「人を思うことで、どんどん自分は変わっていくし、いろんなものが見えてくるし、傷つくこともありますよね。それでも『好き』っていう気持ちはすごく素敵だなと思います」
映画『先生!、、、好きになってもいいですか?』で女子高生・島田響(しまだ ひびき)役を演じた女優の広瀬すずは、不器用な"初恋"を描いた同作についてそう語った。
響は、生田斗真演じる世界史の教師・伊藤貢作(いとう こうさく)に生まれて初めて恋をする。「好き」という気持ちで自分が変わっていく、成長していく。そんなひたむきな恋模様を、優しいタッチで描いた作品だ。
メガホンを取った恋愛映画の名手・三木孝浩監督は、今まで見たことがない広瀬すずのキャラクター像を引き出したかったと振り返る。三木監督と広瀬すずに、同作にかけた思いを聞いた。
——広瀬すずさんは、三木孝浩監督と初めてタッグを組みました。ご一緒されていかがでしたか?
広瀬すず(以下、広瀬):本当に、三木監督も一緒に響になってくれて...監督が響なんじゃないかとか、いろんなことを思っちゃうくらい(笑)。
すごく細かく、ここはこういう風にしてほしいとかアドバイスをくれながら演出をしてくださったので、すごく分かりやすかったですし、今までお仕事をした監督とはまた違う感じだなと思っていました。三木監督ワールドにどっぷり浸かれるので、そこは頼りながら。
三木孝浩監督(以下、三木監督):そうなんですよね。特に女優さんに対してのアプローチが細かいっていうのは、本当に反省なんですけれど...(笑)。
でも、僕の映画では、ヒロインを演じてくれる方の他の作品では見せない可愛い部分、惹かれる部分をどうやって引き出すかということをすごく考えています。
——広瀬さんにとって、「王道ラブストーリー」のヒロイン役は初めて演じられる役柄です。それも先生を好きになってしまうという女子高生役でもあって。響を演じてみていかがでしたか?
広瀬:響は、「秘密にしたい」とかそういうことよりも、伊藤先生が何よりも一番好きだったから、とにかく「迷惑をかけちゃいけない」と思っていて。それ以外のこと、周りのことはそんなに気にしていなかったのかなと思います。
伊藤先生は、色んなものを見なきゃいけない立場なので...一歩踏み出した時にどうなるかとか、先のことを考えて行動していて。
それでも、先のことを考えているのに、自分の行動もわからないほど思うがままに突っ走っちゃうっていうのは、すごくやっていて気持ちがいいなと思いました。
——ご自身の経験で、先生にちょっと憧れたりとか。そういった経験はありましたか?
広瀬:ないですね。こんなかっこいい先生がいたらよかったんですけど...(笑)。
バスケ部の顧問の先生は、すごく若い先生だったんです。私たちが中学生の時に、20歳前半とかで、すごくかっこよくて。ちょっとしたファンクラブみたいなのがありましたけど、顧問の先生だったから、「きゃー」ってなるよりも、「あの試合はこうで...」みたいな、2人で熱く話すほうが多かったです。
伊藤先生みたいにかっこいい先生がいたらいいな、って思いながらやっていました。
——三木監督は、広瀬さんを演出される上でこだわった点はありますか?
三木監督:これまですずちゃんが演じてきたキャラクターは、割と強い女性の役が多かったような気がしていて。
今回は、ただ人を好きになってしまって、いつもだったら言えないことをつい言ってしまう、つい前に出てしまうという「普通の女の子」を演じてほしいなと思いました。それは強さとかじゃなくて、ただ「好き」という気持ちが自分を後押ししているんですよね。
そんな普通の女の子の感覚というか、今まで見たことがないすずちゃんのキャラクター像を引き出したいなと思いながら、演出していましたね。
——初めて広瀬さんとお仕事をされて、印象に残ったことを教えてください。
三木監督:撮っていてすごく面白かったのは...すずちゃんの繊細な揺らぎとか、その表情を撮りたいと思ってアップで撮ったんですけど。その時に"目でお芝居をする"というか、揺らぎが目に出ていたところですね。スクリーンサイズで観ないと映らないくらいですけれど、しっかり映画的なお芝居をする女優さんなんだなというのが、現場で印象に残ったことです。
——確かに、広瀬さんの表情全体から、初恋に戸惑う気持ち、どうしたらいいかわからないという淡い気持ちを感じ取れました。目で揺らぎを表現するって、大変じゃないですか...?
