熊本市議会で11月22日、赤ちゃん連れで議場に入り、議論を呼んでいる緒方夕佳市議が、ハフポスト日本版の取材に応じた。
緒方市議は「子育て世代の悲痛な声が私にはたくさん聞こえている。それを見える形にしたかった」と、今回の行動を起こした意図を語っている。
ーー大きな論争になりました。なぜ赤ちゃんを連れて議場に入ったのでしょうか。
まず私は当選以来、子育て世代が政治参画をしやすいように、議会にも、市に対しても様々な提案をしてきました。でも全く聞き入れられなかったという背景があります。
例えば市民のために、市役所のロビーにベビーベッドを置く提案には「スペースがない」。子育て中の市民が傍聴できるよう、議会に託児所を設ける提案も「無理です」と即却下といった具合です。何を言っても「子育ては個人の問題。親の責任」という意識を、議会や市の幹部の発言一つ一つに感じました。
本当は子育ては社会全体でするもの。それが個人の責任にされてしまったことから、少子化や虐待など様々な問題が表出しています。それなのに、いつまでも「子育ては個人のこと」という意識でいいのでしょうか?
子育て世代の悲痛な声が、私のところにはたくさん聞こえています。その声がかき消されてしまう前に、見える形にしたかった。私が赤ちゃんと座る姿を見せることで、目に見える形でそうした声を体現したかった。政策決定の場にいる方々、議員や市の幹部に見てほしいという思いでした。
でも、まさか追い出されるとは。「赤ちゃんと一緒に議員が出席」というニュースになるかなとは思っていましたが。
ーー「事前に議会側と調整できなかったのか」という疑問が多く挙がっていました。
議会事務局と、出産前の2016年11月28日に協議を持ちました。産後も議員活動を続けたいので、議場に赤ちゃんを連れて行きたいということ、議会棟に託児所や授乳できる場所を設置してほしいという要望をしました。しかし、答えは、全て「ノー」でした。「個人の問題なので、ベビーシッターを雇って、控え室で見ててもらうことでしょうね」という話をされました。
4月に出産後、体調を崩してしまい、7カ月休みました。今回が出産後初めての議会出席でした。納得はできませんでしたが、一時は「言われたとおりに、控え室で見ててもらおうかな」とも思ったんです。変革にはエネルギーが必要ですから。
でも、再び議会事務局に相談したときに、同じように「それはあなた個人の問題」というようなリアクションでした。おかしいなという気持ちがフツフツと湧いてきました。「これこそが、みんなが体験してる難しさなんだ」と思って。
ーー議会事務局側は、「議場に赤ちゃん」は聞いていないと発言していましたが。
そうですね、その点は食い違っていますね。双方、正確な記録を持っているわけではないので、私は話したつもりなのですが。事務局側の発言も変わったりしていて、私が「子供と離れているのが不安だ」と言ったというような話もしているようですが、そのような話はしていません。
ーー産後の体調不良の問題もあったんですね。
議員には産前・産後休業も、育児休業もありません。私は4月8日に長男を出産したのですが、直前の3月議会に無理して出てしまったことから、ひどい貧血に悩まされることになってしまいました。息切れして、動けなくなって、鉄剤の注射を8本も打ちました。
もちろん、体調不良で欠席することはできますが、有権者の声を代弁する役割が果たせなくなってしまう。熊本市議会の場合、議員は1年に1度しか一般質問での発言機会がなく、私は3月議会が唯一のチャンスだったんです。
無理をしてしまい、結局、出産後は2カ月間、外を出歩けなくなってしまうほど身体を壊してしまいました。
少子化で身近な人が出産しなくなったからなのか、出産による体調不良も理解され辛くなっている気がします。フランスでは産後ケアの制度が手厚くなっていますが、そういう政策を作っていくためにも、議場にもっと子育て中の女性が入る必要があります。
熊本市議会では、私が史上初めての妊娠・出産した議員でした。女性市長もこれまでいませんし、市の幹部もほとんど男性です。
議会も、欧州のように議員の産休中には、書面で意思表示できるとか、代理投票、代理議員の制度も必要だと思っています。出産に限らず、出産・子育て・介護・病気療養中などの方が、議員になれる環境整備をしてほしいということも、訴えてきたのですが。
ーー市議会は、厳重注意とする処分を決めました。「議会のルールに抵触し混乱を招いた」という理由だそうです。
今回の議会前には、議会の会議規則・傍聴規則も十分読み込んでいて、私としては違反ではないという認識です。
会議規則にはそのようなルールはありません。議場には議員だけでなく市の職員も入っていますよね。「破った」とされているのは傍聴人規則で、「傍聴人はいかなる事由があっても議場に入ることはできない」という部分があることです。
