教育差別を受けるロマの子どもたち © Jiří Doležel
「ロマ」と呼ばれる人たちについて、聞いたことがあるだろうか。「ジプシー」とも呼ばれる民族のことだ。近年は「ジプシー」が差別的な意味を含むとして「ロマ」という名称が使われることが多い。ロマという名前にはなじみがなくても、ジプシーなら聞いたことがある、という人は多いのではないだろうか。
中世にインド北部から移動してきた言葉も習慣も見た目も違う彼らを、当時のヨーロッパの人びとは初めは好奇の目で、そしてすぐに「よそ者」として排除するようになった。村はずれに暮らすことを強いられ、村に入ることを禁じられた。農奴や奴隷として扱われたこともある。迫害にもさらされてきた。
そして、今もなおロマへの差別と偏見は根強く残っている。
■□■ チェコ教育現場での差別 ■□■
差別は子どもにも向かう。そしてそれを行政が助長している。ハンガリーで、ルーマニアで、スロバキアで、チェコで、ロマというだけで一般教育からはじき出し、知的障がい者のための学校やロマだけを集めた学校へと追いやっているのだ。
アムネスティはこの問題に取り組んでいる。現地調査で差別の実態を明らかにして発信し、状況改善のために政府や市民に働きかけてきた。
今年はチェコで行われている深刻な差別を、レポートとして発表した。ロマの子どもたちは公用語のチェコ語が母語でないことも多いが、チェコ政府はサポートを行うどころか、面倒だからと一般の学校への入学を拒否しているのだ。
チェコの人口に占めるロマの人びとの割合は3%に満たない。にも関わらず、軽度の知的障がい者用の学校・学級の子どもたちの30%近くは、ロマの子どもたちだ。明らかに異常な多さだ。
こうした差別はEU法や国際人権法に違反する行為であるが、それがチェコではまかり通っている。
また、たとえ一般の学校への入学を許されたとしても、生徒や教職員たちからいじめや差別的な扱いを受けたりすることもある。
一般レベルの教育を受ける機会を奪われることは、将来の可能性も摘み取られてしまうということだ。そして貧困や疎外から抜け出せない悪循環に陥らされてしまう。チェコ政府はこういった状況に対し適切な対策をとることを怠ってきた。これは人種差別以外のなにものでもない。
■□■ 子どもたちが経験した差別 ■□■
11歳のカレルとその妹ヤナが通っていた学校には、ほかにロマの子どもたちがいなかった。「妹のヤナがいじめられて、怖くて学校に連れて行こうとすると泣き出してしまうようになったんだ。それで僕がヤナをいじめた子どもたちと喧嘩したら、僕だけ叱られた。それがどんどんひどくなって、学校に行かなくなったんだよ」
チェコでは正当な理由のない欠席が続くと、保護者の法的責任が問われるため、結果的にカレルとヤナは家族から引き離され、児童養護施設に入れられることになった。
15歳のアンドレは5年生のときに軽度の知的障がい者用の学校に入れられた。
「前はスロバキアに住んでいて、サッカーが好きで将来はサッカー選手になるのが夢だったんだ。いくつもトロフィーをもらったよ。それがチェコに引っ越してきて、チェコ語が分からなくても誰も助けてくれなかった。落第点を取ってしまった時、テストを受けさせられて、違う学校に行かされることになった。そこでの授業の進みは遅いし簡単だ。僕は高校や大学に行きたいんだけど、先生たちは無理だって言うんだ」
■□■ 差別を終わらせるために ■□■
国際社会からの痛烈な批判をたびたび受けながらも、チェコ政府は、問題の核心を解決できず、いまだにロマの子どもたちを「分離」して教え続けている。
2007年に欧州人権裁判所がこの分離教育は差別であると断じて以来、チェコ政府は教育制度の改善策を何度も発表してきた。しかしどれもロマの子どもたちに対する教育差別に正面から向き合ったものとは言えず、約束した策の実行も不十分だ。
アムネスティは、チェコの首相に対して、ロマの子どもたちへの学校における差別を終わらせるよう呼びかける、オンライン署名キャンペーンを展開中である。
あなたの署名が、ロマの子どもたちが平等に教育を受けられる社会を実現するための力になる。
すべての子どもたちは平等に教育を受ける権利を持っている。人種差別によりその権利が奪われること、そしてそれを見過ごすチェコ政府の現状は決して許されるものではない。
(アムネスティ・インターナショナル日本)
★☆★ オンライン署名に、ぜひご参加ください。 ★☆★
▽ チェコ:ロマの子どもたちに未来を!
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