俳優・山田孝之さんが、役者の域を超えた活動を開始し、話題になっている。
俳優志望者向けオンラインサービスの運営協力や、ライブ配信で商品を販売するECプラットフォーム運営会社の取締役CIO就任など、報道があるたびに反響が巻き起こっている。
また、8月には新ブランド『FORIEDGE』(フォリエッジ)を設立し、共同CEOに就任。第1弾企画としてクラウドファンディングサイト『Makuake(マクアケ)』でプロジェクトを立ち上げ、伝統工芸品「江戸ガラス」を使ったグラスを製作・販売する。
山田さんは、いったい何を目指しているのだろうか? 本人と、普段から交流があるというFORIEDGEの共同創業者・山口友敬さんに話を聞いた。
——山田孝之さんがブランドを立ち上げて会社のCEOになるというニュースを聞いて、とても驚きました。これまでも起業やビジネスに興味を持たれていたり、勉強されたりしていたんでしょうか?
山田孝之さん(以下、敬称略):ビジネスに関することは正直、今までまったく考えたことがなかったです。会社を設立するだとか、モノを作って売るということは、未経験。だから山口さんに「数字は任せます」とはっきりお願いしています。そういう経営的な領域はお任せです。
今回山口さんと立ち上げたFORIEDGE(フォリエッジ)という会社は、僕が「これをやりましょう」と言ったら「何とか形にします」と言ってくれる山口さんがいるから成立しています。
——もともと、山田さんと山口友敬さんはお知り合いだったんですよね。
山口友敬さん(以下、敬称略):はい。2017年2月に知人の誕生日会で再会しました。その時ちょうど、僕は手がけていた腕時計ブランド『BRILLAMICO(ブリラミコ)』の事業から離れて、新しいことにチャレンジしたいと思っていたタイミングだったんです。
会社として利益も出ていたし軌道にのっていたのに、なぜ売却するのかという話になった時に、「飽きちゃったんですよね」と正直に答えたら、孝之さんから「面白いですね。好きです。そういうの。」と言われて。
その時に孝之さんが、「僕も実は今までいろいろな役をやる中で、毎回自分でその型を破ってきた」とおっしゃって。何か共通する部分があるなと感じて、じゃあ一緒に何かおもしろいことをやりましょう、という話になったんです。
——そこから「型にはまらない」という意味合いの『傾奇者(かぶきもの)PROJECT』の発想に至ったんですね。山口さんからみて、CEOとしての山田さんはどんな方ですか?
山口友敬:ひと言で表すなら、本当に賢い経営者脳を持ったCEOですね。感性が素晴らしいだけではなくて、やりたいことをすごくロジカルに言語化してくれるんですよ。だから僕もロジックで返すことができる。感性だけの方だったら、同じ立ち位置で商売をしましょう、とは言えないです。
——同じ土俵で会話ができるからこそ、山口さんも実現に向けて動けるということですね。
山口友敬:そうですね。孝之さんがやりたいと考えていることを実現するためには、やっぱりどうしてもお金がいる。僕はそれに応えるため、売り上げ目標や事業計画といった数字に落とし込んでいく作業もしています。孝之さんと相談しながら決めていくので、分かりやすい言葉で伝えることも課題にしていますし、自分自身も成長させてもらっていますね。
僕は、人間としても、経営者としても山田孝之という人が大好きになった。だから役割分担をして、一緒にやっています。何があっても矢面に立ち続けて、どれだけ矢が刺さっても倒れないという弁慶の気持ちになって今取り組んでいます。
——信頼関係が成り立っていますね。
山田孝之:表に出ている、いわゆる芸能人と組むと、確かに拡散力や話題性はあるかもしれないけど、同時にリスクもあるじゃないですか。アンチもいるし、芸能人が関与することで叩かれたりすることもある。だから、逆に邪魔な存在になるかもしれない。それなのに僕と組んでビジネスをやってくれるというのは、もうそれだけでありがたいですし、信用に繋がりますよね。
もし矢が飛んできたら、僕はスッと山口さんの背中に隠れて、ずっと次のアイディアを考えます。
山口友敬:僕たち、身長一緒だから多分どこか刺さりますよ。
山田孝之:致命傷じゃなければ、大丈夫(笑)。
——素敵なコンビですね。FORIEDGEは、今後中長期的に続けていく予定ですか?目標としているところを教えていただけますか。
山田孝之:どんどんおもしろいものを作っていって、多くの人がブランドを知って、ファンになってくれたら嬉しいなと思います。
山口友敬:あとは、多く儲けるとかは全然考えていませんけど、健全とした経営を続けられるように利益体質を作ることも。
——ものづくりにはお金、大事です。ファンというのは、山田さんのもともとのファンとはまた別、という認識ですか?
