セクハラ告発後、はあちゅうさんがさらに苦しんだ1週間 「人生で一番、心ない言葉を浴びました」

被害者の「あら探し」を始めてしまう日本

「セクハラは、誰が誰に受けているかを明確にしないと、ずっと怯えて生きていかないといけない」

ブロガー・作家の、はあちゅうさんが、電通のトップクリエーターだった男性のKさんから「セクハラ・パワハラを受けた」とBuzzFeedのインタビューで告発した。

はあちゅうさんは、元電通社員。「深夜、自宅に呼び出されて正座をさせられた」「顔や体について性的な言葉をあびた」。はあちゅうさんのこうした訴えに続き、似たような被害をネットに書き込む「 #MeToo 」の声が上がった。

一方で、はあちゅうさんへの批判も起こった。特に、はあちゅうさんの過去のTwitterでの「童貞」をネタにした発言などが掘り起こされ、「はあちゅうさんも、セクハラをしている」という指摘が相次いだ。はあちゅうさんはいったんブログで謝罪したが、後に撤回し、謝罪文を削除した。

告発から1週間——。「人生で一番、敵意や心ない言葉を浴びました」というはあちゅうさんに、ハフポスト日本版が聞きに行った。

Ryan Takeshita / HUFFPOST JAPAN

インタビューは、はあちゅうさんの新刊「『自分』を仕事にする生き方」(幻冬舎)のトークイベントを前に行われました。本についての記事はこちら。また、はあちゅうさんは、セクハラ・パワハラを訴えた相手に対して、取材中は「Kさん」と表現したため、匿名にしています。

——はあちゅうさんは2009年に慶應大を卒業し、電通に入社しました。2010年頃、電通社員だったときに受けたパワハラ、セクハラについて、このタイミングで声を上げたのはなぜでしょうか。

多分、(過労自殺した元電通社員の)高橋まつりさんの事件から私にはモヤモヤするところがありました。まつりさんの死に対して、すごく胸が痛む自分がいるんですけど、どこかで、「でももっとひどい状況でも働いている人がいる」と思ってしまう。なんで私はこんなに意地悪なことを思うんだろうと、眠れないくらい気持ちが消化できませんでした。

(セクハラされて)私もつらい思いをして我慢していたけど、これだけ世の中で騒がれることなんだと思いました。消化しきれない思いを抱えていて、加えて伊藤詩織さんの報道がありました(※ジャーナリストの伊藤さんが、元TBS記者だった男性に仕事の相談をしたところ、「お酒を飲まされて、望まない性交渉をさせられた」と訴えた)。

ちょうど元TBS記者の方の本を読んでいて、すごいと思っていたところで、女性である伊藤さんから声が上がって。自分に近いことが起きているのに、でもその記者の方がネット上で私の本を褒めてくれたことがあったから、伊藤詩織さんの側について私がつぶやいちゃいけないような気がしていました。

報道を見ていくにつれて、私は伊藤さん側の人間で、同じこと(セクハラ)をされて、社会的に上の立場の人の裏の顔に苦しめられるという、同じ感情で、悔しかったのに、本を褒められたからというだけで、つぶやけない自分がいる。同じ女性なのに、面倒なことに触れない自分が卑怯な気がしました。伊藤さんが被害を訴えた本(「Black Box」文藝春秋)を読んで、私の話が書いてあると思ったんです。

同時に、この人はこうやって戦っているのに、自分は相手のことを許してないし、セクハラが世の中からなくなって欲しいと思っているのに、ずっと逃げていた、と自分を責める気持ちが沸いてきました。その頃から、あの時のことがフラッシュバックするようになりました。それまでも何回もあったんですけど。

伊藤さんの事件を見るのがつらいと気づいたんです。自分の経験がフラッシュバックするから。会社を辞めて関わらないようにしようと思っていたけど、ずっと心の中にあったんだと気づきました。

Ryan Takeshita / HUFFPOST JAPAN

——高橋まつりさん、伊藤詩織さんの件で、あらためて過去のセクハラ、パワハラの経験と向き合うことになったんですね。

そんなときに、友人だった編集者さんが、(セクハラ被害を受けた)Kさんの本の出版を準備されていると聞きました。私はその編集者さんに、自分の受けたセクハラの話をしてたんです。その人は、話を聞いたうえで本を出版すると言いました。

