サイボウズ式:働くことに前向きな大学生が少ないのは、働いている大人が我慢しているように見えるから──働き方研究家・西村佳哲さん

「誰でも、どんな仕事でも、向き合い方次第で"自分の仕事"にしていけるんだ」
サイボウズ式

何を仕事にすればいいのかわからない。就職活動で希望の会社に入れないかもしれない。働く大人を見ていると大変そう、しんどそう——。

就職活動をがんばろうと思っても、働くことを楽しみだと思いたくても、こんな不安を拭いきれない学生が、たくさんいるようです。

働くことを楽しみにできない学生は、何が理由なんだろう? 心のどこかで「自分も無個性なサラリーマンのひとりになるのかな」と、あきらめに似た思いを感じているからではないか。働いている自分がどうありたいのか、思い描けてないからではないか......。

どうしたら働くことに前向きになれるのでしょうか。著書『自分の仕事をつくる』『なんのためなんのための仕事?』などを通して、魅力的な仕事人の働き方を発信している西村佳哲さんに、サイボウズ式編集部インターン生の松下美季がお話を伺いました。

「血中意味度」の低い仕事をしていると「我慢」することになる

松下:大学生生活や就職活動を通して、働くことに前向きな友達に出会うことが、あまりなかったんです。

西村:そうなんですね。松下さんはどう感じてるの?

松下:私は、働くのはきっと楽しいんじゃないかな、と思っています。サイボウズでインターンをして、「自立するってこういうことか」「自由に生きるって素敵だな」と思わせてくれる大人に出会えたことも、そう思える理由のひとつかもしれません。

一方で、就職活動で企業説明会などに行っても、「こうなりたいな」と思える大人にすぐに出会うことがあまりなかった気がします。

西村:それは、大人が良くないですね(笑)。

西村佳哲(にしむら・よしあき)さん。デザインオフィス「リビングワールド」代表。武蔵野美術大学でインテリアデザインを学んだ後、大手建設会社へ就職した西村さんは、30歳で独立。現在はさまざまなデザインプロジェクトの企画・制作のほか、執筆、大学非常勤講師第も行ない、つくる・書く・教えるの3つの軸で仕事をしている。 魅力的な仕事をしている人々に取材をし、著書『自分の仕事をつくる』(2003 晶文社/ちくま文庫)、『自分をいかして生きる』(2009 ちくま文庫)、『なんのための仕事?』(2012 河出書房新社)などを出版する「働き方研究家」としても活動。
西村佳哲(にしむら・よしあき)さん。デザインオフィス「リビングワールド」代表。武蔵野美術大学でインテリアデザインを学んだ後、大手建設会社へ就職した西村さんは、30歳で独立。現在はさまざまなデザインプロジェクトの企画・制作のほか、執筆、大学非常勤講師第も行ない、つくる・書く・教えるの3つの軸で仕事をしている。 魅力的な仕事をしている人々に取材をし、著書『自分の仕事をつくる』(2003 晶文社/ちくま文庫)、『自分をいかして生きる』(2009 ちくま文庫)、『なんのための仕事?』(2012 河出書房新社)などを出版する「働き方研究家」としても活動。
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松下:大人のせい、なんですか?

西村:うん。大人が、みんなどこか「我慢している」ように見えているからじゃないかな。

会社の規模が大きければ大きいほど、仕事の在庫は豊富でも、ひとつひとつの仕事の意味が劣化していくのかもしれないね。実際、やればやるほど消耗したり、良くない方に向かったりしていく仕事が今は多いと思う。

仕事の「血中意味度」が低いというか、「この仕事は本当に社会に求められているのか」と疑問を感じながら、働いている人も少なくない。

松下:なるほど。血中の酸素濃度が低いと不健康なように、仕事の「血中意味度」が低いと、いきいきと仕事はできないですね......。

では、血中意味度が高い仕事をしているのは、どんな人たちでしょう?