山田孝之:そうですね。俳優としての僕のファンに売ろうとはそもそも考えていません。切り分けが難しい部分ではあるんですが、やはりある程度値段のする物ですし、これを「買ってください」とファンに言うのは、やっぱりちょっと違う。あくまで、このグラスとか、ブランド自体のファンになってくれた人たちが買ってくれたらいいなと思っています。
——俳優としての山田さんを好きというファンの方と、FORIEDGEを見てふたりに投資したいと思う人って、実はちょっと違うのかもしれないですよね。もちろん、両方のファンという人もたくさんいると思いますが。
山田孝之:いや、少ないと思います。
でも逆に、少ない方がいいなと思います。自分を好きでいてくれる人たちに、1万円以上するグラスを売りつけようなんていう気持ちはまったくないです。むしろ、買わなくていい。本当にほしいんだったら、買ってくれたら嬉しいけど。
山口友敬:やっぱり、孝之さんのファンではない方々にどれだけ支持されるか、というのが、ブランドとしての使命です。純粋なブランドのファンを作っていくことが。
——第1弾では、クラウドファンディングサイトで資金を募っています。クラウドファンディングを使われたのは、なぜでしょうか?
山口友敬:僕は、クラウドファンディングの一番良いところは、起業精神を持った人たちが気軽にチャレンジをできる点にあると思っています。なかなかリスクが取りきれずに行動を起こせない人もいますが、本当に何かに挑戦したいと思っている人にはチャンスがあるべきだと思っていて。Makuakeのようなクラウドファンディングは、挑戦者が外に出ていくための場所になっているところがいいなと思っています。
(山田孝之さんみたいな)知名度のある人がこういう場所で新しい挑戦をすることによって、初めてクラウドファンディングの存在を知る人もいるだろうし、そこから1人でも、「僕もこれをやりたかったんだ」「よし挑戦してみよう」って行動する人が出れば本当に素晴らしいですよね。
——枠にとらわれないで、チャレンジする人が増えたらいいなとも思いますか?
山口友敬:今はパソコン1つで事業をはじめることもできるような時代ですからね。もっとみんなチャレンジしてほしいなって思います。
山田孝之:一時期、ラーメン屋がブームになった時に、脱サラしてラーメン屋を始める人の話とか、あったじゃないですか。そういうの、すごく好きで。「イイじゃん!」「やりたいと思ったら、やっちまえよ!」みたいに、すごく思ってたんですよ。
人間、いつ死ぬかわからないですからね。「あー、やっぱりあの時会社辞めて、ラーメン屋やっときゃよかった」で死ぬんだったら、好きなことに挑戦した方がいい。そのぶん苦しみも伴うけど、それもわかった上で、それでも挑戦するんだから。火の車の状態でラーメン屋を始めたとしても、やった方が死ぬ時に後悔しないと思うんですよ。後悔が少なくて済む。
——最近の山田さんは、役者という域を超えて、新しいことにどんどん挑戦しています。8月には、役者を目指す人に向けたメディア『mirroRliar(ミラーライアー)』に協力者として参画して、つい最近もライブ動画配信サービスの立ち上げにIT企業と協力して取り組むことが発表されました。プロデューサー的な立ち位置に近いなと感じたんですが...。
山田孝之:興味があることは全部やっていて、まだ形になっていない、頭の中で考えてるものもあります。
『mirroRliar』では、俳優の発掘や育成をしたいと思っています。すごく単純な話なんですけど、僕は「お芝居はおもしろい」と思っているから、仲間が欲しいんです。それで、どこかまだ陽の当たらないところでくすぶってる人がいるんだったら、少しでも手助けできないかと思ってるんです。
——手助けをしたい、と思ったのはなぜでしょうか?
山田孝之:17年くらい俳優をやっていますけど、ここ数年で、ようやく楽しめるようになってきて。この世界は、いろんな辛い思いを経験して、やっと楽しめるようになったという人が多いと思う。
決して近道をさせるつもりはないんですけど...もうちょっと効率よくというか、せめてヒントを与えることはできるなと思って。
僕が今とても楽しいので、人生が。俳優としても。なので、気持ち悪く聞こえてしまうかもしれないんですが、こんな風に楽しめる人が、もっと増えたらいいのになって思うんですよ。
——全然気持ち悪くないです...!