「本が売れたら、読者の若い人たちが、Kさんに会いに行って、私と同じ目に遭うかもしれない」と思い、伝えてみましたが、それでも、「本は出す」ということでした。

私が世の中に出してないことは、世の中的にはなかったことになる。誰も訴えなかったことは、なかったことと同じ。これでいいんだろうかという思いがありました。

それから、もともと仲の良い編集者さんだったのに、その一点で相手のことを嫌いになってしまいそうでどうしたらいいかわからない、ということを個人的にある人に相談したんです。その人は、編集者さんとは面識がありませんが、とにかくそのセクハラの話はひどいから、一度誰か公正に聞いてもらったほうがいいと言われて、BuzzFeedさんを紹介していただいたんです。

「そんなに大したことじゃないんですけど」と話し出したら、「いや、それは立派なセクハラとパワハラですよ」と言っていただけて...。

それを聞いたときに、わっと涙が出たんですね。私が受けてきたことは、「ひどいことだ」と言ってもらえることなんだと気づきました。

それまでは色んな人に相談しても、「あの人(Kさん)は仕事ができるからね」とか「あの人、面倒臭い人よね」としか言われなかったのに、会社を出たらこんな風に言ってもらえる。なんで、私もっと早く第三者に相談しなかったんだろうと思いました。

——同じ会社の人ではなく、第三者への相談は重要ですね。

なんで今か、と聞かれると、やっぱり、(Kさんが)本を出したのがきっかけです。本を担当した編集者さんはTwitterでもやりとりしているから、私の読者にもその人のフォロワーがたくさんいるんですよ。本が出た後、ものすごくたくさん「良い本だ」という感想が自分のタイムラインに流れて、見てて苦しくなって。伊藤さんも似た心境だったのかもしれない、と勝手に想像したりしました。

相手がメディアに出てきたり、自分の近くにいたりすると、その人のことを信奉している人が身近に見えてしまう。でも自分のされたことが言えない苦しさ。周りがどんどん敵になって追いやられてしまう感覚がありました。また、その方のことを「知っていますか?」とか「対談してほしい」と言われることもありました。なんとしてでも、私の人生に二度とあの人に近くに来て欲しくない、という気持ちが沸き起こったんです。

——Kさんの名前を実名で告発して、本人は電通から独立して立ち上げた会社の取締役を辞めました。名前を出すことについて悩みましたか。

最後の最後まで、悩みました。やっぱり実名で告発するべき問題だと思ったので、実名で(告発)しました。

私は退職後も色々な嫌がらせを受けていたんですけど、会社を出たら誰も助けてくれなかったんですね。だから、今後仕事をしていくうえで、その人の妨害を二度と受けないようにするためには、相手の実名を出す必要があると思いました。

セクハラは誰が誰に受けているかを明確にしないと、ずっと怯えて生きていかないといけない。

ブログにもすこし書きましたが、相手の実名が分からないと、「仲をとりもってやろう」とする先輩もいるかもしれませんし、一緒の仕事をセッティングされるかもしれません。私は何かの間違いで、広告業界のイベントで一緒になったらどうしようと約8年間思い続けていました。イベントで、Kさんがいそうだから行かないと思ったこともありました。

——実際、セクハラを告発した記事は大きな反響があったと思います。あれから1週間、今どんなことを感じていますか。

出して良かったとは思っています。もちろんすごく嫌なことも言われて、過去の私の人生のあら探しが始まり、人生で一番、敵意や心ない言葉を浴びました。この2、3日はすごく心がへばったりしたんですけど、でも、ものすごくたくさん応援の言葉ももらいました。

届いたメールには、「これまで、親にも家族にも言えなかった。私は、ネットに書くことはしないけど、はじめて親と家族に話した」と。私も、被害のことは親にちょくちょく言ってたんですけど、全部は言えませんでした。名のある会社に入って元気に立派に働いていると親に思ってもらいたくて、心配かけたくないという気持ちがあったから。

会社員の人が、仕事がなくなる可能性を背負って告発することは、本当に勇気がいること。仕事を辞めたくなかったら耐えるしかない。こういう社会を根こそぎ変えていきたいなとあらためて思いました。

