海外旅行、日本の城めぐり、ひとり登山、バイク……。写真家の桐島ローランドさんは、ひとり旅の達人だ。
19歳で世界旅行に出かけ、30代で全国の日本の城を巡り、39歳でパリダカールラリーにも挑戦した。2013年の参院選に落選した後も、どん底の桐島さんは旅先で新しい技術に出会った。5月には49歳にして12日間で14カ国を巡った。
桐島さんはなぜひとり旅を続けるのか。「選挙に出てなかったら、僕はカメラにしがみついていた」と語る桐島さんに、ひとりだからできる新たな挑戦を聞いた。
(c)Kaori Sasagawa
12日間で14カ国を周ってきた
——5月に、14カ国をひとり旅で周られたそうですね。
これまでに85カ国行ったことがあって。来年50歳までに100カ国行けたらな、というくだらない夢があったんです。
たまたまマイルが貯まっていて、思い切ってとりあえずドイツ行き(の航空券)だけ買って思いつきで旅行しようと。みんな予定が合わないから、いっそひとりで行こうと。
——チケットだけ買って、行き当たりばったり。
現地で人に会ったり、姉貴(桐島かれんさん)が途中で参加することになってバルト3国は一緒に周ったりしたんですけど、他の9カ国はひとりで車をレンタルして周ってきました。
何も気にしないで、完全に自分のペースで行けたのはいいですね。ひとりになって、さみしくなっちゃうんじゃないかって恐怖もあるんですけど、行ってみると全然OKですね。案外ひとりは楽しいですよ。
——テクノロジーも進化していますが、旅の仕方は変わりましたか?
Uberはよく使っているんですけど、Airbnbを使ったことがなくて。すごく楽しみにしてたんですけど、宿で唯一のトラブルはそれでしたね。
コペンハーゲンはいまどんな安宿でも一泊4万円くらいするので、Airbnbに泊まってみようと思って、撮影したいポイントから近い宿を予約したんですけど、その人が間違えちゃって。飛行場に着いて「今から行きます」とメールしたら、「え、なんのこと?」って返信が来て、「今から来られても困ります」って。
結局、49歳の僕がユースホステルに泊まって若い子たちとイェーイみたいな(笑)。懐かしいなと思ったけど、おっさんになったんだなって実感しましたね。
——あとはスムーズに?
昔は、地図を広げてきちっと計画立てて、12日で14カ国を周るんだったら、かなり完璧な計画を立てなきゃいけなかったけど、今はネットができてスマホがあって、チケットはいらない。パスポートと(クレジット)カードがあれば、ひとりでも全然平気。Google Mapがあればナビの問題もゼロだし、すごい時代になったとあらためて思いましたね。
今回やって良かったなって思ったのは、何カ所かで自転車を借りたこと。フットワークが軽く回れましたね。ヨーロッパはレンタル自転車のシステムがよくできていて、大体iPhoneかアンドロイド系の電話があれば、その場で借りられてどこでも返せるんですよ。
(c)Kaori Sasagawa
30歳でバイクで日本一周、日本の城マニア
——東京では忙しい日々を過ごされていると思います。やっぱり、ひとり旅は日常をリセットして考える時間になりますか?
実は30のときに日本の全都道府県をバイクで回ったんです。九州1周するときは3週間仕事を休んでとか、そういう感じで1年間かけてやったんですけど、すごく良かったんですよ。
いざ行ってみると出会いがいっぱいあって、全く知らない人の家にお邪魔して泊まったりして、今でも大切にしている出会いがあります。最近は、家庭も子どももあってなかなかひとり旅ができなかったし、海外に行くのも大体仕事だったけど、久しぶりに自由に過ごせましたね。
——日本の城も好きと伺いました。
お城マニアです(笑)。日本の城はほとんど見ています。見ていない城はないです。現存するお城は図鑑に出てるやつは全部見ています。今でも暇があれば行っていますね。
——なぜ城マニアに?
僕は日本の教育を受けていなくて、日本の歴史も分からないまま育っちゃったので、日本で仕事するようになって結構恥をかいたんですよ。人の出身地を聞いてもピンとこないし。
当時のアシスタントが「信長の野望」っていうゲームにはまっていて、「一緒にやりませんか」と。それがきっかけで戦国時代は面白いなと。やっと織田信長や武田信玄のことが分かるようになりました。
そんなときにたまたまロケで諏訪のほうに行ったんですけど、ちょうど僕が読んでいた歴史小説が『武田信玄』で。まさに舞台になっている場所だと思って、ロケバスを停めて「ロケハンする」って嘘ついて桑原城の城山を登っちゃったんですよね(笑)。
今じゃ何もない小さな山なんですけど、諏訪家のお姫様の舞台になったところで、まさに読んでいたところだったから感動したんですよ。そこから見る諏訪湖が絶景で。それがきっかけで暇があればいろんな城跡を見るようになりました。
19歳の夏に、家族で世界一周
——バイクや城めぐりもそうですが、旅好きな価値観は、(母で作家の)桐島洋子さんの影響や幼少期の教育が大きいのでしょうか?
