「完パケ」見ず放送...「ニュース女子」にBPOが指摘した6つの問題

「ニュース女子」では、沖縄のヘリパッド反対運動を「過激デモで危険」「テロリストみたい」などと伝えた。
ニュース女子

沖縄の米軍基地について取り上げた1月の東京MXの番組「ニュース女子」について、BPO(放送倫理・番組向上機構)の検証委員会は12月14日「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を発表した。

どんな番組だったのか

問題となったのは、1月2日に放送された同番組の「沖縄基地反対派はいま」。沖縄・高江地区のヘリパッド建設現場で、反対する運動家が「危険な行為をしている」「日当をもらっている」との疑惑を指摘するという内容だった。また、「危険なため」近づけないなどとして、運動家への取材を断念したと放送していた。

番組では、ジャーナリストの井上和彦氏が「運動家の人たちが襲撃してくる」と述べ、地元住民が「反対派が救急車を止めた」などと話すインタビューを放送、「テロリストみたいじゃないですか」などとも発言した。

また、普天間飛行場の周辺で「2万」と書かれた茶封筒が見つかったことを証拠として「反対派は日当をもらってる?」「反対派の人たちは何らかの組織に雇われている?」などのテロップやナレーションが流れたりした。

また、ヘイトスピーチや人種差別に対抗する団体「のりこえねっと」が、高江の状況をネットで伝えるための「高江特派員」を募り、ネットなどで寄せられたカンパから交通費などとして5万円を支給したことを巡って、井上氏が「(財源は)本当に分からないですよ」などとコメントしていた。

のりこえねっとは同局から取材を受けていないとし、「傷つけられた人権と名誉の回復と補償を求めるため、必要なあらゆる手段を講じます」とする抗議声明を発表していた。これらの批判を受け、同委員会は2月、番組の審議入りを決めた。

委員会は独自調査で不適切な放送内容を指摘

審議のために委員会は沖縄で独自の調査を敢行。地元の消防本部や反対運動に加わっていた人々などに聞き取り調査を行った。

その結果、放送された内容で以下の3点について問題があると指摘した。

・救急車の現場到着が大幅に遅れたケース自体が見当たらないこと

・少なくとも、番組で示された茶封筒などは、基地建設反対派が誰かに日当をもらって運動しているという疑惑を裏付ける証拠とは言いがたいこと

・取材VTRで反対派が「敵意をむき出しにしてきて緊迫した感じになる」などと述べて、危険な行為を行っていると印象付ける放送内容には、裏付けとなるような客観的な事実が認められないこと

BPO

化粧品会社のDHC系が制作。MXは「完パケ」を見ずに放送

「ニュース女子」は化粧品会社のDHCがスポンサーで、東京・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏らが司会を務める番組。「DHCシアター(現在はDHCテレビジョン)」と「ボーイズ」が制作し、MXにはDHCシアターがスポンサーとして番組を持ち込んで放送されている。

BPOは意見書で「"持ち込み番組"であれ、(東京MXが)自ら放送倫理の遵守を誓っている以上、放送される番組の内容は放送倫理に適ったものでなければならない」と述べている。

BPOの調査によると、MXは制作に関わっておらず、考査担当者の2人はすべての編集が終わった「完パケ」の番組を放送前に視聴していなかった。また、考査担当部長は、途中段階の番組に対して「沖縄に行ってよく取材している」などの感想を持っており、MX側からの意見は特にしなかったという。

こうしたMXの考査について、BPOは以下の6点に問題があると指摘した。

  • 1. 抗議活動を行う側に対する取材の欠如を問題としなかった
  • 2. 「救急車を止めた」との放送内容の裏付けを確認しなかった
  • 3. 「日当」という表現の裏付けを確認しなかった
  • 4. 「基地の外の」とのスーパー(「キチガイ」という言葉を連想させる処理)を放置した
  • 5. 侮蔑的表現のチェックを怠った
  • 6. 完パケでの考査を行わなかった

BPOはMXに対して経緯を報告するよう求め、MX側からは制作会社の番組制作過程や、持ち込まれた番組の内容を放送局内でどう判断(考査)したのかについて、経緯を説明した報告書が提出されていた。

人権委員会でも審理

また、これとは別に、沖縄の基地反対運動に関わる人を「テロリスト」「犯罪者」「無法地帯」などと表現し「"辛淑玉"とは何者?」「反対運動を扇動する黒幕の正体は?」「韓国人はなぜ反対運動に参加する?」などのテロップを流した。

こうした個人への言及に対して、「のりこえねっと」共同代表を務める辛淑玉さんは「テロ行為、犯罪行為の『黒幕』であるとの誤った情報を視聴者に故意に提示した」として、BPOの放送人権委員会に人権侵害を申し立てている。5月に審理入りし今後、結果を公表する予定だ。

おすすめ記事

注目記事