「がん患者になったら働けない」はウソ。ポーラと伊藤忠が問いかける”新しい常識”

2人に1人はがんになり、3人に1人ががんで亡くなる

国民の2人に1人は一生のうち1度はがんになる、と言われる。がん罹患者の3人に1人は就労世代だ。

病院でがんを告げられると、多くの人は仕事のことが頭をよぎるという。

上司に言ったら、責任あるポジションから外されるのではないか。働けなくなり、収入がゼロになるのではないか。がん患者になったら、仕事は出来ないのだろうか——。

「世界対がんデー」の2018年2月4日、「ネクストリボン シンポジウム がんとの共生社会を目指して」に参加した、化粧品会社・ポーラの横手喜一社長と、大手総合商社・伊藤忠商事の小林文彦専務は、そんな常識に異を唱える。

社員が病気を申告しやすい雰囲気

2016年にポーラの社長に就任した横手氏は、ポーラの化粧品やお手入れのサービスを全国各地で提供するショップオーナーの中に、余命1年の宣告を受けながらも、仕事に復帰した女性がいたことに驚いたという。

「女性を支えて女性に支えられる我々にとって、(がんと就労は)しっかりと向き合って取り組んでいくべきテーマではないか、そんな気づきを得られたことから、現在の取り組みにつながっています」

ポーラでは、がんに対する理解を深めるためのプログラムを進めるため、がんとともに生きることを念頭に置いた人事制度などを今後導入していくという。そのために、社員が自身や家族の病気について申告しやすい雰囲気を作っていく。

「自分たちがお客さまに提供しているお手入れのなかに、ハンドトリートメントというサービスがあるのですが、それをがん患者の仲間に提供すると非常に喜んでいただける。自分たちがやっていることに非常に誇りが持てるということを教えてくれたのです」

「(がんと向き合っている話など)普段からできるという環境は、たぶん仕事をする上でもいい環境だと思います。風通しの良さという意味において、さまざまな話が自然にできることに対して、がんと共に生きるというテーマは、大きな可能性を秘めていると実感させていただきました」

ポーラの横手喜一社長
ポーラの横手喜一社長

社長と社員のメール交換から始まった

伊藤忠の小林氏は、がんを抱えている社員と社長との個人的なメールのやり取りが、会社としてがん患者の支援を行うきっかけになったという。

「その社員は長い間がんで闘病していて、先輩、同僚、上司から受けているサポート、会社がしてくれている施策に対して非常に感謝していて、社長に対して、『これだけ良くしていただいて感謝に堪えない。できるだけ早く復帰して仕事がしたいです』とメールを送りました。

大変残念なことに、その2週間後、その社員は亡くなられました。社長と私が告別式に参列したのですが、社長は涙ながらに『"日本一いい会社だ"と彼が言ってくれていた会社に、本当にしよう』と、霊前に誓ったのです」

伊藤忠は、企業として初めて国立がん研究センターと提携し、がんの早期発見を促す検診を定期的に行っているほか、高度先進医療を受けられるように全額費用負担するシステムを導入している。

「うちは同業他社と比べても3割から4割、人員数が少ないんです。だから、社員一人ひとりが全員元気で活力を持って働いてもらわなくてはならない。特に一人ひとりを活性化させていく、健康を担保していくということについては、関心が深くならざるを得ないのです」

伊藤忠商事の小林文彦専務
伊藤忠商事の小林文彦専務

がん対策は企業に必要なのか

企業にとって、がん対策はなぜ必要なのかという質問に対し、両氏はこう答えた。

「企業は社会に支えられる存在でなければならないと、私は思っています。社会に支えられることでしか企業の永続性ってあり得ないんですね。2人に1人ががんになる時代において、がんと共に生きるということは社会と共に生きることそのものだと思います。

社会と共に生きることを経営が必要とするのであれば、おのずとがんと共に生きることに向き合わざるを得ない。がんと共に生きることに向き合い、経営がそれを課題として考えていくのは、社会に対する視線や感度を鍛えてくれることになるのではないかと思っています」(横手氏)

「理念はどこの企業にもあると思いますが、私どもは企業理念を『豊かさを担う責任』と申し上げています。しかし、豊かさを担う責任を、社員が普段体感することはそれほどありません。

だからこそ、がんと共生する私たちの施策が、社会を少しでも良くすることに寄与できているのではないかと、社員や役員が体感できた実感を持てたということが、大きな気付きと学びでした。

私たちの施策はいろいろな皆さまのお力を通して、私たちの企業価値を上げ、かつ私たちの社員の忠誠心や帰属意識、やる気、やりがい、誇りなどの思わぬ副産物を生んだのです」

最後に司会を務めたハフポスト日本版の竹下隆一郎編集長は「私たちがたくさんの時間を過ごすオフィスでの変化は、日本社会へと波及する。働き方や生き方の価値観が、企業社会から変わっていけば、私たちのがんとの向き合い方もアップデートされていくのではないか」と語った。

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