東京23区で増える園庭のない保育園...十分な外遊びは幼児の成長に不可欠な学習の基礎

「無いんだからしかたない。これぐらいでもしかたない」と大人の責任を放棄してしまうのではなく、知恵をしぼり労力と多少のお金と愛情をかけていく。

待機児童対策が喫緊の課題であることは、誰もが共通理解しています。

同時に、子どもの最善の利益を保証する上で「保育の質」が大きく問われてもいます。

子どもとの信頼関係の構築、チームで保育にあたる、キャリアを積むといったことのためにも、保育士の待遇を改善していくことや、保育士の配置基準の見直し等は、保育の質に密接に関わります。また、保育室の広さ、園庭などハード面の整備も保育の質の向上を図る上では重要なことです。

今回は、その中で、園庭について考えました。

文京区などを含めた東京23区では、地価の高騰といった理由等々から園庭がない保育園が増えています。子ども達は屋外での遊び場を求めて園舎から離れた場所まで歩いていかなくてはなりません。まして、昨今では遊び場も限られていることから、近隣の公園を各保育園で譲り合わなくてはならない状況です。

ボール遊びが禁止されている公園も少なくなく、子どもたちにどうやって十二分に外で遊びこませられるか、保育現場では常に頭を痛めています。せめてできる限り散歩をして体力をつけられるように考えているとのことです。

保護者からも、この暑さの中、散歩や公園に出向くのではなく、プールとまではいかなくても、毎日、安全に水遊びができるようにしてほしい...との声も多数聴こえてきます。

この猛暑の中、近隣のプールのある園まで歩いて行って、プールを使わせてもらっても、水遊びで疲れているところ、十分な休みがとれないまま、再び、炎天下を歩いて帰る子どもたちの負担は大きなものです。プール後にそのまま昼食やお昼寝ができるように配慮してもらいたい、との希望も聴きます。

保育士の努力だけでは補いきれないハード面の問題を、自治体としてどのようにフォローしていくか、責任があることです。

そもそも、こうした背景には、

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保育所の施設整備基準は、屋外遊技場として(近所の公園、神社の境内等で代替可)

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とされていることにあります。

一方、幼稚園は、運動場を

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同一の敷地内又は隣接する位置に設けることを原則とする

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とされ、屋外で遊ぶことの環境が整備されています。

文部科学省が定める「幼稚園学習指導要領」、厚生労働省が定める「保育所保育指針」の内容は、どちらも3歳から5歳の就学前教育に関する内容では整合性が図られており、外遊びの場所を子どもたちにどう担保するか、本来であれば大きな違いがあってはならないはずです。

であれば、就学前において、「主体的に自分の思う好きな遊びを選択し、遊びこめること」を可能にするために、子どもの目線に立った、子どもの育ちを支える環境整備は、保育園であれ、幼稚園であれ、同様に重要なことです。

文京区版「幼児教育・保育カリキュラム」には、遊びについて次のように書かれています。

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Q. なぜ遊びを大切にしているのですか?

A. 遊びは、幼児が自らの興味や関心を持って取り組む自発的・主体的な活動です。その中で好奇心・探究心が育まれ、友達と協力する大切さなどを学び、集中して取り組む力が育ちます。幼児期に夢中になって遊んだ体験が小学校以降の「学習の基礎」となります。

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また、

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子供は遊びを通して思考力や想像力を養い、遊びこむことによって達成感や満足感を味わい、疑問や葛藤を経験し、自発的に周りの環境にかかわる意欲や態度が育っていく

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とも書かれています。

幼児期、子どもたちが室内だけでなく、外遊びでもその子らしく伸びやかに遊べる環境を整備するのは自治体の責務です。園庭のない保育園に対しての支援は急務であり、自治体によっては、近隣の小中学校等の校庭を開放したり、公立の保育園・幼稚園の園庭やプールを開放したり、といった調整を図る努力は続けています。が、文京区では、転入人口も増えており、増え続ける園庭のない保育園に対して、フォローが追いつかない状況も生まれています。

想像してみてください。

園庭があれば、ボールや縄跳び、砂場遊び、一輪車、子どもの気持ちに添って様々な遊びが選択できます。明るい屋外の好きな場所でのんびり過ごすことだってできます。花壇に水やりを楽しむ子もいるかもしれません。

が、公園では、他の保育園の子ども達と鉢合せをして、うちの園はこのあたりまでとお互いに譲り合い、子ども自らが遊びを選択できる状況にはなっていない、と現場からは聴こえてきます。

公園や校庭に無事にたどり着くことが最優先で、遊具を持って訪れることなどは、なかなか難しいのが現状です。園庭のない園の先生たちからは、園庭のある子たちのようにもっと様々な遊びをさせてあげたいとの本音も聴こえてきます。

幼児の仕事でもある遊びを自らの思いで十分にやりきれるように専門性をもった大人たちが支えていく上でも、子どもがやりたい遊びを選んで思う存分に遊びこめる環境は大切です。

自治体は、園庭のない園に対して、「単に遊び場を提供しているだけ」とも言える面があります。自治体はもっと積極的に、園庭のない子ども達の外遊びの「質」に目を向けるべきです。

例えば自治体として、園庭のない保育園の子ども達が遊びにくる校庭等には、どの園が来ても使えるように、幼児用のボールや縄跳び等々、子どもたちが、園庭のある保育園同様に、様々な遊びにチャレンジできる道具類を整備しておくことも一案かと思っています。

文京区に対してはすでに提案をしています。園庭のない保育園を認可している以上は、自治体の責務として整備していくべきだと思うのですが、いかがでしょうか。

さらには、園庭の有無によって、子ども達の遊びに、格差が出ないようにするためには、園庭がある園が、園児に対して外遊びでどのような選択肢を提供できているか? 園庭のない園は、公園等に遊びに行っている中で、どのような選択肢を持たせられているか?

主体的に外遊びができているか? 各園の具体的な実態調査を行い、その格差を、ひとつひとつ埋めていくことが重要ではないでしょうか。

子どもがどの園に入園するかを決めるのは、最終的には自治体です。どの園に入っても、子どもが遊びを選択できる幅を担保し、遊びきった満足感、充実感で一日を終えられるように、区内のすべての保育園で等しく質の高い幼児教育・保育を提供することを、机上の検討で終わらせてはならないはずです。

子どもが、主体的に好きな遊びを遊びきれることを担保する質の高い幼児教育・保育の環境は、子どもの将来に繋がる重要な生育条件であり、自己肯定感や自己効力感を高めるそうです。さらには、犯罪を抑え、生活保護といった福祉のコストも減らすような費用対効果の高い教育投資であるとの専門家の指摘もあります。

言うまでもなく、子どもたちは未来の担い手であり、質の高い幼児教育・保育の環境をつくって行くことは、明日の社会をつくって行くことです。

子どもたちが外遊びの場を失ってしまったのは、子どもたちの責任ではありません。

「無いんだからしかたない。これぐらいでもしかたない」...と大人の責任を放棄してしまうのではなく、小さなことだと思わずに、知恵をしぼり、労力と多少のお金と愛情をかけていく

数ある投資の中でも、幼児教育・保育の内容や環境の質を高めるための投資は、私たち大人の責務であり、また、小学校・中学校教育、その先の教育へと良好なステップを積み重ねていくことで、将来高い効果が見込めるものでもあり、優先していくべきです。こういった考え方を私たち大人が社会の合意事項にしていかなければ、明日が良くなるはずがないと感じています。

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