山田孝之:そうですか?感覚としては、プロデューサーというよりも、マネージャーが一番近いんじゃないかと思います。人がハッピーになったら嬉しいというのがあって。
自分が今楽しい状態だから、みんなも楽しくなればいいのに。そのために、なにか僕にできることや協力できるようなことがあったら、協力したいという気持ちです。
——自分が経験してきた「あまりハッピーでないこと」を、取っ払ってあげられるなら取っ払ってあげたいという感じでしょうか。
山田孝之:そうですね。でも、最終的には結局自分のためでもありますからね。
もっと色々な場面で、自由に楽しくておもしろいことができたらいいのに、と思ってるんです。でも、それをやるためには、ややこしいシステムがあります。だからそれをクリアするために、色々な人をサポートして、みんなが自然と動き出すように仕向けたらいいんじゃないかと思っているのが今ですね。
だから根本は、自分が楽しむためです。自分がイイ思いをするためですよ。最終的にそこに行き着くのなら、人のために動くのも、まったく苦じゃない。まあ、自分勝手ですよ。一番奥までいくと。
——最近取り組まれている事業はどれも、意欲や技術はあるけれど機会がなかなかない個人にチャンスをどんどん与えたいという思いがある感じがします。
山田孝之:そうですね。例えばFORIEDGEで売っている江戸グラスも、職人さんの伝統的な技術が失われそうになっていると聞いて、その人たちや、その人たちが持っている技術、そこで生まれたものにもっと光を当てたいなと思いました。
もっとみんな、ちゃんと目立っていいし、ちゃんと注目されるべきだと思うんです。
——色々チャレンジされていますが、俳優業はこれからも続けていこうと思っていますか?
山田孝之:ずっと続けると思います。やっぱり、そこありきですから。俳優として生きてきて得たものは大きいですし、そこで築き上げてきた信頼があるからこそ、今いろんなことが動かせているんだと思っています。
——最後のおまけ的に、聞きたいことがあります。おふたり、本当に仲が良いですよね。山口さんのInstagramにも、よく山田さんが登場していて、見るたびにほっこりしています。おふたり共、SNSは好きですか?
山口友敬:好きかどうか?(笑) Instagramには、かっこいい写真よりおもしろい写真を上げるのが好きですね。チョケたいんですよ。
チョケて、1枚の写真をたまたま見た人が一瞬でも笑ってくれたら嬉しいなと思って、ふざけたものを上げたりしますね。自己主張の場だからこそ、やりたい。三枚目でありたいという気持ちですね。
——山田さんは、Instagramでスパムを撃退していましたよね(笑)。SNSでの中傷とか、いわゆる炎上とかは怖くないですか?
山田孝之:うん。気にしないですし、まず、気にする気すら起きないです。だって、ああいうのって、勝手に騒ぎが起きているだけですよね。
——すごいですね、度胸が...。最近は、撮影終わりでめちゃくちゃ疲れた顔をInstagramにアップしたりもしてますよね。「白目の顔をアップ」って、それだけでニュースになっていました。
山田孝之:もちろん、見てくれる人を楽しませたいっていうのもありますけど。
疲れた顔をアップしたのは、こうやって今いろいろなプロジェクトを同時に動かしているので、やっぱり多少人を待たせてしまったりとかしていて...つまり、アピールです(笑)。「めっちゃ働いてるよ俺」っていう。
山口友敬:それを見て、僕はLINEで「大丈夫ですか?」と連絡しています。
——本当に仲良しですね。楽しいインタビュー、ありがとうございました!
【プロフィール】
山田孝之(CEO・CCO)
日本を代表するカメレオン俳優。
これまでにドラマや映画に様々な役柄で出演。近年では出演のみならず、自ら企画から進めるプロジェクトを数々手がけている。
山口友敬(CEO・Brand Producer)
日本舞踊の中でも最も古い流派の一つ、【山村流】の家に育つ。
14歳の時に左脚にガンを患い、12時間を超える大手術。完治はしたものの、「二度と踊れない身体」となってしまう。大学卒業後にはサラリーマンを経てエンターテインメント企業で独立。
その後2015年、【ブリラミコ】のブランド名で腕時計を発売。発売1年でベンチャーとして異例の年1億円超の利益を上げた。
【FORIEDGE(フォリエッジ)プロジェクトページ】