松下美季(まつした・みき)。サイボウズ式編集部のインターン生。2017年7月に就職活動を終えたばかり。「就職活動を終えた今でも、働くことを楽しみにしている友達にあまり出会えていない」ことに気づき、モヤモヤしている。
松下美季(まつした・みき)。サイボウズ式編集部のインターン生。2017年7月に就職活動を終えたばかり。「就職活動を終えた今でも、働くことを楽しみにしている友達にあまり出会えていない」ことに気づき、モヤモヤしている。
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西村:単純な答えだけど、社会起業家は血中意味度が高い仕事をしている実感があるんじゃないかな。

具体例でいうと、白木夏子さんが立ち上げたエシカルジュエリーブランド「HASUNA」とかね。人や社会、環境、労働に配慮したフェアトレードに基づいてジュエリーを作っているんです。

松下:とても素敵なお仕事ですね。

西村:自分の問題意識をもとに仕事ができて、それが社会的に大切な課題を改善することにつながる。ひとつひとつの仕事の「意味の劣化」が起きていなさそうですよね。

自分の中のちょっとした違和感を放っておかないで、自分の仕事を通じて問題解決に動いているから、血中意味度が高い仕事だと感じるんじゃないかな。

松下:なるほど......! ただ、今20代の私たちの世代は、生まれた頃からモノやサービスがあふれていて、自分の周囲だけ見れば、社会はある程度豊かに見えるんです。

もちろん、社会にはまだいろいろな課題があることはわかっているのですが、「これをすれば社会の役に立てそう」と思える仕事を見つけるのが難しいと感じます。

西村:「成長」というより「競争」の時代ですからね。しかも、競争がモノやサービスの品質を向上させるならまだしも、みんなを疲弊させるだけになっている。

ただ、無力感から「まぁ、そんなもんだ」とあきらめてしまうと、楽しく働けないですよね。「なんか変だよね」「なんか気になってしまう」みたいな感覚を無視せずに持っておくと、それがアンテナになって、やりがいのある仕事につながる可能性もある。

たとえ、自分が今すぐ問題を解決できないとしても、その感覚を手放さないことが大切だと思うんです。

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人生に失敗なんてない。自分の選択を後から正解にすればいいだけ

松下:「違和感を見逃さないこと」が、自分にとって意味のある仕事を見つけるためのキーワードになっている気がします。

自分の内面にある違和感をちゃんと拾うためには、何が必要でしょうか?

西村:「実感」を感じること。

松下:実感、ですか?

西村:「なんか嬉しい」「なんか幸せだな」とか、「なんか」みたいな言葉でしか表現できない思いって、実はすごく大事なんです。

自分の思いを誰かに言葉で説明するとき、「なんか◯◯」とか言いませんか?

松下:「なんかつまんない」「なんか好き」とか、言いますね。

西村:その、「なんか」という気持ちを放っておかず、ちゃんと向き合ってみること。そうやって自分の思いに敏感になることが、違和感を見逃さないことにつながります。

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松下:なるほど。

西村:一方で、現代は情報量が多くて、輝いている他人の情報が、嫌でもたくさん入ってくるよね。僕が今の時代の若者だったら、生きづらいなと感じることもあるんじゃないかな。

松下:膨大な情報を前にして、一体何を信じれば良いのか、何が正しいのか悩んでしまうことはよくあります。

自分が信じている情報があっても、別の情報が入ってきて、自分の価値観がゆらいでしまうことも......。

西村:僕たちは、毎日流れてくる大量の情報から、良さそうなものを選んでいますよね。物心ついたときから、それをドリルみたいに毎日繰り返している。

松下:はい。

西村:最適なものを見つける訓練をし続けた結果、「自分にとって間違いのないもの、正解と言えるものを選ばないといけない」「かしこい選択をしないといけない」という思い込みが生まれる。まるで強迫観念のようにね。

仕事選びの場面でも、その思い込みが働いていると思います。

松下:たしかに、「『好き』と直結している仕事をしている人は勝ち組」「ブラック企業では働く人は損をしている」というような、正解・不正解の価値観に支配されていると感じます。

その二項対立を自分の生き方に当てはめて、「失敗したくない」と思っている大学生は多いかも......。

西村:今の日本は、一度でも失敗したら復活するのが難しい社会だと、みんなの目には見えているんでしょうね。

松下:ひとつの決まったレールから一度外れると、戻りたくても戻れない感じがします。

西村:うん、残念ながら、実際その通りなのかもしれない。でも実は、「失敗した」と思ったそのときの自分の選択を、事後的に「正解」化している大人がたくさんいます。そういう大人に出会えると、正解はひとつではないし、やり直すこともできるんだとわかる。