ロボットが働きかたを変えるとまでいわれているほど未来を生きているのに、なんでこんなことがまかり通るんだろうと。対個人ではなくて社会構造やそれを容認している人に対して、憎たらしいようなやるせない気持ちが湧いてきましたね。

私は本当に小さなきっかけしか作れていないし、変わっていくのはこれからだと思いますが、今まではどこに味方がいるか分からなかくて、誰も相手にしてくれないという気持ちが、少しでも和らいだ人がいるんだったら言って良かったなと思います。

Ryan Takeshita / HUFFPOST JAPAN

——はあちゅうさんは被害を受けた側なのに、告発したことを批判されたり、悪口を言われたりして、さらに苦痛を与えられました。

予想以上に来ました。「ああ、被害を受けることって自分の責任なんだ」と思わされました。私がこういう人間だから「されて当たり前」とか、状況を知らない人たちが「もっとこうすればよかったのに」と言ってくることが苦しかったです。人に理解されないってこんなに苦しいんだということを、ただただ感じていました。

もし自分や自分の娘、大事な人に対しても、この人は、同じことをいうんだろうか...と考えながら、ずっと苦しかったです。

——一方で、はあちゅうさんをきっかけに、政治アイドルの町田彩香さんや、起業家の椎木里佳さんといった若い世代が声を上げました。

若い世代の目立つ子たちがまずは投稿してくれたのを見て、「上の世代は?」と。次の世代の人の方が、きちんとした健全な感覚を持っていると思いました。

多分、私たちより上の人の方が、「こんなことは我慢することだ」とか「こんなことはセクハラじゃない」と女性自身が思ってしまっていることが多い。こういうことを言ったら周りに「めんどくさいやつ」と思われる気持ちもあると思います。

——はあちゅうさんはこれまでの著書で、恋愛テクニックを披露したり、男性から「かわいくおごられる方法」などを書いたりしてきました。一見すると、セクハラの土壌となっている社会構造をこれまで受け入れてきたのでは、という批判の声もあると思います。

(そうした批判に対して)全く成熟してない社会だなと思ってしまいました。

恋愛とセクハラはまったく別ものなのに、どうしても延長上で考えてしまう人がいる。恋愛コラムを書いているような女は「尻が軽い」から、セクハラを受けて当たり前という論調の批判をいただいたんですけど、密室で組織の中で起こるセクハラと、自分が選択できる中での個人の恋愛や趣向とは違う話です。

セクハラの意識が高まっているアメリカでも、恋愛テクニック本はたくさん売れています。そこは絶対に混同しちゃいけないし、それを言うのであれば、全人類から恋愛を取り上げないと仕事ができなくなります。

おごる/おごられる問題に関しても、わたしは「男性がおごるのが当たり前と思うのは一種のセクハラなんじゃないか」というのは、それはそうだと思っています。「男性がおごるのが普通じゃないからこそ、おごられたら特別だよね」というのが私の考え方です。私は、恋愛のかけひきのない飲み会では、ふつうに割り勘がいいと思います。そういうことをちゃんと切り分けて考えられるのが、成熟した社会だと思います。

Ryan Takeshita /HUFFPOST JAPAN

——過去の童貞をめぐる発言について謝罪し、その後撤回しました。なぜですか?

すごく間違ったことをしたなと思いました。表現とセクハラは全然違います。

その環境自体が異常だという批判もありましたが、親友が「オトナ童貞」のためのメディアを立ち上げているので、そういうことを話題にしやすい環境にいたと思います。「童貞」という言葉を使っていても、話している内容は"中二病"です。自分も"中二病"だから、こういうことあるよねって自虐も込めて話している。

もちろん、「童貞」という言葉に拒否感を感じる人もいるので、それ自体は受け止めますが、差別用語で、話題にするのが一切NGとは思えません。そういうものも全部ダメだったら、ブスとか美人とか貧乳とか巨乳とか、人の容姿に関わることやコンプレックスに関わることは、すべて話しちゃいけないことになります。

私はフラットに話せることは健全だと思います。下ネタが全部なくなって欲しくはない。そういうものとセクハラを混同させてしまうという意味で、ネット上の声を受けて、自分が謝罪したことは、少なくともこのタイミングでは間違いだったと思っています。

