中央区立泰明小学校の「アルマーニ標準服」が、物議を醸している。中央区教育委員会は2月8日夕方、記者会見を開いた。島田勝敏教育長は、保護者から選定への疑問や「高すぎる」という苦言が寄せられたことについて、「教育委員会として、学校に対して舵取りが甘かった」と責任を認めた。
記者たちからは、アルマーニがデザインを監修した標準服の「値段」について、疑問が相次いだ。
記者会見後に配布された資料によると、たとえば身長130センチの男子児童向けの上着(2万5920円)、半ズボン(冬用9180円・夏用8964円)、シャツ(長袖5616円・半袖5400円)、帽子(夏用2916円・冬用2916円)を買うと、それだけで6万円を越える。女子用(ブラウス・スカート)のセットだと6万6000円超えとなる。(全て税込み)
公開された価格表
なお、現在の標準服は上着、ズボン(スカート)、シャツ(ブラウス)、帽子の4点で男子は1万7755円、女子は1万9504円だという。
ここに着替えのシャツやズボンを加えれば、実際にはもっと出費が多くなるだろう。「必ず買わなければならないわけではない」(教育委員会)とはいえ、スモック(3240円)やセーター(9180円)、ベスト(8640円)、ソックス(冬用810円)なども用意されている。
標準服は「絶対に買わなければならないものではない」とされている。だが実際、泰明小学校に通う児童の中で標準服を着ていない子は「ほぼいない」(教育委員会)という。
島田教育長は「中央区の平均価格に比べれば高いという認識」だと話す。この価格を、教育委員会が把握したのは11月24日の直前。この段階で、事態は後戻りが難しくなっていたという。
伊藤課長によると、価格が判明した後に対応協議した案の中には、アルマーニ標準服ではなく「もともとの標準服」を使う案も出た。
しかし、業者に問い合わせたところ、「もともとの標準服」は、もう生産が間に合わない状況だった。校長の連絡で、業者がすでに製造ラインを止めてしまっていたのだという。さらにアルマーニ標準服が生産に入っていたという。
島田教育長は「(事態を把握したときには)かなりの部分で動いてしまっていた。後手に回ったと反省している。教育委員会として、学校との距離感が甘かった」と語った。
教育委員会としては、その時点で変更をかけた場合、「最悪のケースでは、どこの標準服も手に入らない状態になる」と判断。そのリスクを回避するため、2018年の新入生については、アルマーニ標準服のままで行く方針を固めたのだという。
ところで、そもそも、「アルマーニ標準服」には、どんな経緯で決まったのか。
教育委員会によると、事態が動いたのは、2017年の夏前。校長から口頭で「アルマーニ社がデザインの監修を引き受けてくれることになったので、来年4月に向けて標準服の変更の準備を進める」と、教育長に報告があった。教育長からは「PTAや地域の方々と十分話し合って進めるように」指導した。
それ以前の詳しい経緯について、教育委員会はどこまで把握しているのか。
校長が、どこのどんな企業に、どんな基準で打診したのかについて、伊藤課長は「学校長が自分で任意にいくつかを選んで、個別に当たりました」と語った。
では、業者とのやり取りについては...。
伊藤課長は「これまで、アルマーニ標準服について、和田校長から文書での報告をうけたことはない」と発言。やり取りはすべて口頭だったと明かした。
「和田校長は業者名をいくつか口にしていましたが、正確性を期すため、ここでは答えられません。アルマーニなど業者と具体的にどんなやり取りがあったかなど、詳細は聞いていません」(伊藤課長)
和田校長は業者の選定について、「校務をつかさどる校長が決定した」「おおよそのことが決まってから、PTA会長や役員の方々に報告したので、(PTAが)選定過程で関わることはなかった」などと述べている。
和田校長は2月8日、アルマーニ標準服の導入についての文書を、学校のサイトで公開。「これからの泰明小学校を思い決断したこと」と改めて表明した。また、「11月の文面で十分に思いが伝わらなかったことを反省し、残念に思っております」述べた。
また、「説明が足りなかったこと、タイミングが遅かったというご指摘については謙虚に受け止め、これからもご関係の皆様には、丁寧に説明を行って参ります」と綴っている。
アルマーニ標準服の導入経緯や、業者とのやり取りなどについては、和田校長が誰よりもよく知っているはずだ。和田校長の説明が待たれる。
《これまでの経緯》(教育委員会の資料より作成)
2017年9月22日
新入学予定者向け学校説明会で、来春から標準服を変更すると説明があった。標準服のサンプルが示されたが、価格は未定だった。
10月2日
伊藤課長が泰明小を訪ね、校長から標準服変更の経緯、考え、価格見通しなどを聞いた。
伊藤課長は「保護者が誤解している様子なので、正しい情報を伝えて、誤解を払拭する必要がある」と申し入れた。
校長は「10月7日の運動会が終わったら、趣意書を作成して、保護者に配布する」と答えた。
10月10日
区長宛てにメールがあった。「標準服の変更を、校長の権限で、関係者の了解もなしに進めてよいのか」という趣旨だった。
11月14日
伊藤課長が泰明小PTA関係者と面会し、これまでの経過について尋ねたところ、「7月のPTA理事会、9月のPTA評議委員会で説明をしている。9月22日の学校説明会でも話しているので、保護者に説明するようお願いした」との話を聞いた。
11月17日
学校長が全在校生の保護者あての文書「平成30年度からの標準服の変更について」を出した。
11月20日
泰明小の保護者から匿名電話。「なぜアルマーニなのか。校長はビジュアルアイデンティティーを言うが、違うと思う。在校生にも卒業生にも何の説明もない。同窓会でも一切話がない」といった内容。
11月22日
区長への苦情メール。「親の経済的負担が大きい」との趣旨。
11月24日
「アルマーニ標準服」の価格表が配られる。
11月29日
教育長が校長を呼び出し、説明が不十分だと指導。アルマーニ標準服を中止した場合の影響や、もともとの標準服の販売ができるかを確認するよう指示。
12月1日
校長は、ラインがないので現行標準服は作れない、すでにアルマーニ標準服が本生産に入っていると回答。
12月4日
泰明小で全体保護者会。校長から、保護者に非礼があったことのお詫び、校長としての思い、今後も保護者に丁寧に説明していくので、いつでも校長に尋ねてもらいたいと説明。また、在校生には新標準服は適用しない旨を説明した。その場では保護者から意見も質問もなかった。
12月25日
保護者から電話で苦情「兄弟で通学しており、標準服の負担が大きい」