それまでは「細い一本道の上をまっすぐ進まなければ」と、ハンドルを握る手が力(りき)んでいても、そういう大人に出会うことで「なんだ!少しぐらぐらしても、ちゃんと前に進めるんだな」と実感できて、ハンドルを握る手に遊びが出てくる。

松下:「失敗しても大丈夫」「損をしてもいいんだ」ということを見せてくれる大人がいたら、とてもほっとすると思います。

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西村:そこで大事なのは、「知る」だけでなく「実感」すること。

そのためには、なんだか惹かれる人を自分で見つけて、実際に会ってみるのがやっぱり一番いいです。

理由はわからないけど「なんか気になる」人に会いにいく

松下:頭の中だけでモヤモヤ考える暇があるなら、人に会いに行こう、と。自分が就きたい仕事に関係した人がいいんでしょうか?

西村:希望の仕事に関係した大人に限定して「かしこく選ぶ」のではなく、わけもなく惹かれる人、なんかまぶしいと思える人がいいですね。周りは関心を持っていなくても、自分だけが強烈に惹かれる、そんな人。

そういう人と接すると、ものすごく信念を持った人だったり、好奇心旺盛だったり......そういうポジティブな要素が自分に伝染してくるんです。

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松下:そういえば、私もそういう経験があります。今年の春、高校生の頃から憧れている写真家と一緒にお仕事をする機会に恵まれたんです。

学生時代を通して、自分とは違うけれど、尊敬できる生き方をしている人たちと出会えました。その人たちの仕事ぶりを見たり、間近で考え方に触れたりしたことが、その後の私の生き方を大きく変えることになったな、と思ってます。

西村:「なんか惹かれる人」の近くに寄っていくと、仕事の種類と関係なく、「こんなふうに社会に存在する方法があるんだ」と身に沁みてわかる。

とくに、自分が何を好きなのかわからない、これといったものがないと感じている人は、とにかく「なんか気になる」人に会いにいくのがいいですよ。

松下:学生は社会人と比べると、人に会いにいく時間を作りやすいですよね。

ただ、いきなり会いにいっても警戒されませんか?

西村:ブログでも何でもいいので、「自分のメディア」を持つのがおすすめです。「◯◯のテーマでインタビューをしているんです」みたいに、取材とかヒアリングという目的でアプローチされると相手も安心しますよね。

松下:なるほど。今は小さくはじめられるメディアもたくさんありますし。

西村:で、大事なのは「完璧に準備して臨まなきゃ!」なんて思わないこと。準備できることなんて、限られているんです(笑)。

そのかわり、ある物事にめちゃくちゃ関心があったり、その人にものすごく惹かれたりしていることが伝わるといい。

松下:私も準備に時間をかけてしまうタイプです(笑)。

西村:目的の場所にたどり着く方法は、準備が整ったら整列して一つの門をくぐることしかないのだと、みんな思い込みすぎなんです。受験や就活がそういうシステムだからなのかな。

準備ができていなくても、一列に並んでいなくても、その人なりの考えや熱量があれば、門を開いてくれるところは案外あるんですよ。

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好きなことが見つからないなら、「自分が他人事でいられないこと」を見つける

松下:好きなことが見つからない」という友達も、周りには多いんです。

好きなことを見つけるヒントって、どこにあるんでしょうか?

西村:こういう話をするとき、僕が若い子によく聞くのは、「ただの"お客さん"ではすまないことはなんですか」ということ。

松下:「"お客さん"ではすまないこと」?

西村:言い方を変えると、「あなたにとって、他人事ではいられないことはなんですか」だよね。

例えば、友達と一緒にカフェに行って、自分以外の人は美味しそうだね、とか言いながら写真を撮っている。でも、自分は、「ちょっとこの食器の置き方はどうなの?」とか考えている。それって、みんながいいねと言って素通りしている中で、ひとりだけつまずいているわけですよね。

松下:気になることを自分ごと化して向き合っている感じ。

西村:自分の握力がぐっと強くなる瞬間に気づくことが大事です。自分に対する感受性を高める、というとわかりやすいかなぁ。

でも、今その力を高める訓練ができている人は少ないと思います。あまりにも情報過多の時代、何かを感じる自分を感じる瞬間がない、というか。

松下:たしかに......! 私たちは何かを見つけたい、と思ってスマホを眺めて、膨大な情報から取捨選択しています。でも、そうじゃなくて、自分の内面を見つめよう、ということですよね。