母は旅が好きでしょっちゅう旅行していたので、子供のときからいろいろ連れていってもらいました。一番大きかったのは19歳の夏に世界一周旅行をしたことですね。12カ国を60日ぐらいかけて旅したんです。
僕が高校を卒業して、一番上の姉が大学を卒業するところだったので、全員子どもが親離れするタイミングで、母が「家族で最後に大旅行をしよう」って。
当時にしたら贅沢なんですけど、東京、香港、インド、ケニア、エジプト、モロッコ、スペイン、イタリア、フランスも。ベルギー、ニューヨーク、もう1つイギリスだ。12ヵ国を周りました。
あんまり意識したことはなかったですけど、壁が1つ崩れていくというか、不安と自分の弱さみたいなものと立ち向かうきっかけにもなっていますね。
選挙に負けて、シリコンバレーに行った
——今は360度写真などでVR門司港の作品も発表されています。もともと、どんな経緯で新スタジオを立ち上げたんですか?
それも旅がきっかけなんです。311の後、選挙(2013年の参院選)に出て負けて、今後どうしようかなって結構真剣に考えていた時期があって。選挙のちょうど1年後ぐらいで2014年の1月くらいですね。
そのときにたまたま友達が、「ソニーの元会長だった出井伸之さんが、若いベンチャー起業家を20名ぐらい連れてシリコンバレーに視察ツアー行くんだけど、一緒に行く?」って声かけてくれて、久々にシリコンバレーに行ったんです。
(c)Kaori Sasagawa
——選挙の後だったんですね。
最新のテクノロジーはどうなんだろうと思って見に行ったときに、VRはもちろん出ていましたけど、単純にGoogleとかFacebookとかYouTubeとかを見に行ってすごい危機感を感じたんですよ。日本が完全に出遅れているなっていう。
僕はもともとテクノロジーに詳しかったんですけど、写真というアナログな世界にずっと足を踏み入れていて。新しいことが好きだったはずなのにオールドテクノロジーにすがって、このままでいいのかなっていう不安があったときに、それを見て触発されて。
とはいえ、せっかく自分が30年やってきた職業なので、何か写真とうまくかみ合うテクノロジーはないものかって検索したら、今やっている「フォトグラメタリー」という写真測量の技術に出会ったんです。
——検索で、新しい技術に出会った。
僕のやっている「フォトグラメタリー」は、もともと地形を測量するための技術なんです。人工衛星って真上から真下の写真を撮るんですよね。上から地球の写真を何枚も撮って、例えばここに山があったとして、ちょっとしたズレを撮るとどのくらいの高さになるかを測量できるんですよ。
月も、月の周りの人工衛星が写真をいっぱい撮ることで3Dデータを作っています。応用すれば、人間ももちろん3Dデータ化できるんですよ。昔だったら億単位の(高額な)コンピューターだったのが、今は20〜30万円のコンピューターでできる時代になってきているんです。
ちょうどいいテクノロジーを見つけて、もちろんトライアンドエラーはあるんですけど、すごく順調というわけじゃないけど取りあえず回っているからラッキーかな。
選挙、負けたら普通の人は廃人になる
——選挙も挑戦だったと思います。あのとき迷いはなかったですか。
政治はすごく興味があったフィールドですが、僕も分かってなかったことが多かった。やはり選挙は、日本ではすごくネガティブなものなんですね。まず政治家に対するネガティブな印象が非常に強い。
いい政治を目指そうと思っても、政治家そのものに対する国民のネガティブな意識、不審感みたいなものが強くあるので、「お前もそっちの世界に行くんだ、権力の人間になるんだ」と。「世の中を良くしたいからやりたいんだよ」と言っても、否定する人たちにはそういうロジックが通用しなかったですね。
もちろんまともな人も実際にはいっぱいいますし、そこは学べたけど、選挙は大変ですね。負けるとダメージは非常に大きいです。勝っても大変でしょうけど、負けたら普通の人は大体廃人になっちゃいますね。よほど神経が図太くない限り。
——廃人……。でもいま、生き生きされてますよね。
僕も大変でした。自分がここまでもろいと思わなかったな。かなりきますよ。自分の仲の良い人に完全否定されちゃったりするわけですから。
でも世の中分からないなと思って。あれがなかったら選挙に出てなかったら、僕はカメラにしがみついていただろうから。
——選挙に負けたら、新しい挑戦ができた。
カメラマンも1つの既得権になって否定されるんだったら辞めちゃったほうがまだいいやって思います。次のテクノロジーに移っていくほうが明確なんじゃないかな。変にすがるよりは人の生きざまとしていいと思います。
(c)Kaori Sasagawa
ひとりとテクノロジーの関係
——ちなみに、テクノロジーを生かしたひとりの楽しみかた、面白いツールはありますか?
