ノルウェーで最も活気あふれる音楽祭 Photo:Asaki Abumi
オスロの夏の風物詩といえば、音楽フェス「オイヤ」(Øya)だ。「世界で一番地球に優しい、グリーンな音楽フェス」のひとつとしても評価されている。
国外からはBeckやフローレンス・アンド・ザ・マシーン、ノルウェーのTeam Me(写真上)など、名だたる出演者がずらり Photo:Asaki Abumi
チケットは毎年完売するほどの人気ぶりで、出演アーティストが発表される1年前からすでに販売が開始される。本会場の収容人数は1日1万7,500人とされており、全4日間で関係者を含めて7万人が集まったことになる。
オイヤの出演者は、その後1年で大きく活躍する人が多い。今回、特に驚かされたのがノルウェーのラッパーであるラーシュ・ヴァウラー(Lars Vaular)。観客を盛り上げ、会場がまるで踊っているかのような地響きが印象的だった。これからの活躍が大いに期待される Photo:Asaki Abumi
本会場では10か国からの歌手が90コンサートを催した。深夜や初日には、市内のクラブなどで開催されるオイヤのミニコンサートも多く、150人以上のアーティストが参加。期間中には250以上のコンサートが開催された。
ノルウェーの人気バンドHighasakiteのメンバーであるマッテ・アーベルソンが、「Amanda」という名前で単独ライブを決行! 不思議な歌声に魅了された Photo:Asaki Abumi
ノルウェー首相も来た!
首相(左から2番目)もわくわくする音楽フェス Photo:Asaki Abumi
驚いたのが、ノルウェーのアーナ・ソールバルグ現首相が、会場にふらりと現れたことだった。警備もなしに、普通に一般市民に紛れていたので、来場者に記念撮影を求められていた。ちなみに、首相が自身のインスタグラムで「楽しみ!」とコメントしていたアーティストは、前述したラーシュ・ヴァウラーだ。
「世界で最もグリーンなコンサート」といわれる理由
会場中に設置されたゴミ箱。さらなる分別はここから始まる Photo:Asaki Abumi
若者たちがごみ分別
190人の若者ボランティアが、会場のゴミの分別活動に取り組む。約200のゴミ箱が設置され、来場者は4種類に分別。その後、「環境の駅」と名づけられた舞台裏で、16~25歳の若者たちがさらに手作業で15種類に仕分ける。
ゴミ袋を次々と開けて、分別する10代。大人たちがしっかり分別しているか、一目で分かってしまう Photo:Asaki Abumi
10:00~23:00まで休憩をしながら、ゴミを仕分けするボランティア参加者のうち70%は女子だそうだ。トゥーラさん(18)は、「すごくクールな仕事で楽しいわ、音楽祭にも無料で入れるしね」。
「ゴミ袋からは色々なものがでてくるのよ。小銭とか、出演アーティストが何を食べたかわかるメモとか! 一口も食べられていないチョコレートやポテトチップスもあるのよ。それは私たちが休憩中に食べちゃったわ」と、ヤスミンさん(17)は微笑みながら答えた。
拾ったゴミをお金に換金
子どもたちが笑顔でゴミ拾いをする姿は、オイヤでの恒例の光景となっている Photo:Asaki Abumi
会場内の至る所では、大人が飲み終えたプラスチックのビールコップや、ポップコーンの箱を、子どもたちがせっせと集める姿が目に付く。酒が入っていたプラスチック容器、たばこの吸い殻、酒の包装紙をお金に交換できる、「パント」という制度だ。
Photo:Asaki Abumi
パント制度は、子どもにとって、楽しいお小遣い稼ぎとなっている。昨年は、4日間で1万ノルウェークローネ(約15万円)を稼いだ強者もいたようだ。一部ではゴミ拾いで収入を得るためだけに、コンサートのチケットを購入する大人もいる。
Photo:Asaki Abumi
この兄弟は1時間で拾ったゴミを、226ノルウェークローネ(約3,400円)に換金した。お兄ちゃんは、お金を貯めてキックスケーターを購入したいそうだ。
ゴミになるから、広告紙はお断り
オイヤでは、できる限りゴミを出さないようにするために、スポンサーも紙媒体での広告紙や無料サンプルの配布が禁止されている。
これらの結果、2014年度はごみの72%をリサイクルすることができた、それは、オスロを走る1万3千台分もの自動車が排出する二酸化炭素に値する。2015年度は75%が目標とされた。
2014年度は会場で消費された70%もの紙資源をリサイクルすることに成功。今年は音楽祭の情報はネットやアプリで配信し、その結果2,2トンの紙資源を消費せずにすんだ。
結果、会場には不思議なほど、チラシが落ちておらず、ゴミを拾い、分別する子どもたちのお陰で、芝生の上のゴミもすぐに撤収される。
家庭のゴミをプレゼント
Photo:Asaki Abumi
オスロ市の協力の下、市民が廃棄した家具や雑貨を集め、プレゼントするキャンペーンもおこなわれた。よく見てみると、ヴィンテージの北欧家具など、日本では高額で取引されそうなものが多かったことには驚いた。
観客は自転車で来場
Photo:Asaki Abumi
オイヤの観客の80%は中心地に住む市民で、会場に簡単にアクセスできることから、公共交通機関ではなく、自転車での来場が促されている。
2014年度の観客からのポジティブな評価を受け、今年は駐車場の面積を2倍に増加(1000台が駐車可能)。さらに地元で人気の自転車屋さんがブースをかまえ、自転車来場者には、無料で自転車のメンテナンスをおこなう。
「昨年は収容可能のスペースが3時間で埋まってしまい、今年は4時間で埋まってしまいました.。来年はもっと増やさないと」と、緑プロジェクト担当のイングリ・クレイヴァ・ムッレルさんは語る。
ほかにも、道具の運搬やアーティストの送迎は、水素エネルギーを使用した自動車や、電気自動車(ノルウェーは電気自動車が世界で最も普及している国)という、グリーンな徹底ぶりは変わらない。
94%はオーガニックフード、今年のテーマは「ミートフリー」
食企画が開催されたオイヤの畑 Photo:Asaki Abumi
会場内にある飲食店の屋台では、可能な限りほぼ全てがオーガニックフード。今年は、可能な限り、飲食で「肉」を使用しないように努め、店舗の50%はベジタリアンメニューを出している。
地元農家が生産した果物や野菜を食べるように、ミートフリーを推奨。農業を身近に感じてもらうために、農家を連想させる小さな畑やワラでできた椅子を設置。海藻やキムチなど、ノルウェーではまだまだ馴染みのない食材を試す企画も行われた。
毎年グリーンな企画満載のオイヤ。いつか、来場者全員でゴミ拾い、食事もすべてベジタリアンという試みがいつ始まっても、不思議ではない。子どもや市民に、楽しくグリーンな意識喚起をさせるアイデアが、このフェスにはたくさん詰まっている。
2014年度のレポート記事
Photo&Text:Asaki Abumi