「男の子なんだから、強くならなきゃ」
「もっと女の子らしく振舞いなさい」
男らしく、もしくは女らしくあれと子供たちに言うのを、一度は耳にしたことがないだろうか。もしくは、自分自身もそう言われた経験があるかもしれない。
これは、アメリカでも、ベルギーでも、ケニアでも、インドでも、中国でも変わらない。
世界各国で、子供たちは「女の子は弱いもの」「男の子は強いもの」というジェンダーステレオタイプを教えられていることが、WHO(世界保健機関)とジョンズホプキンス大学公衆衛生学大学院による研究「Global Early Adolescent Study」でわかった。子供たちはこのステレオタイプを、両親や友達や先生を通して学んでいた。
■ どんな研究?
研究者たちは2011年から2017年にかけて、アメリカ、ベルギー、中国、エジプト、インド、ケニア、ナイジェリアなど15カ国の10〜14歳の男の子と女の子、そして彼らの両親にインタビューした。
ジョンズホプキンス大学公衆衛生学大学院で、人口・家族・リプロダクティブヘルス学部の学部長を務めるロバート・ブラム氏はこう話す。
「全ての国で、女の子たちは『あなたたちは弱くて脆い存在であり。あなたの体はターゲットになる』というメッセージを伝えられていました」
「また『体を露出せずに、男の子たちから距離を置くべき』であり、そうしなければ『深刻な罰を経験することになる』とも伝えられていました」
それだけではない。残念ながら女の子たちは思春期になる頃から「自分たちにとって一番の価値は体であり、それを守らなければいけない」という考え方を学ぶ。そして、「そうしなければ、責任をとらされるのは自分」と言われ、性暴力から自分を守るために体を覆う洋服を着るように教えられていた。
この考え方は、国によって異なるかたちで社会の中に存在していた。
例えばアメリカでは、教師が、短すぎるスカートを着てきた女子生徒を家に帰るよう命じることがある。しかし「男の子が、洋服が原因で家に帰されることはありません」とブラム氏はいう。
自分を守れという考え方を植え付けらた結果、女の子たちが将来、地域や世界に出ていくのをためらったとしても、驚きではないだろう。
■ 女の子と男の子は、友達になれない
また、研究対象になった全ての国で、10〜14歳の子供たちの男の子と女の子たちは一緒に遊ぶ機会が少なくなっていた。
年齢があがるにつれ、女の子と男の子の距離が離れていき、女の子の体は「性的な対象」であると教えられていることもわかった。
「性別が違う相手と、普通の友情を結ぶことは良しとされていません。女の子は用心するように教えられ、男の子は積極的になるべきだと教えられます。そういうものだと言われるのです」とブラム氏は述べる。
その結果、子供たちは「女の子と男の子にはそれぞれ決まった役割がある」と考えるようになる。そして男性は自由を手に入れる一方で女性は束縛される。
その違いは、社会のありとあらゆる局面で現れる。
刑事司法制度の世界を例にあげよう。女性が性暴力を訴えた時、まるで、彼女たちに責任があると言わんばかりに、暴力を受けた時にどんな格好をしていたのか聞かれる。また政治や経済の世界では、野心的な女性は称賛されるのではなく否定的に受け止められる。
■ ステレオタイプは、どんな影響を与えるのか
西洋諸国は比較的進んだジェンダー観をもっているなど、研究の対象になった15の国の間に文化的な違いはあった。しかし、「女の子は弱くもろい存在、男の子は強くて自立した存在」という考えは全ての国で共通した。
「ガールズパワー」というメッセージを発している(少なくともマーケティングの世界で)アメリカでもそれは変わらなかった。
このステレオタイプが子供たちに与える影響は深刻だ、と研究者たちは考えている。
男の子の場合、大人になった時にドラッグやたばこ、無謀運転といった、危険で死と隣り合わせの行動をとりやすくなるおそれがある。
「男の子の方が身体的な暴力をふるったり、逆に被害者になったりしやすいのです。また、不慮のケガで死にやすく、薬物中毒や自殺の割合が高いのも男性です。大人の男性のほうが女性より平均余命が短いのは、社会的な理由によるものであり生物学的なものではありません」とブラム氏は言う。
女の子の場合、16歳までにうつを経験する割合は男性の2倍だ。児童結婚させられる子どもも女の子の方が多い。また、HIV感染率も男性より女性の方が高い。
「女の子たちは、とても高い代償を払わなければいけない」とブラム氏は述べる。
この違いは生物学的なものだと主張する人たちもいるが、研究者たちは「これは社会的につくられた考えだ」と強く否定する。
このステレオタイプは、女性を社会から排除される危険性をはらんでいる。ステレオタイプに反する行動をして目立つ女性は、差別され、偏見を持たれる。実際、ビジネスや政治の世界では女性のリーダーが圧倒的に少ない。
ブラムは、インタビューをした子供たちのエピソードを幾つか教えてくれた。
ベトナム・ハノイに住む11歳の男の子は、幼い頃から親友だった女の子との友情を諦めなければいけなかった。「どうしてもう彼女と一緒に遊んじゃいけないの?それってフェアじゃない」と男の子は訴えたという。
エジプト・アシュートに住む女の子は、研究者たちにこう話したと。「鏡をみてこう思います『私はもうだいぶ大きくなったから、もう外にはでかけられない』って」
若い世代にもジェンダーのステレオタイプが定着していることは、研究者たちにとって驚きだった。彼らは、この世界中に存在ステレオタイプをどうやればなくせるのかについて、今後研究を続けるという。