大ブームとなった塩レモンはモロッコ発の万能調味料といわれていますが、実際のところ本場モロッコではどんな使い方をしているのか、まだまだ知らないことも多いですよね。そこで、現地の料理研究家の第一人者のもとで5年間修行してきたというモロッコ料理店「エンリケ・マルエコス」の料理人、小川歩美さんに伺ってみました。
■塩レモンって、本当はどうやって使うの!?
漬け込む楽しさとアレンジの幅の広さから万能調味料として大ブームとなった塩レモン。現在、クックパッドにも数多くのレシピが投稿され続けています。和風、洋風とジャンルを選ばないアレンジレシピは見ているだけでも楽しくなってきます。でも、塩レモンの本場であるというモロッコではどのように使われているのでしょうか。
東京・東北沢にあるモロッコ料理店「エンリケ・マルエコス」のオーナーシェフ、小川歩美さんは本場モロッコ料理に魅せられ、5年もの間、伝統料理を提供するレストランと現地の人気料理研究家の元で研鑽を積んだ経歴を持つ女性。早速質問してみました。
モロッコ料理とはどんな料理ですか?
「モロッコ人は食べ物に対してとても保守的で、自分たちが食べている家庭料理が『世界で一番おいしい』と思っているんです。宮廷料理のような文化がないため、モロッコ料理自体は手の込んだものというよりは、とてもシンプルで素材の味を活かした料理といえます。とりわけ有名なのはタジン鍋(タジン料理)ですが、最近のモロッコでは実際にタジン鍋をつかって料理をしている家庭は少なくなってしまいました。日本の土鍋の存在に似ていますね。普通の鍋で、タジン料理とほとんど同じマルカという別の名前の料理をつくっています。ただ、タジン鍋自体はどの家庭にも必ずあって、休日など時間のある時はタジン鍋を使ってゆっくりと時間をかけて料理をしています。時間をかけて料理をつくり、家族全員で食卓を囲む姿は昭和の日本のようですよ」
お店の前にはモロッコ料理の特徴であるタジン鍋が飾られている
さて、モロッコの人々にとって、塩レモンとはどういう調味料なのでしょうか?
「モロッコではみそやしょう油のような一般的な食材で、市場では必ず売っています。以前は各家庭でオリジナルの塩漬けレモンをつくっていましたが、今では市場でできあがったものを買ってくる人が多いです。漬け物みたいに売っているので、その日に使う分だけを買ってくるということも多いですね」
モロッコと日本ではレモンそのものや、塩レモンの作り方に違いはありますか?
「まず、モロッコと日本ではレモンの種類が全く違います。モロッコで塩漬けにするレモンは日本のレモンと比べると酸味がひかえめで、香りが強いという特徴があります。基本的な作り方は、レモンに穴を空けたり、十字に切れ込みを入れて塩をもみ込んで塩漬けにし、大体1カ月間ほど発酵させてから使い始めます。塩の中にレモンを入れて、漬け込むため、塩分濃度の割合はあまり関係ありません。なぜなら、使用するのはレモン本体のみで、漬け込んだ塩やエキスを使うことはないからです。ここが最大の違いじゃないでしょうか。なので、私は塩レモンと呼ばずに、レモンの塩漬けと呼んでしまいますね(笑)」
モロッコのレモンに穴をあけて丸ごと漬け込んでいる
■しょう油、みそというより料理酒のような存在かも!?
お店で提供される料理にはモロッコで購入してきたレモンの塩漬けを使用しているということですが、日本の塩レモンと使い方に違いはありますか?