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西村:本気で自分探しをしたいなら、ベクトルを向けるべきは外じゃなくて、自分の中なんです。人に話してみたり、文章として書いてみたり、やり方はいろいろあります。でもどちらにも共通するのが、「一度外に出してみる」ことですね。

正しく「やりすぎる」と、仕事は楽しくなる

西村:1日24時間は、「どちらかというと生きている時間」「どちらかというと死んでいる時間」に分けられると思うんですよ。

松下:どういうことですか?

西村:「生きている時間」は、自分自身の人生を生きているなあと実感できる時間。一方で、「死んでいる時間」は、外の目線を気にしていて、社会や他人の価値観やタスクに縛られながらエネルギーが下がっている時間。

心臓も手足も動いているし、確かに生きてはいるけれど、自分の真ん中にあるものは死んでいる状態、みたいなね。

松下:その感覚、よくわかります。

西村:わかるよね。大事なのは、自分が自分に付き合う時間を確保して、生きている実感のある時間を少しずつ増やしていくことだと思います。

松下:ただ、いつも自分の好きなことを好きなようにできる環境があるわけではないですよね。

現に、就活がうまくいかなくて、もともと希望していた就職先に行かない友達は、仕事を楽しむことをあきらめようとしています。でもそれって「死んでいる時間」を増やすことになるのでは......。

自分が心から望むのとは違う仕事に就いたとしても、生きている実感を感じながら働くには、どうすればいいでしょうか。

西村:ガス会社に勤めている、知人の話をしましましょう。彼は、「究極の請負業であるサラリーマンでも、目の前の仕事をやりすぎれば、"自分の仕事"にできる」と言うんですよ。

松下:「仕事をやりすぎる」......!? それは、労働時間や労働量などとは別の話ですよね?

西村:長時間働いたりして、「頼まれたことをやりすぎる」こととは違いますね。

任された仕事は責任を持ってかたちにする。その上で"足す"んです。やるべき仕事をしっかりやりきった上で、オリジナルの仕事をプラスする、というのかな。

彼は当時、自社が出向している街のパレードの担当者になり、企画資料を完璧に作りました。さらに、頼まれてもいないのに、「世界のパレード」という冊子を作って、資料に添えたんです。「パレードを担当してたら、知りたくなって調べちゃいました」と。

松下:えっ(笑)!

西村:会議で「ナニコレ!?」って良い驚きが生まれる場面が想像できるでしょ。

サラリーマンの世界は、言われたことをする人、言われたことしかしない人が多い。だから言われたことをこなした上で、さらに言われてもいないことをする人は、ものすごく目立ちます。

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松下:たしかに。

西村:自分が働く会社や環境そのものを変えることはできないけど、頼まれたことをちゃんとした上で、言われてもないことをプラスαでやる――そうすると全部自分の仕事になっていくから、働くのがますます楽しくなる。彼は「そもそもクリエイターはみんなそうしてますよね」とも言っていました。

松下:依頼を受けたとき、提案をひとつ返すのではなく、数パターン作って見せたり、これもやってみてはどうですかと派生的な提案をしたり、ということですよね。

西村:そうそう。そういうことを、クリエイターだけではなく、普通のサラリーマンでも同じようにできるって彼が証明してる。

仕事に自分の"体重"を乗せて向き合ううちに、結果的にその人の仕事になっていくんだと思います。彼は「誰でも、どんな仕事でも、向き合い方次第で"自分の仕事"にしていけるんだ」と言いたかったんだと思います。僕も同感ですよ。

松下:「やらなくていい仕事はやらず、コスパ良く働く人がかしこい」みたいな風潮に、少しモヤモヤしていたので、なんだかすっきりしました!

西村:頼まれたことをなんでもやっちゃう」だと、自分の人生を生きられなくなってしまうけどね。

自分の中の「なんか気になる」に忠実に、そしてそれを元に、仕事を自分のものにしていくことが大事なのではないでしょうか。

執筆・池田園子/撮影・橋本美花/企画編集・松下美季

」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。 本記事は、2017年12月13日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。

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