私の考え方が全て正しいとは思っていませんが、過去の発言を全部振り返って、何も落ち度がない人でないと、#MeTooで返り討ちにあうという印象やセクハラされる人は本人にも落ち度があるという印象を、強めてしまったと思います。

——はあちゅうさんは、ちょっと過激な言動が売りの一種の「キャラ」としても見られています。今回の告発も、「はあちゅうが、何かした」とコンテンツとして消費されてしまった部分もあるかもしれません。また、今の社会は、訴えた人の言動が「好きか、嫌いか」「発言する資格はあるか」などを探ってばかりいます。どうしたらセクハラやパワハラそのものを議論できる社会に変わりますか。

ものすごく時間がかかると思います。理解してくれる人から理解が進んでいく、としか思えませんでした。普段、自分と働き方や生き方の部分で共感することが多いと思う人は、「応援するよ」と言ってくれました。でも、普段からこの人合わないと思う人は、やっぱりあら探しをしていました。

身の回りから、徐々に徐々に変えていくしかないと思います。昔『半径5メートルの野望』という本で、「自分の活動範囲は半径5メートルしかないかもしれないけど、その体験をシェアすることで、世の中がちょっとずつ変わるかもしれない」と伝えました。

まさに半径5メートルから、ちょっとずつ、ひとりずつ理解者を増やすことしかできない。多分、みんなが一気に変わるということはないですね。

——セクハラやパワハラで声を上げることは、コストが高く、大変すぎませんか。

コスト、高いと思いますよ。私も、全部仕事がなくなるかもしれないと思いながら、声を出しました。一番仲の良い友だちの電通の子にも言えませんでした。でも記事が出たら、応援してくれると言ってくれて。

今は、ハッシュタグの#MeTooを真面目に聞かないといけないという意識が広がってきたと思います。声を上げる人を受け止めるとことから、みんな変われたらいいなと思います。これは男性でも出来ることです。

「セクハラだと思うんだよね」と言われたときは、周りの人は、その話を信じて聞いてあげてほしいと思います。聞く体制ができてないから、話す人がいないんです。私は聞いてくれる人があまりにも少なかった。時代が追いついてなかった。今も全然追いついてないですけど。

私のところにきた読者さんからのメールには、接待に行った帰り際に、「チューしてほしい」と言われた経験が書かれていました。「夫に言っても真剣に受け止めてもらえなかった。だから私も笑いに変えちゃった。でもこのハッシュタグを見てたら、私あのとき怒ってよかったと思った」という人もいました。「今まで笑って受け止めてきたけど、今日はじめて『セクハラですよ』と言えました」という胸がちぎれるようなメールも来ました。

——個人だけでなく、企業や社会も、受け止めないといけない。

外資系で働いている人の話では、その人の会社では、セクハラの対策部署がインドにあるそうです。インドの人が「これはセクハラです」といってすぐに認定してくれる。日系の企業から転職して来た人は、職場環境が良すぎるって驚くそうです。

セクシャルなものに対して敏感な国というのもあるかもしれないですけど、でも日本のオフィスだとセクシャルハラスメントの対策委員会のメンバーが、知り合いの先輩社員だったりします。知り合いに言うのは嫌ですよね。会社組織から離れた、外部の委員会をつくる土壌が日本でできてほしいです。

話したい人は話したいと思ってるんです。でも親身になって受け止める人がいない。我慢しないといけなかったのは、聞いてくれる人がいなかったから。もし、周りでそういう人がいたら、まずは耳を傾けて、信じて欲しいです。

さらに読みたい!関連記事:

HuffPost Japan

性の被害は長らく、深い沈黙の中に閉じ込められてきました。

セクハラ、レイプ、ナンパ。ちょっとした、"からかい"。オフィス、教室、家庭などで、苦しい思いをしても私たちは声を出せずにいました。

いま、世界中で「Me,too―私も傷ついた」という言葉とともに、被害者が声を上げ始める動きが生まれてきています。

ハフポスト日本版も「Break the Silence―声を上げよう」というプロジェクトを立ち上げ、こうした動きを記事で紹介するほか、みなさんの体験や思いを募集します。もちろん匿名でもかまいません。

一つ一つの声を、確かな変化につなげていきたい。

メールはこちら break@huffingtonpost.jp

注目記事