(スマホ向けゲームの)Ingress(イングレス)とかすごくいい例ですよね。ポケモンGOで有名になりましたけど、すごくテクノロジー的にも面白い。僕も結構好きですが、運動にもなって知らない場所に出かけるきっかけにもなるし、うつ病の人に効果があると着目されているんですよ。今、家にテレビも、HuluもNetflixもある時代。家に居がちだけど、Ingressで外に行くようになった人もいますよね。
僕は万歩計が大好きで、今僕はスマートウォッチをしているんですけど、ゲーム感覚で自分のログをとって全部数値化しています。僕は1日1万歩絶対に歩くって決めているので、2駅わざと早めに降りたりします。そんなふうに取り入れてもいいですよね。
バイク、山登り、そしてパリダカ
——桐島さんのひとり旅のこぼれ話、まだまだありますよね。
僕はバイク乗りなのですが、バイクも自転車もそうですけど、シャットオフできるのが好きなんです。バイクは、乗っていると電話も出られないし。完全に道路に集中しているんですよ。自分としてはそれが楽しい。切り離されるのが好きですね。
山登りもすごい好きです。最近はあまりしていないですけど、僕の場合はひとりで登るのが好きだったので、ちゃんとものを見るセレンディピティがあった。
今はあまりにもスマホとかを見過ぎていて、目の前にある景色を見なくなっちゃう。そういう意味では山登りは、天気とかにもすごい左右されるけど、運がいいと絶景が見られたりしますよね。
——以前、ダカールラリーにも挑戦されたそうですね。
僕の仕事は、大体雑誌か広告だったので、その日のうちに仕事が完結しちゃうんですね。写真集は、1つのマイルストーンかもしれないけど、僕は99%商業写真なので、思い出になるようなことをやってみたいなっていうのがあって。
ダカールだったら一生の思い出になるだろうなと思って出ましたけど、大変でしたね。本当。死にそうになったことが何回かあったので。
(c)Rowland Kirishima
——そんなに大変だったんですか。
すごい危険です。気候も暑くてしゃれにならないです。エクストリームなことで、やって良かったですけど。
パリダカって面白いのは、500人がレースに参加しているんですけどタイムカードスタートなんですよ。「あなたは7時10分にスタートします」っていわれて、みんな30秒おきにスタートするんです。
速い人からスタートしていくんですけど、前の人が早かったら2番目の人は追いつかないじゃないですか。30秒ってレース距離でいうとすごく長いんですよね。だから僕は前の人に追いつかないし、後ろの人も僕に追いつかない。2週間レースをひとりでやっているようなものなんです。
(c)Rowland Kirishima
——レース中はずっとひとり。不思議な感覚ですね。
あれは不思議ですよ。砂漠のど真ん中を、毎日スタッフを入れたら2000人ぐらい移動しているんですけど、走っているときは完全にひとりぼっちなんですよ。
(c)Rowland Kirishima
(c)Rowland Kirishima
前の人も後ろの人も見えないから、砂漠の中をひとりでぽーっといるのがずっと続く。あれはあれで面白かったです。
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——ダカールはおいくつのときに挑戦されたんですか?
ちょうど10年前なんですよ。なので39歳のときですね。
——桐島さんのように、節目節目でいろいろなチャレンジをするのは人生の糧になりそうです。
最近、本当に思うんですよ。うちの母もかなり年を取ってきたんですけど、結局彼女が一番大事にしているものは何なのかといったら、お金とかじゃなくて、思い出なんだなっていう。
自分も50歳で、少しずつこれから老いていくわけで、できる幅が年々狭まってきます。今年の12か国、14日間の旅行も今は問題なくできると思うけど、10年後簡単にできるかっていったら、もしかしたらできなくなっているかもしれない。
そのとき、そのときで違うチャレンジはやり続けたいなと思っていて。来年はちょうど50になるので、100ヵ国達成を最後の国をアフリカにできたらいいなと思っています。誕生日ぐらいにキリマンジャロの頂上だったら面白いかな。
ハフポスト日本版は、自立した個人の生きかたを特集する企画『#だからひとりが好き』を始めました。
学校や職場などでみんなと一緒でなければいけないという同調圧力に悩んだり、過度にみんなとつながろうとして疲弊したり...。繋がることが奨励され、ひとりで過ごす人は「ぼっち」「非リア」などという言葉とともに、否定的なイメージで語られる風潮もあります。
企画ではみんなと過ごすことと同様に、ひとりで過ごす大切さ(と楽しさ)を伝えていきます。
読者との双方向コミュニケーションを通して「ひとりを肯定する社会」について、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。
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