しかし、私は、赤ちゃんのいる議員にとって、赤ちゃんは活動する上で連れていることが必要な場合があることから、「傍聴人」ではないと判断しています。
ーーそもそも、議事進行のことなので、議会事務局(議会の事務処理などをする市側の組織)ではなく議長や議会運営委員会に図るべきというコメントをされている方もいました。
まず私は1人会派なので議会運営委員会や議会活性化委員会には参加できません。
また、熊本市議会には大きな会派の代表者による「団長会議」というものがあり、実質的にそこで物事を調整しています。それ自体が民主主義的ではない、問題のあるシステムだと思っているのですが。出産前からそこで、議員の産休制度などについて話し合ってもらうように要望はしていました。
また、先輩議員から、当選後に教わったのは「要望は、まず事務局に相談して」ということ。実際の運営では、議員も、調整や手続きを事務局に頼っているという意味です。
今回の定例会前日に、「赤ちゃんを連れて行きたい」と議長に電話で相談したのですが、その時の議長の返事も「まずは事務局に相談して」でした。「事務局には取り合ってもらえなかった」と説明したのですが。
ーー同じ女性からも「パフォーマンスは迷惑だ」という声がありました。「私たちは我慢してきたのだから」という意識を持っている方からの批判もある気がします。ですが、女性同士がその点で分断されるのは辛いです。
この要望をする中で、市役所の数少ない女性管理職の方に、「私は育休さえ取得せず、子供を犠牲にして働いてきた」という話をされたことがありました。
私のイメージですが、その方は、制度に合わせて生きてきた。制度の中でうまく立ち回った。管理職にもなった、という意識を持っているように思います。制度を変えようとか、そういう意思ではなく。
ただ、そういう風におっしゃる方々だって、難しい状況を生きてきた、生きているんだと思います。自分が厳しい環境にいるから、だから人に優しくできない部分もあるのではと。
だからこそ、そういう状況を変えていきたい。その方々が、自分が満たされて幸せな環境だったら、そういう風なリアクションにはならないと思うので。
私は、自分たちが理想とする、環境はどんなものなのかということを一緒に考えていきたい。
そういう環境は私たち次第で実現できるんだ。法律、仕組み、職場の雰囲気、すべて私たちが作っている。みんなにとっていいものに作り替えましょうよ。そういう提案をしたいと思っています。
ーー「子供にとってよくない」という観点からの批判もありましたね。
あの日は定例会の開会日で、15分程度で終わる予定でした。うちの子は機嫌の良い赤ちゃんで、15分程度なら静かに座っていられるという確信もありました。
もし、お腹が空いたといって泣いても、授乳すればいいと思ってました。
ーーそうは言っても、泣くこともある。議事進行を乱す可能性はないわけではありません。
議会も社会の縮図です。多少のノイズがあってもやり方次第でうまく進行できると思います。そういう状況でもやれるような仕組みを、整えていく方がいいのではないでしょうか。
ーーいろいろな批判はありましたが、議長も、市長も、今後は子育て環境を整えたいという発言をしておられます。その意味では、意義があったのでは。
大きな前進ですね。
議会の中で、子育てだけでなく、介護やその他のことを両立できるような具体的な仕組みを作っていきたいと思っています。傍聴者の託児も含めて、環境整備もしていきたい。今回のことで支持すると言ってくださった市民もいました。そういう方々としっかりつながって、息長く働きかけ、政策提言をして、少しずつ変えていきたいと思います。
ーーTwitterでは 「#子連れ会議OK」という意思表明が広がっています。
はい、人から教えていただいて知りました。すごく嬉しいなと思っています。
制度も整ってほしいですけれど、柔軟な働き方のためには雰囲気も大事です。例えば、実際にはそうしなくても、「子供が病気のときは休んでいいよ」「どうしても預けられなかったら連れてきていいよ」と言われるだけですごくほっとします。そういう風に言ってくださると助かる、救われる。
思っていても、表明してもらわないとわからないから。公言していただいて、救われたと感じる人がいる、とっても嬉しいことです。
緒方夕佳(おがた・ゆうか)プロフィール
1975年生まれ。熊本高校を経て東京外国語大米英科卒。米バージニア州立ジョージメイソン大学院紛争分析・解決学部修士課程修了。国連開発計画(UNDP)の職員として、イエメンで地雷除去や地雷被害者の支援などに従事した。2015年4月、熊本市議に初当選し、現在1期目。