ジャーナリストの伊藤詩織さんが10月24日、外国人特派員協会で会見し、日本における性暴力被害の課題を訴え、「タブーを破りたくて顔も名前も出した。日本の司法、社会システムは性犯罪被害者のためには、ちゃんと機能していない」と語った。
10月18日に出版した著書「Black Box」(ブラックボックス)(文藝春秋)で、メディアや警察をはじめ司法がきちんと受け止めてくれなかったことや、性犯罪の被害者に"冷たい"社会など、日本の現状をノンフィクションとして描いている。
伊藤さんは、ハフポスト日本版の単独インタビューで「私は泣き続ける『被害者A』ではなく、伊藤詩織というひとりの人間だ。性暴力の実態のリアルな声をあげて、この問題を社会全体で考えるきっかけにしたかった」と語っている。
大物映画プロデューサーのセクハラ被害が告発されたのを機に、世界では「MeToo」とセクハラ被害の声が上がっている。外国人記者は、彼女に何を聞いたのか。会見後の感想とともにレポートする。
元TBS記者は準強姦容疑で告訴されたが、東京地検は2016年7月、嫌疑不十分で不起訴処分(裁判にならない)とした。東京第六検察審査会は「不起訴相当」とする議決(捜査資料をもう一度精査したが、不起訴を覆す理由がないという判断)を公表し、元TBS記者は「一連の経過で犯罪行為を認定されたことは一度もなく、今回でこの案件は完全に終結した。一部報道などで名誉が著しく傷つけられ、法的措置も検討している」とした(2017年9月23日付朝日新聞)。
伊藤さんは、元TBS記者の男性ジャーナリストに1000万円の損害賠償を求める訴訟を9月28日、東京地裁に起こした。
タブーを破りたくて、顔も名前も出して発表した
伊藤さんは、会見で「私は2年前にレイプされました。悪夢の始まりでした。レイプ救援センターや警察に助けを求めましたが、どこも助けてくれませんでした」として以下のように訴えた。
「日本の司法、社会システムは性犯罪被害者のためには、ちゃんと機能していないと気づきました。世界中でレイプが報告されないことはよく知られています。日本でも5%以下しか(被害が)報告されません。私はこのタブーを破りたくて、顔も名前も出して発表することにしました。特定の誰かやシステムを批判するだけでは変わりません。私たち一人ひとりが考えなくてはいけません」
また伊藤さんは、「下着のDNA検査を行ったところ、そこから元記者のY染色体のものと過不足なく一致する結果が出た」など9つの事実をあげて、「これだけの証拠があっても、日本の司法システムでは起訴できない」と語った。メディアのあり方についても「仮に司法の場で間違った判断が行われた可能性があるとき、不起訴だから報じないのではなく、本当に正しい判断がなされたのか、検証できるような視点を持っていただきたい」と希望を述べた。
以下、外国人記者らとの質疑応答の様子をレポートする。
——世界中でレイプが問題になっている。日本であまり報じられないのも残念ながらわかる。女性からの連帯、サポートの声はあったのか?
日本では女性の弁護士からはたくさんの声をいただいたんですが、団体からはなかったと思います。イギリスの団体からの問い合わせはあり、お会いして説明する機会がありました。
——弁護士の方に質問です。日本には、起訴便宜主義がある。とても奇妙でユニーク、良くないと思う。弁護士会の中でこれを変える動きはないのか。
弁護士:起訴原理主義の見直しについて、弁護士会の動きは私は把握しておりません。
——本の中で「週刊新潮」を引用して逮捕を取りやめたことが書かれています。「2軒目も行ったんだし」など(元刑事部長の)中村氏の説明の意図は?
中村氏にどういう意図があったのかはわかりません。私も取材を何度が試みましたが、まだお話をうかがえていません。
ただ、NHKの番組「あさイチ」のアンケートで、「性行為の同意があったと思われても仕方がないと思うもの」という質問に対して、「2人きりで飲酒」「2人きりで車に乗る」などと答えた人がおよそ2〜3割いました。こうした行為をするだけで犯罪にあっても「仕方がない」と思われているのが日本の現状です。
——この件について日本人の女性と話したところ「シンパシーがあまりない」と答えたことに驚きました。慰安婦問題もそうです。日本の女性に連帯の意識がないのはひとつの問題だと思いますか。反安倍の動きともされていますが、このことについて国会でも議論されるべきだとお考えですか?
