100年後の未来の世代へのプレゼント。ワクワクするタイムカプセルのような計画がノルウェーで始動する。プロジェクト名は「未来の図書館」(Future Library)。
■「未来の図書館」計画
簡単に説明すると、世界中の100人の書き手による作品が、ノルウェーの図書館に寄贈される。しかし、その作品内容を読むことができるのは、100年後の2114年。つまり、現在生きている私たちは確実に読むことができないであろう。
2018年にオスロフィヨルド沿いに移転予定のデイクマン国立図書館(左)、写真右側は現在人気の観光スポットでもあるオペラハウス Credit: Lund Hagem Arkitekter og Atelier Oslo
これは、スコットランド出身の女性デザイナー、ケイティー・パターソン氏を中心人物とした、自然・芸術・文学を融合させた大規模なパブリックアート計画だ。内容を知れば知るほど、ワクワクする楽しみな未来へのプレゼンだとわかるだろう。
■フィヨルド再開発エリアへ図書館を移転
オスロでは現在「フィヨルドシティ」という、フィヨルド沿い地区の再開発計画が進んでおり、次々と美しい北欧建築が建設されている(新しいムンク美術館も建設予定)。2018年には、デイクマン公立図書館がビョルヴィカ地区に移転予定だ。この図書館の最上階5階の一部屋に、「未来の図書館」計画で集まった100作品が100年後に展示される。
自然光がデザインの一部となった建築が印象的な図書館内部の予定図Credit: Lund Hagem Arkitekter og Atelier Oslo
■1000本の木が、100年後に3000冊の本に
ノルウェーはフィヨルドやオーロラをはじめとする大自然が美しい国だ。首都でも交通機関を利用すればすぐに森へと移動できる。パターソン氏たちはオスロ郊外に1000本のノルウェー産松の苗木を植林した。木々はこれから成長し、100作品を印刷した3000冊の本となる予定だ。
オスロ郊外の森で植林するパターソン氏 Future Library 2014-2114 Photo (C) MJC Commissioned by Bjorvika Utvikling and produced by Situations.
100人の書き手は、パターソン氏をはじめとする8人のメンバーが選出し、毎年1人ずつ発表されオファーされる。最初の1人目は今年9月に発表予定。書き手は、有名な作家に限らず、様々な分野で活躍する人が選ばれる。宇宙飛行士、学者、政治家、詩人と肩書きはこだわらない。
■テーマは自由だが、100年後まで中身は秘密
書き手はテーマを指定されることがなく、自由に文章を書いて提出することが求められる。漫画やデザインではなく、「文字」作品であることが唯一の条件だ。そして、その作品の内容は、2114年まで書き手は誰にも口外してはいけない。パターソン氏を含む主催者側も決して中身を読むことはない。100作品は2114年に作品集となり、今はこの世に誕生していない、未来の世代が読むこととなる。
書き手はノルウェーに絞らず、世界中から集めるという。テーマだけでなく、文字量も自由だ。短い1文章でもよければ、1冊の小説の長さでもよい。書く言語はその書き手の出身国の言葉でよいため、日本語、中国語、フランス語など自由だ。
外国語作品に翻訳をつけるかどうかは目下検討中だという。翻訳をつけるのであれば、100年後に自分の作品が適切に翻訳されていると安心するためにも、書き手自身が翻訳家を指定するのがよいであろうし、翻訳無しであれば「それはそれで楽しそう」と主催者たちは考えているようだ。「100年後には消えてしまっているであろう言語もあるでしょうね」とパターソン氏はコメントした。
制作発表でプロジェクトの魅力を語るパターソン氏(右)Photo: Asaki Abumi
■日本も参加する可能性大
書き手には執筆料も払う予定だが、額はまだ未定だそうだ。もちろん日本人もオファーを受ける可能性があり、自己推薦したい人は同団体に直接コンタクトを取ることも可能だという。
こんなにもワクワクする未来へのプレゼントがあるだろうか。
私たちはこれらの100作品を読むことはできないが、書き手候補は恐らく国際的な著名人が集まることだろう。作品集となって発表される2114年には、大きな話題となって読まれることは間違いない。デジタル化が進み、本も電子書籍化されている時代、100年後に紙の本がどうなっているかさえも誰もわからない。*
■村上春樹氏へオファーの可能性もあり
この「未来の図書館」計画は6月12日にオスロの現デイクマンスケ図書館で発表された。パターソン氏は日本愛好家のため、日本人へのオファーももちろん考えているという。ノルウェーでも非常に人気がある作家の村上春樹氏にオファーがいく可能性はあるか聞いてみたところ、「もちろんその可能性はあります!」と笑顔で即答。これは楽しみだ(私たちは読めないであろうけれど)。
Future Library公式HP http://futurelibrary.no/