認定NPO法人フローレンスと関連団体の医療法人社団ペルルが10月1日、渋谷区・初台に、複合保育施設「おやこ基地シブヤ」を開園した。
「おやこ基地シブヤ」は3階建の保育施設。以下のようにフロアごとに特性に合わせた保育が提供される。
1階「障害児保育園ヘレン」
2階「みんなのみらいをつくる保育園」(認可保育園)
3階「病児保育室フローレンス」
同じ建物で、健常児、障害児、病児といった多様な子どもたちを保育できる。3階には、小児科「マーガレットこどもクリニック」も併設される。「インクルーシブな環境で、子どもたちが育つことで、お互いの発達を促進し、多様性を認め合う人間性を育むことを目指す」という。
認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんは、「保育所の常識に挑みたかった」と思いを語った。内覧会の様子と合わせて、駒崎さんのインタビューを紹介する。
■1階「障害児保育園ヘレン」
障害児保育園ヘレン初台の定員は、重症心身障害児の5人。通常の保育園では預かることが困難な重症心身障害児や医療的ケア児に、療育と長時間の保育を提供する。
制度上はしっかり区切っているが、障害児の子どもたちと健常児の子どもたちは行き来して交流する。(巣鴨と東雲の同園では)健常児は、最初はお腹に管が入っていたりする子どもを見てびっくりするが、次の日には、プールで水をかけたり優しく接しているという。
小見智香子園長は、「(以前の園でも)酸素をつけている子を気にしている子はいなかった。子どもたちの方が先入観なく接することができる。やる保育は一緒なので、ちゃんと医療的ケアができるスタッフがいれば、分ける必要はないのでは」と語った。
ヘレンに通い、経管栄養だった子が口からごはんを食べられるようになったケースもある。これまで、6人が医療的ケアが必要なくなり認可保育園に転園したという。
障害児の母親の常勤雇用率は約5%。障害児を産んだら24時間子どもの介護しているのが現状だ。一般の母親の(常勤雇用率は)35%で、大きな開きがある。医療的ケアが必要な子どもは約1万7000人。医療技術の発達とともに増えているという。
■2階「みんなのみらいをつくる保育園」
1〜5歳まで、6人ずつ合計30人の定員。オランダの幼児教育プログラムを乳幼児向けにアレンジした、子どもが自分や友だちの感情を深める「感情カード」を導入している。
毎日、子どものミーティングの時間「サークルタイム」を約15〜30分ほど設け、一人ひとりが自分の気持ちを話す機会を大切にするという。
鈴木由香園長は「園児一人ひとりの思いを大切にしていきたい。大人が指示するのではなく、子どもたち主体の保育がやりたい。みんなで保育園を作っていく」と抱負を語った。
■3階「病児保育室フローレンス」
渋谷区が区として運営する初の病児保育室。部屋は2つに分かれており、トイレもそれぞれに設置されている。WEB上で予約できる。
■3階、小児科「マーガレットこどもクリニック」
3階には、ベビーカーでエレベーターに乗って直接来られる。小児科の医師も子育て中のため、保育園に通えるように診察時間は9時半〜16時半。医師の長時間労働やキャリアの両立は課題だが、ちゃんと医師が子育てしながら働ける病院に挑戦にするという。
■認可保育園は、健康で健常な子のための施設
なぜ、このような保育施設が誕生したのか。駒崎さんに聞いた。
——このような多様な保育の実践の場が誕生したきっかけを教えてください。
地域の住民が、地域の方の役に立つことに使ってください、ということで渋谷区に寄付されて。渋谷区で、地域住民にとって子どもたちのために良きものを作ってくれる事業者を募集します、と公募があって、それに手を上げたというのが流れです。
我々としては、我々の理念「すべての親子に保育の光を」を体現するような場所を作りたいなと思ったんですね。すべての子ども、つまり、これまでの認可保育所というのは、例えば熱を出したらいけない、重い障害があったら行けないわけですね。
でも「保育所保育指針」という保育園のバイブルというか指針があるんですけれども、そこには保育というのは、(保育を必要とする)すべての子どものために存在するんだ、ということが書いてあるわけですけれども、でも認可保育所って重い障害があったら受け入れてないよね。熱が出たら来られないよね。嘘じゃないかと。つまり健康で健常な子のための施設として認可保育所がある。そうじゃない子たちは排除されてるんじゃないかなと思ったんです。
——なるほど。
それでいいのかなと。理念ですべての子どもたちと言っているんだったら、障害児でも病児でも包摂していくべきなんじゃないか。それでこそ保育でしょと思って、保育所の常識に挑みたかったところがあります。すべての親子が利用できるような施設を作ろうと。
たまたま、(フローレンスでは)病児とか障害児保育とか、これまでの保育の枠組みから排除されてきた家族を助けてきたので、普通の認可園だけじゃなくて、病児と障害児が同じところで保育を受けられる場所を作ろうと思ったんですね。
——これまでに、障害児保育園や認可保育園の併設された施設も運営されていますが、ポジティブな効果を感じられていますか?