私自身も、女性からバッシングを受けることや、ネガティブのコメントを受けることがありました。この(日本の)社会で生きる上では、忍耐を持って生きなければならない、そういう状況はあると思います。
スウェーデンで、職場における平等を取材しましたが、警察でも30%は女性です。日本は、女性の権利も他の国とは違うといえると思います。私と違う意見を持っている女性ともぜひ話をしてみたいと思います。
2つめの質問ですが、ブラックボックスはたくさんある。警察の中にもたくさんあると思います。国会でも議論してもらえたらと思います。
——(TBSの元記者について)、詩織さんと会った日には、(すでに)内示を受けてワシントン支局長ではなかったと聞いた。
4月3日の時点で、TBSのワシントン支局長ではなかったというのは私は知らなかったので、TBSにうかがいたいと思います。不起訴という結果が出た時は、TBSを辞められていたので、会社に聞くことができませんでした。
——外国人特派員協会が前回(5月)に、詩織さんの会見を断った理由は?
こちら(外国人特派員協会)は、記者クラブに所属していないメディアにも聞いていただけるので会見させていただければと思いましたが、そのときは「繊細で、個人的すぎる」という理由で会見できませんでした。過去にも性暴力について会見された方はいるので、私も理由を知りたいです。
外国人特派員協会:過去にオーストラリア人の性犯罪の被害者が会見したことがありました。加害者は米軍に所属する人でしたが、すでに有罪であったことが挙げられると思います。判決が出てから、こちらで会見すべきであると思っています。
——TBSの元ワシントン支局長です。質問しようか迷いましたが、同じ組織に所属した者としてあってはならないことだと思います。この本を読んで、警察が示談をしきりに勧めて、捜査員を伴って車で弁護士の元に連れていくことは、特異な動きだと思いました。詩織さんからそんなお願いをしたのでしょうか。
これは警視庁の捜査一課の方からいわれたことで、当時、高輪署から一課に事件(の担当)が移ったときに、元記者の弁護士が示談の提案をしてきたときに、被害者支援をする、国費でまかなえる、と説明されました。
当時、まだ逮捕されずに使われなかった逮捕状はどこにあるのか教えていただけていなかったので、弁護士の方を紹介していただきたい、と言いました。相談に乗ってくれた方は、示談のお話をするばかりでしたので、その方にお願いすることはありませんでした。
——詩織さんが行動する原点は?
これが真実であり、それを伝えなければ、真実を伝えるジャーナリストとして働けないと思いました。
こういった被害を受けた人は必ず自分を責めると思います。でも自分が一番わかっています。その傷が癒えることもありません。警察に行くことも迷うかもしれませんが、彼らの真実を周りの人が理解することが必要だと思います。
これが私の友人や妹に起こったら...と考えたときに、同じ道を辿って欲しくないし思いました。私のケースは特別なことではない。自分の大切な人に置き換えて考えること行動することは難しいことではないと思います。
......
外国人記者は会見をどう感じたのか。アメリカ人の女性記者、ナオミ・パラスさんは、ハフポスト日本版に対し、性暴力は「個人ではなく社会の問題」だと以下のように語った。
「彼女にネガティブなコメントが寄せられたことに驚きました。(日本の)システムの問題ではないでしょうか。そんななかで実名で公表した彼女はとても勇敢だと思います」
「アメリカでは、#MeTooの動きをきっかけにみんなが議論しています。日本でも広がっているんですね。性暴力の被害は私たちの多くが実際に経験していること、個人ではなく社会の問題だと思います」
性の被害は長らく、深い沈黙の中に閉じ込められてきました。
セクハラ、レイプ、ナンパ。ちょっとした、"からかい"。オフィス、教室、家庭などで、苦しい思いをしても私たちは声を出せずにいました。
いま、世界中で「Me,too―私も傷ついた」という言葉とともに、被害者が声を上げ始める動きが生まれてきています。
ハフポスト日本版も「Break the Silence―声を上げよう」というプロジェクトを立ち上げ、こうした動きを記事で紹介するほか、みなさんの体験や思いを募集します。もちろん匿名でもかまいません。
一つ一つの声を、確かな変化につなげていきたい。
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