寝不足が自殺に影響を及ぼす可能性を考える

寝不足により衝動性を抑える働きが弱まるために自殺に至るのかもしれません。

日本人の睡眠時間は世界でもトップクラスの短さです。もう少し長く眠ることで、セロトニンが高まり、自殺が減る可能性は考えられないでしょうか。

寝不足になると太ったり(http://coffeedoctors.jp/news/752/)、記憶に悪影響を及ぼしたり(http://coffeedoctors.jp/news/1142/)することは以前ご紹介しましたが、寝不足の弊害はそれだけではありません。心の大敵でもあるのです。

ある実験で、食事を調整してセロトニン濃度の低い人と高い人とを準備しておき、コンピューターゲームで報酬を競わせたところ、脳内のセロトニン濃度が低い人は、衝動的に目先の報酬を選びがちになる――セロトニンが足りないと、20分後の20円より、5分後の5円を求める――ことが明らかにされました。

セロトニンには心を穏やかにする作用があると考えられています。その働きは、手を振って歩く、食べ物をよくかむ、丹田呼吸に代表されるゆっくりとした腹式呼吸など、リズミカルな筋肉運動で高まります。しかし睡眠不足の状態では元気が出ないため、リズミカルな筋肉運動どころではなくなり、セロトニンの働きが高まらず、精神的な問題点が生じてしまうことが懸念されます。

日本では1998年から2011年まで年間の自殺者数が3万人を超えていました。自殺には経済要因の関与が大きいとされ、実際に完全失業率と自殺者数は関連して変動していましたが、2004年から2007年にかけて失業率は低下したものの、自殺者数は減っていません。自殺の要因を再検討する必要性があります。

台湾では睡眠時間が6時間以下になると自殺の危険が高まることが2013年に報告されています。自殺の衝動は前頭前野の機能が低下すると高まりますが、睡眠不足はこの部位の働きを低下させるのです。

自殺した方の前頭前野ではセロトニンが減っています。睡眠不足がセロトニンを低下させ、将来予測を困難にすることで自殺を助長するのかもしれません。また寝不足により、前頭前野が担う衝動性を抑える働きが弱まるために、自殺に至るのかもしれません。

私は日本人がもう少し眠れば、前頭前野のセロトニンが高まり、自殺は減るという仮説を提唱しています。無論それほど単純ではないことは百も承知です。しかし18〜64歳の日本人の平均睡眠時間は現在6.4時間で、これは韓国と並んで世界でもトップクラスの短さです。

日本人がわずかでも睡眠時間を多くとれば日本の現在の状況も多少は変わり、もう少し生きやすい世の中になるのではないかと、私は結構本気で考えています。

◆◆◆おすすめ記事◆◆◆

医師プロフィール|神山 潤(こうやま じゅん) 小児科

2015-09-30-1443595238-8017038-koyama_116.jpg

公益社団法人地域医療振興協会東京ベイ浦安市川医療センター CEO(管理者) 

昭和56年東京医科歯科大学医学部卒、平成12年同大学大学院助教授(小児科)、平成16年東京北社会保険病院副院長、平成20年同院長、平成21年4月現職。公益社団法人地域医療振興協会理事、日本子ども健康科学会理事、日本小児神経学会評議員、日本睡眠学会理事。主な著書「睡眠の生理と臨床」(診断と治療社)、「子どもの睡眠」(芽ばえ社)、「夜ふかしの脳科学」(中公ラクレ新書)、「ねむりのはなし」(共訳、福音館)、「ねむり学入門」(新曜社)、睡眠関連病態(監修、中山書店)、小児科Wisdom Books子どもの睡眠外来(中山書店)「四快(よんかい)のすすめ」(編、新曜社)、「赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド」(監修、かんき出版)、「イラストでわかる! 赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド 」(監修、かんき出版)、「しらべよう!実行しよう!よいすいみん1-3」(監修、岩崎書店、こどもくらぶ編集)等。

注目記事