機能としてポジティブの話する前に、どうあるべきか、という話です。基本的には障害があってもなくても同じ機会が与えられて、同じ場所で同じように触れ合えるのが理想だと思ってるんですね。インクルーシブネス(包摂)です。どんな状況であっても同じ教育、保育が受けられるべきだと思っているんです。
なぜかというと、障害というのは0か1ではなくてグラデーションなんですね。僕らも、例えば高齢化して何かできなくなったら、部分的に障害があるということ。いろんなことがある人が共にある。そういう社会の縮図としての保育の現場があるわけです。
——そうですね。
それをふまえた上で、効果という意味でポジティブな面をいうと、障害のある子が健常児を一緒にいることで、いろんな刺激を受けるわけですよね。実際、障害児も将来、社会に出たら、健常児と共に生きるわけですから、小さい頃から健常児と共にいるというのは、ある種の学習になっていろんな刺激を受けたりする。
(障害児訪問保育の)アニーというサービスがあるんですけど、家だと保育者と1対1なんですけど、健常児と交流することで「何だろう?」って、子どもたちの顔が輝く。
——他の子どもたちとの交流が刺激に。
健常児にとっていいことは、小さい頃から当たり前のように障害のある子がそばにいるということ。それが無用な偏見を持たないですむんじゃないか、というのが我々の仮説としてあります。
隔離されていると存在がわからないから怖かったりしますが、別に隣人として当たり前にいたら特別な存在ではなくなる。健常児にとって障害のある子が身近にいるのはいいことかなと。できる限り交流できるようにしようということで、上と下に。制度的には違う制度を作っているんですけど。
ネガティブな話をすると、これ本当に作るのが難しくて(笑)。全部認可園にした方がよっぽど簡単だったなと。やり始めてから、何でこんな面倒くさいことをやり始めちゃったんだ、と。
——運営団体がわかれていますね。
運営団体も違いますが、やはり補助金ですね。認可保育園を作ったら、定員の16分の15(人分は)補助金が出ます。でも障害児保育園は一円も出ないんですよ。単に損なんですよ。クリニックも出ない。財政的にはまるで合理でない(笑)施設を作ってしまった。理念先行のアダ、本当にみんなには苦労かけたなと(笑)。
——今後、障害児保育園の法整備なども進められていくのでしょうか。
そうですね。いま医療的ケアの必要な子は、普通の障害児分の補助金しかもらえないので、誰も預かりたくないという問題があるんです。医療的ケア児は、手間もかかりますし看護師も必要ですから、100%赤字になるんですね。その問題を解決するために、ロビー活動を進めていまして、ようやく9月に、医療的ケア児の(受け入れ施設に支払われる報酬)加算が決まりました。
ただ額によって、ちゃんと運営できるかどうか決まります。12月までに決まるので、それがうまくいけば、全国に医療的ケア児の保育施設が広がるのかなと思っています。
——当事者として事業をやってみて、それを法整備にもつなげていく実行力はすごいですね。
当事者としてやってみる、というのは僕らの強みですね。言うとやるは違う。やったからこそ見えることを発信していくのが僕らのやりかたです。イノベーションは拡散する。メディアで(障害児保育園)ヘレンを見てくれて、北海道で「私もやってみよう」と始めた人もいます。
——多様な保育があたりまえになるように、一人ひとりは、どんなことができるでしょうか。
一人ひとりも、ぜひソーシャルで声を上げてほしいですね。「保育園落ちた日本死ね」のブログの反響も驚きました。4月から保育士の給与改善も進んでいます。困っていることを叫んで欲しいですね。困っていることは恥じゃない。ぜひSOSを発信して欲しいです。