広瀬:1つのまばたきで心情がすごく変わって見えるタイミングとかって、あって。それは割と他の作品でも意識することが多いんですけれど、でも今回は特に意識したかもしれないです。
言葉と気持ちと体が一体化して表現するという感じでした。「出ちゃってる」、みたいな。顔に出ちゃう、行動に出ちゃう、言葉に出ちゃう。それって、すごく素敵だなと思って。あと、響の自分で自分をわかっていない感じとかも。
...確かに完成されたのを見て、アップ、寄りがめちゃめちゃあるなと思いました(笑)
——アップ、多かったです。
広瀬:映画が完成する前に、マネージャーさんが先に観ていて、「めちゃめちゃすずのアップあるから」って言われて、そこばっかり気になっちゃって(笑)。
でも、一つひとつ話が進んでいくごとに、響の気持ちの決意が表情と一緒に変わっていることを感じてもらえたら嬉しいな、って思っています。
三木監督:編集した時に、心の声が聞こえる表情になっていて。最初は、台本上にもっとモノローグが入っていたんですよ。撮ってみると、すずちゃんの表情で伝わる部分が多かったので、どんどんモノローグが削られていきましたね。
芝居で充分伝わる感じがしたので、それがとても良いなと思いました。
——すごくシンプルに徹した映画に仕上がっているなという印象を持ちました。
三木監督:原作の方は、響と伊藤先生の思いが通じ合って以降が結構しっかり描かれているんですけど、原作者の河原和音先生と話した時、そこまでを描いてほしいと言われて。「なるほどな」と思ったのは、河原先生にとって、そこが一番最初にこの作品を「描きたい」と思う初期衝動というか、モチベーションになった部分だそうなんです。
でも、映画を作る側としては本当にそれしかないので、ある種逃げ場がない。他に要素がないですから。ただ人を好きになって、そこで相手を思いやって、だんだん自分が成長していく。このプロセスを本当にシンプルに撮らなくちゃいけないので。
だからどちらかというと、僕よりもすずちゃんや生田斗真くんの方が負担が大きい作品なんじゃないかなと思いながら、わりとドキドキしながら現場に入りました。けど、やっぱり2人は相性が良くて、すごくバランスが取れていました。出しと受けのキャッチボールの感じがとても良かったので、すごく安心して撮れましたね。
——現場の雰囲気はいかがでしたか?
広瀬:本当に現場でも、生田さんがずっとかっこよかったので。伊藤先生として、ずっと自分の中に存在していました。
今回は本格的なラブストーリーが初めてだったので、ここが違うんだって思うのは...会った時から意識をするのが始まっていくので、現場でも、私が特にそういう風になっていました。
これから映画を一緒に撮る共演者っていうよりも、「これから好きになる人なんだ」みたいな感覚でした。生田さん自身、すごく優しくて気さくな方なので、響がまっすぐになる理由もすごくわかるし。化学反応じゃないですけれど、現場にいて、生田さんの表情を見て、温度を感じて、こっちも何か受け取るものがあるという作業がすごくたくさんあって。本当にあまり考えずに、現場ではフラットな状態でやらせてもらえたなと思います。
——私はこの映画を観て、高校時代の幼い恋愛の歯がゆさを思い出しました。お二人は、この映画を観た人にどういったことを感じ取ってもらいたいですか?
三木監督:この作品は、特に響の目線で「初恋」を描いています。初めて人を好きになって、一生懸命相手のことを考えるという。
それまではまず「自分の主観が第一」だったのが、初恋を機に、相手から見て自分はどう見えるのか、相手は何を考えているのか、「他者の視点に立つ」ことを初めて経験する。恋をして、それを覚えて、一生懸命考えて、それで傷ついたりもするけれど、それが人の成長に繋がっていくというのが、僕はやっぱりラブストーリーのとても好きな部分なんです。
特に今回はそこをシンプルに描いています。観ている人にも、例えば自分が初恋をした時とか人を好きになった時、傷ついたり喜んだりした時のことをいろいろ思い出して、何かひとつでも、「そういえばあの時期に自分が成長できたな」とか、そういうのを思い出してくれたら嬉しいです。
広瀬:人を思うことで、どんどん自分は変わっていくし、いろんなものが見えてくるし、傷つくこともありますよね。それでも「好き」っていう気持ちはすごく素敵だなと思います。
作品の後半に、響の友達の浩介が伊藤先生に言う台詞で、「教師やりすぎて、大人やりすぎてわからなくなっちゃったんじゃないの?」という言葉があるんですけど。大人だけじゃなくて、もう私たちの年齢でも、その台詞でちょっと何か考えるっていうのは必ずあると思います。
自分の気持ちだけで突っ走っているというのは、私もまだ高校卒業したばかりだけれど、忘れていたかもしれないと思ったし。やっぱりどこか客観的に見ちゃう感じというか。
響たちのようにまっすぐに、素直に生きるのってすごく素敵だなと思ったし、「うらやましいな」とも思いました。観てくれる方には、ぜひそんなものを受け取ってほしいです。
【作品情報】
「先生! 、、、好きになってもいいですか?」
原作:「先生!」河原和音(集英社文庫コミック版)
監督:三木孝浩
出演:生田斗真 広瀬すず 竜星涼 森川葵