養老孟司さんが語る“言葉”「同じにならないものを、人間はどんどん同じにする」

広辞苑に載っているのは「既成の言葉」 どういう意味?

岩波書店が1月12日、「広辞苑第七版」の発売を記念したイベント「広辞苑大学」をアーツ千代田3331(東京・千代田区)で開催した。

イベントの冒頭、岩波書店の岡本厚・代表取締役社長が登壇。「10年ぶりの大改訂となります。初日の部数は、我々の目標をクリアしている。非常に確かな手応えを感じている」などと挨拶した。

広辞苑大学については「全く新しい取り組みとして、広辞苑大学を開講しました。言葉の面白さを体験してもらいたい」「広辞苑を、意味を調べるもの、引くものではなくて、発見の場、表現の場としてもらいたい、そういう思いで開講しました」と抱負を語った。

ネット時代のいま、紙の辞書を発売することについては「紙ならでは。感じることが大事。つまり"経験"。(辞書を)引けばそれが"経験"になる。それが個人個人の一冊しかない広辞苑になる。"経験"は人間しかできない。AIは"経験"できない。ネット時代のいまだからこと、紙の辞書に触れて欲しい」と語った。

1月12日に発売された「広辞苑第七版」。フェミニストの説明も変わった。
1月12日に発売された「広辞苑第七版」。フェミニストの説明も変わった。
Kaori Sasagawa

広辞苑大学では、東京大学名誉教授で作家の養老孟司さんが「壁を超えることば」をテーマに講演した。

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養老さんは、広辞苑に載っているのは出来上がった「既成の言葉」と表現した。解剖学と分類学をもとに、新しく生まれる言葉や、動物と人間の認知の違い、英語や中国語と比較した日本語の特性などを豊富な知識から紐解いた。

養老さんは、「同じにならないものを、人間はどんどん同じにする」として、動物と違って「音の高さが違っても(違う音でも)、言葉を同じにすることができる」と説明。典型的な例としてお金を挙げ、「等価交換って同じ言葉を2回使っている」「言葉は、根本的に、同じにする能力の上に成り立っている」などと、その特性を語った。

様々なかたちのリンゴやナシが、言葉が生まれて、同じになっていく。
様々なかたちのリンゴやナシが、言葉が生まれて、同じになっていく。
Kaori Sasagawa

「言葉にスタンダードがあるとしたら、それを表しているのは辞書」だと語り、「スマホで(辞書を)引いちゃうんですが、もういっぺん時間がある時に引いてほしい」「(広辞苑は)重たい。体力がいる」「今の人は体力がない。指の先で押せばいいってもんじゃない。楽すると何が起こるか。自分が教育されない。車乗ったら歩けないのと同じ」と呼びかけた。

1階の会場では、これまでの広辞苑が展示されているほか、広辞苑グッズなどが販売されている。マスキングテープには「炎上」「小悪魔」「レジェンド」などの言葉の意味が並んでいた。

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