電通PR内に、企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者等)と連携して、企業の広報戦略・体制等について調査・分析・研究を行う組織、企業広報戦略研究所が設立されました。同研究所では、日本の上場企業を対象に広報活動の実態調査(※)を行い、今月18日にその結果を発表しました。今、日本企業の広報部門が抱える課題とは何でしょうか、その実態に迫ります。
左から、企業広報戦略研究所の北見幸一上席研究員、阪井完二副所長
■ 「8つの広報力」でわかる!
今回の調査は企業の広報担当責任者を対象とし、企業の広報活動に関する80問のうち、自社で行っている活動にマルをつけてもらう方式をとっている。この回答が集計され、同研究所が独自に開発した「8つの広報力」(広報活動オクトパスモデル分析)という指標で分析し、S、A、B、Cの4段階でそのレベルを総合評価した。
では、「8つの広報力」とはなんだろう。「8つの広報力とは、『情報収集力』『情報分析力』『戦略構築力』『情報創造力』『情報発信力』『関係構築力』『危機管理力』『広報組織力』のことで、これらの領域において、バランス良く活動していると、広報力が高いと評価される仕組みになっています」と、同研究所の副所長・阪井完二(電通PRコーポレートコミュニケーション戦略室室長)は説明する。例えば「戦略構築力」の場合、ステークホルダー別に獲得したい評価や戦略を設定しているかの有無、「情報発信力」の場合は、トップが定期的にメディアの取材を受けているかの有無などが、該当広報力の分析要素となる(図1)。
【図1】8つの広報力(広報活動オクトパスモデル分析)
出典:企業広報戦略研究所資料
■ 広報力第1位は「電力・ガス」
「8つの広報力」の総合評価をランキングすると、全16業種中、1位は「電力・ガス」(44.6点)。次いで、「金融・証券・保険」(37.6点)、「食料品」(36.9点)が続いた(図2)。福島原発事故後の電力会社の報道対応などが記憶に新しい身とすれば、電力・ガスが広報力1位とは意外な結果だが、どういうことなのだろう。
同研究所の北見幸一上席研究員(電通PR同室部長)によると、「これらの業界は、事件・事故・不祥事などさまざまな社会的危機に直面することも多いため、あらゆる角度からの広報体制の構築は必要不可欠。社会との接点である広報部門が企業の生命線になるため、その活動は多岐にわたっています」とのこと。例えば、「情報収集力」の分野では、「記者の考えや意見を独自人脈・ルートで把握する」活動や、「自社に影響を及ぼす法規制や行政の動向についての把握」などの、クローズドソースからの情報収集なども行っているという。確かにこれは、一般企業が行っているメディアのモニターなどの情報収集範囲を凌駕した活動といえよう。ただし、多彩な広報活動を展開していることは事実だが、メディアや社会的な評価がそのまま一致するわけではない。あくまで、実施活動ベースの評価だということに注意が必要だ。
【図2】業種別ランキング(単位:平均スコア)
出典:企業広報戦略研究所資料
■ 「情報発信力」は高いが・・・
では、全体傾向としてはどうだったのだろう。全企業のスコアを平均すると、「情報発信力」が目立って高く(47.3点)、「情報収集力」、「広報組織力」が続いた(図3)。
しかし、ただ情報発信しているだけでは十分な広報効果は得られない。収集した情報の分析や、戦略性をもったPRメッセージの策定やストーリーテリングを行っていることが求められるが、情報分析力や戦略構築力、情報創造力については平均スコアが低く、課題は多い。例えば、広報の専門家が最も重視した項目である「広報戦略は経営戦略とリンクしている」と答えた企業は半数を下回っている(49.5%)。また、近年重要な広報活動とされている「危機管理力」や「関係構築力」も、いずれの業種でも平均スコアが低く、早急に取り組んでいかなくてはならない課題と言えそうだ。
【図3】有効回答479社の全体傾向
出典:企業広報戦略研究所資料
■ 報道のその先、が重要
情報発信力が高い一方で、意外なこともわかった。広報部門における一番のステークホルダーはマスメディアではない、ということだ。ともすると企業の「広報」「PR」というと、マスメディアでどのようにとりあげてもらうかということが重視され、そのための情報発信が活動の中心だと思われがちだが、今回の調査で、広報活動における重要なステークホルダーを尋ねたところ、1位は「株主・投資家」、2位が「顧客」で、「メディア」は3位にとどまった。
「メディアに報道されることが広報・PRの目的ではなく、『その先』が重要。それによって、どう株価が動くのか、企業ブランドはどう変化するか、といったステークホルダーの意識変化・態度変容こそが最終的なゴールです」と阪井副所長。一口に情報発信といっても、対メディアの情報発信だけをしているとは限らないのだ。「PRの本来的な意味である、『パブリックリレーションズ』が表すとおり、あらゆるステークホルダーとの双方向コミュニケーションを通じて良好な関係を築き、企業の社会的価値をあげていくことが広報に求められる力。今後はさらにその傾向が強くなるでしょう」と阪井副所長は語る。「報道のその先」を強く意識した、本来的な意味での広報力をつけるために、まずは現状把握から始めたい。
■記者の目■
広報担当責任者であれば、他社がどのような広報を実施しているのか、自社の広報レベルがどの程度なのか気になるところだが、これまで業界の統一指標や目標基準はなかった。この「8つの広報力」は日本企業の広報部門における、新たな活動指針になりそうだ。同調査に興味がある方は、企業広報戦略研究所までお問い合わせを!
(原稿:ホソダ、サワム、モリ)
※調査概要
調査期間:2014年1月6日(月)~2月10日(月)
調査対象:『会社四季報 2013年秋』掲載時点の東証一部・二部、東証マザーズ、ジャスダック、札証、名証、福証に株式上場している企業(3503社)
有効回答サンプル数:479件(回収率 13.7%)
調査方法:郵送・訪問留置調査
調査主体:企業広報戦略研究所(株式会社電通パブリックリレーションズ内/2013年12月設立)
担当:阪井・北見・末次・戸上(csi@sec.dentsu-pr.co.jp)
(2014年3月27日「週刊?!イザワの目」より転載)