ネットと現実は地続き」を改めて示す意味では、見事に目的を達しているといえそうです。
(2015年12月01日Engadget日本版「ネットの差別ツイートを発言者自宅近くの看板で晒す作戦、ブラジルで反差別グループが実施。バーチャルな差別のリアルな結果」より転載)
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