【アルマーニ標準服】保護者が語る「泰明小を取り巻く環境とまなざし」

「『泰明とはこうあるべき』という期待や圧力に囲まれながら、和田校長は長期間に渡ってお仕事をしてきた」
泰明小学校
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時事通信

アルマーニ標準服を今春採用する東京都中央区立泰明小学校について初めて報じた2月8日、同小学校の保護者からメールが送られてきた。

「記事の内容と一般読者の方々の意見を拝見すると、今回の記事を読んだ読者の中には和田利次校長個人の問題として批判する書き込みも目立ちますが、現場にいる保護者からは違う側面も見えている事をぜひお伝えしたく、意見させていただきました」

「確かに私自身も、昨秋、制服について校長からの文書を読んだ時は文面に違和感を感じました。ただ今回、校長があのような誤った判断をした背景には、この学校が置かれた環境が影響しているのかもしれないと想像しています」

どういうことなのか。この保護者の話から、泰明小学校の置かれた環境と、向けられる「まなざし」について考える。

泰明小学校の学区域は、繁華街・銀座の大半が、ほぼすっぽりはまる。だが、この地域に住む児童はきわめて少ない。このため、希望者を受け入れる特認校の一つとして、中央区内に住んでいることを条件に、希望する子どもを受け入れている。ただ、希望者も多く、抽選で当たらないと入れない。

「何校か特認校を見学し、勉強に力を入れているというこの学校の方針に期待し、子どもを通わせることにしました。この学校しか知りませんが、入ってみると何か特別なことをしている訳ではない。そういう意味では普通の公立小学校なんです」

「ただ、私立中学校を受験する子どもが大半で、6年生の3学期になると私立中学の受験もあるため、学校に来る子どもが数人しか来ない日もあるんだと、子どもから聞いたこともあります」

和田利次校長は5年前に赴任してきた。以前は、今のような感じではなかった、とこの保護者は振り返る。

「毎朝スニーカーで校門に立ち、子供達にやさしく挨拶をされる、どちらかと言えば素朴で気さくなおじさん、という雰囲気の方です」

「学校のイベントなどでも、保護者チームと先生 チームに分かれ、どちらのチームの手作り焼きそばがおいしいか、子供たちに投票させる、などのアイディアを出すなど、本来、子供達がどうしたら楽しく過ごせるか、第一に考えていた方でした。以前の講話は大変ユーモアがあった」

会見で説明する和田利次・泰明小学校校長=中央区役所
会見で説明する和田利次・泰明小学校校長=中央区役所
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しかし、年を経るにつれ、講話の内容も、ユーモアのあるものから「泰明小が周囲からどう見られるか考えなさい」という内容のものに変わっていった。

「先生の表情もどこか少しずつ険しくなっていきました。最近は子供たちよりも周囲の関係者にどう思われるか、という事ばかりに目がいっていたように感じていました。『登下校時に街中を走るな』とか『校外でも泰明小の児童らしく振る舞え』とか、学校からは、そればかりが話に上るようになりました」

標準服について説明している保護者向けの文書で、和田校長は「私が泰明小学校の在るべき姿としての思い描いていることとはかけ離れた様子、事実があることも否めません。なぜ、本校を選択されたのですかと問い返したいと思う出来事や対応が多いこと、これが泰明の実態だったのでしょうかと、学校を管理する者として思い悩むこともしばしばです」と綴っていた。保護者によると、特に、通学にバスを使う子どもが騒ぐと苦情が寄せられることについては、苦慮していた様子だったという。

「『通学に乗る路線バスで児童が騒いでうるさいという苦情が学校に入る。子供達に自覚をもたせてください』という話を保護者会のたびに繰り返すようになりました。実際、苦情の中で『泰明小の名前に恥ずかしくないのか』と言われたそうです。私自身は『小学生だから多少うるさくても仕方ないのでは?』と思っていましたが、校長の立場上、苦情の矢面に立たされて困っておられたと思います」

地域とのつながり方で考えさせられることもあった。

「地元の商店街の方々にも課外活動などでお世話になる機会も多いのですが、学校側はそこにも気を遣いすぎているようでした。例えば春の新任の先生方との交歓会と新年の賀詞交歓会が開かれ、地域の商店街の方もお招きするのですが、PTAのクラス役員に選ばれた保護者は会費5,500円をその都度、強制徴収されています。その費用は主に会の食事代に使われますが、平日夕方から始まるため、多くのクラス役員は長居できる時間はなく、会食の頃には帰宅しなければなりませんので、安くはないお金を払いながら結局食事をする時間はありません。毎回食事が大量に余り、結局廃棄されています。『今回も沢山食事が余りましたね。でもあれくらい頼まないと、お客様もいる手前、見栄え的に悪いですから』という役員もいます」

2017年11月に配られた校長の保護者宛て文書を読むと、この学校が置かれた環境や周囲のまなざしが伺える表現が出てくる。「泰明小学校が醸し出す『美しさ』」「気品ある空間・集団への凝集性」「泰明小学校の一員であることの自覚」「泰明の子らしく」「泰明小学校の児童はかくあるべき」「泰明の子は注目されます。そういう衆目に応える姿であるかどうか」「泰明小学校はやはり特別な存在」

「保護者の中にも一部ですが、『泰明』という学校に、ブランドのような意味合いを抱いている方もいます。『ハイソサエティーの家庭の子どもが通う学校なのだ』というような。そうした家庭が通うにふさわしい『何か』を学校そのものに期待している人もいます。PTAなどの活動の場でも『泰明愛』『泰明イズム』といった言葉が関係者からしばしば出てくることもあります。でも現実は、とも稼ぎの家の子どももたくさんいますし、いろんな子がいるのです」

「地域で学校に関わりのある人たちや教職員、保護者の一部が寄せている『泰明とはこうあるべき』という期待や圧力に囲まれながら、和田校長は長期間に渡ってお仕事をされてこられました。そうした中で、校長自身が少しずつ影響を受けていったのではないかと思います」

中央区立泰明小学校の門の校章
中央区立泰明小学校の門の校章
時事通信

2月8日の会見で、和田校長は「泰明小でなければ、私はこういう話は進めません。銀座の街にある学校だからこそ進めてきたんです。アルマーニデザインの標準服が、泰明には合っている」と語った。この保護者は学校や地域の大人がいう「泰明らしさ」から、子供たちが置き去りにされていると指摘する。

「学校は、子供達にとっては『日常の場』です。でもこの学校では、一部の地域の関係者や保護者、教職員といった、大人たちが期待する『泰明らしさ』がまずあり、そこに子どもをはめて下さい、となっている。でも泰明の子、泰明らしさって、実体はそもそもないものでしょう。子どもの目線にたった指導かと言われれば、そうではないと思います」

「周りの環境や大人の目線中心ではなく、真に子供達がのびのび楽しく過ごせる小学校に変わる事ができれば、心から嬉しく思います」

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