「モロッコ料理の中で、レモンの塩漬けは調味というより、肉や魚などの臭みを消すという役割が大きいと思います。イスラムの教えに従って生きている人が多いので、料理にお酒を使うことはできないんですね。また、元々モロッコ料理は何で調味しているのか分からないけれどおいしい、というのが料理上手といわれる秘訣なんです。スパイスも皆さんが想像されているよりもぐっと控えめなんですよ。スパイス自体の風味が立ちすぎないように香りづけや色づけ程度で使われます。逆に、肉や野菜本来の味を上手く引き出しつつ、ひとつに味がまとまっている料理が好まれます。そんなさりげない風味づけにレモンの塩漬けは使われるんです」
実際に本場の塩レモンをつかったモロッコ料理を試食してみました。
●鶏肉とじゃがいものタジン
「タジン料理には、肉と野菜を使用します。鶏肉や牛肉、羊肉が多いですが、他にヤギやラクダの肉も使います。少し臭みのある肉でもレモンの塩漬けを使うことで風味よく仕上がります。また、あまりイメージがつかないかも知れませんが、モロッコの地中海沿岸部は野菜の種類も豊富で、しっかりと味の濃い野菜が安価で手に入ります。そんな旬野菜と合わせたさまざまなタジンがあります。この鶏肉とじゃがいものタジンはその中でも定番ですね」
<作り方>
タジン鍋にオリーブオイルとにんにく、鶏肉とみじん切りにした玉ねぎと塩をいれて弱火にかけます。
時々鶏肉の上下を返しながら、玉ねぎがしんなりするまで蓋をしてゆっくり蒸し煮にします。
玉ねぎがしんなりして、鶏肉にからむ程度になったらスパイスを加えて全体にからませます。
最後に、小さく切ったレモンの塩漬け、コリアンダーのみじん切り、じゃがいもを加えて蓋をし、鶏肉とじゃがいもに火が通るまでゆっくり蒸し煮します。
野菜の味が濃く、水が貴重な土地柄、野菜のうま味や水分を利用して蒸し煮するタジン鍋は、まさに理にかなった調理器具といえます。時間をかけて熱を加えた鶏肉はほろほろとやわらかく、フォークで簡単に骨から取れるほど。みじん切りの玉葱からしみ出たうま味たっぷりのソースに、ほのかに香るさわやかなレモンの風味は絶品。
●レモン風味のレバーソテー
「みじん切りにしたレモンの塩漬けとレバーをソテーした料理です。スパイスもとても少なくパプリカとクミンで香りづけしたあとに塩で調味する程度です。最後にコリアンダーとイタリアンハーブを添えています。ハーブやオリーブオイルを活用する点は、モロッコ料理も他の地中海の国に似ていますよね。レモンの塩漬けが調味料というより、あくまでレバーの臭みを消すために使われているという感じです」
実はレバーがあまり得意ではない編集部メンバーもこれにはびっくり。レバーの臭みはまったく感じないのです。シンプルで素材の味を活かした料理というとバーベキューのような肉料理をイメージしていましたが、ふんわりと香るスパイスを塩レモンのやさしい風味が上品にまとめていて、日本人にもとても馴染みやすい料理に仕上がっています。モロッコ料理というと、スパイスがしっかり効いている料理を想像しただけに、この味わいは新しい発見!どちらもとてもおいしくてメンバー完食。ごちそうさまでした。
■モロッコのスローライフが生み出した食材
「今では便利になって市場で塩漬けされたレモンが売られていますが、昔はどの家庭でもそれぞれオリジナルの味があったようです。今でも店によって味や風味に違いがあるためひいきにしている店があったりするそうです。時間をかけてつくる食材もそうですが、モロッコの人達は、今でも伝統的な家庭料理を毎日食べ続けているんです」
現代の日本人が失ってしまったスローライフ、スローフードを大切するモロッコの人々の心がこの万能調味料を生み出したのかもしれませんね。いま大ブレイク中の塩レモンの新たな活用方法と魅力を、本場モロッコ料理からたっぷり学ぶことができました。(TEXT:クックパッド編集部)
取材協力:エンリケ・マルエコス
住所/東京都世田谷区北沢3-1-15
電話/03-3467-1106
営業時間/火ー金 18:00〜22:00 (L.O)、土・日・祝日 17:30〜21:30 (L.O)、月曜定休
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