筆者は昨年、30歳になりました。
親世代が年金受給者になり、一気に「老後」が身近に。20代の頃には耳に入って来なかった「介護」などのニュースも目に入り、将来への漠然とした不安を感じるようになりました。
私が60代になった時、年金ってもらえるんだろうか?自分でできる備えを何かはじめなきゃ。でも何から...?
三十路の「老後」"初心者"の私が、慶應義塾大学の研究員でもあるファイナンシャル・プランナーの加藤梨里さんに相談すると「個人型確定拠出年金を正しく理解して、老後の資産運用をはじめてみるのはどうでしょうか」という言葉が返ってきました。
か、確定拠出年金...?それっておいしいの? 誰でもできるの?知識ゼロの私にもわかりやすく、解説してもらいました。
■そもそも「年金」もらえるのか不安です。
——老後の生活を支えるお金といえば「年金」。でも年金と聞くと、税金のように国に納めて自分が65歳になった時から受け取ることができるモノという漠然としたイメージで、自分で運用できるという発想はなかったです。
年金には国が運営する「公的年金」と企業や個人が運用する「私的年金」の2種類があります。
一般的に「年金」というと、10年以上掛け金を納めた国民全員が65歳から受け取る「国民年金」や、企業に勤めた人が納めた額に応じて受け取る「厚生年金」などの「公的年金」を想像する人が多いかもしれません。
でも、老後に向けたマネープランを考える上では「私的年金」が鍵になりますよ。
——確かに、年金支給開始の年齢を引き上げるという話もありますし、自分が65歳になった時にちゃんと公的年金を受け取れるイメージがもてません...。
高齢化などで公的年金を取り巻く状況がどう変わっていくかわからないという不安はありますよね。
また、公的年金の受取額は、サラリーマンの場合には、国民年金と厚生年金を合わせて月額平均22万円ほど(注1)。自営業の方は、サラリーマンや公務員と違って加入できる「公的年金」が原則として「国民年金」だけなので、老後に月々受け取れる年金は約6万円(注2)です。不安なく暮らしていける十分な金額とは言い難いですよね。
そこで今日は、公的年金への上乗せ制度である「私的年金」の中から、20歳以上なら原則、誰でも加入ができる「個人型確定拠出年金」についてお話しします。
(注1・2)厚生労働省が発表した平成29年度の新規受給モデルを参照した数字を参考値として記載しています。夫が平均的収入(平均標準報酬月額42.8 万円)で 40 年間 就業し、妻がその期間すべて専業主婦であった場合の金額です。
■個人型確定拠出年金って何? 難しそう...
——個人型確定拠出年金...。漢字が多くて難しそうです。
そうなんです(笑)。国も、少しでも親しみを持ってもらうために厚労省や金融機関などがiDeCo(イデコ)」という愛称で国民に周知を図っています。
そもそも確定拠出年金には、会社員が勤めている会社を通じて加入する企業型と、個人が金融機関を通して加入する個人型があります。企業型は退職金制度の1つとして大企業を中心に導入されていて、基本的には、掛金は全て会社が負担しているんですよ(一部例外があります)。
——さすが大企業は違いますね。でもそういう制度がない状況の人の方が多いですもんね。「個人型」について知りたいです。
iDeCoは元々、自営業者など一部の人のみが加入できる年金だったのですが、2016年1月から、原則20歳以上のすべての国民が加入できるようになり、注目を浴びました。
個人が銀行、証券会社などの金融機関に行って口座開設の手続きをして、加入し、毎月積み立てていくんですよ。積み立てたお金は「年金」として原則60歳から受け取ります。
公的年金との一番の違いは、自分で運用するという点。ルールの範囲内で、いくら積み立てるのか、どういう金融商品を組み合わせるのかを自分で判断します。将来受け取る金額が、自分の運用実績によって決まるんです。当然、元本割れのリスクもあります。
掛金の上限は、会社員やその扶養者は原則として月2万3000円まで。自営業者は月額6万8000円までです。ただし会社員の方はお勤め先の制度によって、そもそも個人型に加入できない場合や上限金額が異なる場合があるので注意が必要です。
注意事項やリスクについては後編でまとめてお話しします。
——自分で運用するというのは、ハードルが高そうです。
定期預金や積み立て型の保険などの元本が確保される商品と、投資信託といって値動きのある商品があるので、組み合わせて選んでいくのがいいと思います。
値動きのある商品で大きく利益が出たら、その金額を定期預金に移すなどして、少しずつ利益を「確定」させていくといいかもしれません。
加入すると60歳まで続きますが、途中で休むこともできますよ。
——「運用」とか「利益」とか聞くと、途端に難しそうに聞こえます。
運用での利益とは別に、確定拠出年金にはメリットがあります。それは税の優遇を受けられるということです。
■サラリーマンでも「iDeCo」で節税できるの?
——確定拠出年金に入ると節税できるってことですか? 詳しく教えてください。
1つ目のメリットは、積みたてた掛金は全額、控除の対象になるので、所得税と住民税が軽減されるという点です。例えば、年収が450万円の人が月々1万5000円の掛金で積み立てると、3万6500円の節税になることがあります。(注3)
2つ目は、運用で利益が出た際に利益に対して税金がかからないという点です。通常、株式や投資信託の運用で出た利益に対しては、20.315%の税金がかかりますが、確定拠出年金では、それがかかりません。
3つ目は、60歳以降の受け取りの際にも、税金の控除が受けられるという点。iDeCoの受け取り方法は60歳以降に分割で受け取る「年金」、一括で受け取る「一時金」、両者を組み合わせる「年金+一時金」の3パターンから選択できますが、いずれの場合にも受け取り時の税金がかからないか、少額で済む仕組みになっています。
(注3)個人によって受けられる他の各種税控除が異なるため、確定拠出年金による節税効果額が異なることがあります。あくまで一例としてご参考ください。
——なぜトリプルで節税の恩恵を受けられるんでしょうか。ちょっとおいしすぎるような...。
国が国民にもっと自発的に資産形成してほしいからでしょうね。金融教育の不足や制度の不十分さも背景にあるかもしれませんが、日本人の傾向として、資産を運用するという発想がなかなか根付いていません。
超高齢化社会に突入している中、全ての国民の老後を公的年金でまかなうというのも現実的ではない。税の優遇をすることで、個人レベルでの資産運用を促したいのだと思います。
——加藤さんのお話を聞いていたら、気持ち的には、明日から「iDeCo」を始めた方がいい気がしました!
税の優遇が受けられることは、確かに家計にとって大きなメリットです。
それに「老後の備えなら預金で大丈夫」と思っている人もいるかもしれませんが、老後を迎える数十年後に、大きく物価が変わらないとも限りません。
金利がほぼつかない預金だけでなく、少しでも増やせる可能性のあるiDeCoを検討してみるのは良い選択肢だと思います。
ただ、iDeCoは原則として積み立てたお金を途中で引き出すことができないですし、正しく理解しないで始めてしまうのが一番危険です。
後編では、iDeCoの主なリスクと注意点について説明します。
■加藤梨里 プロフィール
ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、慶應義塾大学スポーツ医学研究センター研究員。保険会社、信託銀行を経て、ファイナンシャルプランナー会社にてマネーの相談、セミナー講師などを経験。2014年に独立し「マネーステップオフィス」を設立。専門は保険、ライフプラン、節約、資産運用など。
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