塩村文夏さんが見た都議会「職員ともたれ合いの構造」 波瀾万丈の4年を振り返る【都議選2017】

笑い話のように話していますけど、胃が痛くなるんですよ。平等ですらないし、公平にすら戦えない。
Taichiro Yoshino

東京都議選が6月23日に告示され、7月2日に投開票される。

この4年間はおそらく、かつてない注目が都議会や都政に集まった時期だった。猪瀬直樹・元知事が「政治と金」を巡る問題で辞職。続く舛添要一氏もやはり「政治と金」が問題視され知事の職を辞した。4年で3人目の知事となった小池百合子知事は、懸案だった豊洲市場移転をどう決断するのか注目が集まる。

都議会のあり方も大きく問われた。2016年、リオ・オリンピックへの都議の出張は、そのあり方が大きく批判され中止に追い込まれた。2014年には晩婚化対策を質問していた塩村文夏都議に「お前が早く結婚すればいいじゃないか」「産めないのか」というやじが飛び、大きな批判を浴びた。

都議会が注目されるきっかけになった塩村都議は、国政に転身するため次期都議選には出馬しない。放送作家やタレントといった政治と縁遠い世界から飛び込んだ都庁、そして都議会はどんな世界だったのか。4年間を振り返ってもらった。

■少数会派はつらいよ

——4年間つとめてこられて、立候補前に思っていた都議の仕事と印象はどう変わりましたか? 思っていたこととどんなことが違いましたか。

年配の男性が多くて縦社会というのは本当でした。「政治は古い人がやっていて、分かっていないから、古い慣行がまかりとおっている」というのは確かなんだけれども、新しい意見でいいものでも、頑固に取り入れないんです。自分たちが主導権を握っているんだぞという人たちで占められていたのが現実で、提案なんかできる雰囲気もないし、議場と言っても、議論にならない。都民の代表というよりは、どちらかと言うと行政側に近いような印象があります。

——旧みんなの党公認で当選して、現在は一人会派。ずっと少数会派だったので、数の面で苦労されたということでしょうか。それとも、そういうものを超えた議論のしにくさがあったのでしょうか。

数がパワーというのは本当でした。だから何を言っても通じないですし、行政側も数を見ながら対応しますから、こっちを向いてないですよね。知事の予算要望も複数会派以上じゃないと聞いてもらえない。世田谷区で私より下位当選した会派の予算要望は受けつけられていますから、理由をつけて断られる。議会改革を話し合う「在り方検討会」にも入れてもらえないし、何を話したのかも知らされない。都議会広報には一般質問の顔写真が一人会派の議員は載らない。一人会派は議員じゃないという雰囲気は議会でも、行政側からも感じました。

——放送作家などの活動をしながら、政治に遠い世界から飛び込みました。

議員になる前は放送作家としてメインでテレビを、そしてラジオ番組も担当していました。東京に憧れて東京に出てきて働く女性で、ようやく仕事も非正規とはいえ何となく安定してきた。なのに子供を産もうと思っても産めないじゃん。休んだら収入も途絶えちゃう。うまく子供を産めたとしても待機児童になっちゃう。キャリア積めないじゃん、どうしたらいいんだというジレンマにぶち当たった。

それから動物愛護の問題。国政でも区議選でもなく都議選に出たのは、動物愛護センターの行政官管轄が広域自治体の東京「都」にあったからです。

議員になる前は、いい提案をすれば気づかなかった人たちが「これいいね、やろう」となると思っていたけど、そうならないと気付いた。何回もめげました。認めないですから、何を言っても。行政側の答弁のロジックがおかしいときには、根拠となるものを全部見つけだして、現地に足を運んで写真を撮る。その作業に夜中まで、時には朝までかかる。その繰り返しでしたね。

与党の先生が、質問調整をささっと終えて帰られるのを見ると、私がやっていることは理解できないんだろうなあと思いますよね。

一人会派は訴えたいことを思う存分、一般質問の持ち時間やブログで発信することはできますが、施策に反映させるのがすごく難しい。提案しても、私が望むような回答が私の質問のときには出てこず、次の与党の質問で「やります、改善します」と答える、みたいなことが続いていく。かつては悪くない答弁も頂けていたんですが、ある日、大会派の先生が職員に「おい、ずいぶんサービスいいじゃないか」と委員会で言ったら、その瞬間に職員の顔が青ざめたんです。それを見た瞬間「あっ」と思いました。

ただ、やっていくうちに、少数会派の役割がわかってきました。だれも取り上げなければ改善されなかったことを、しっかり都議会で訴え、議事録に残すことで、行政側も動かざるを得なくなる。自分の仕事は、いいことを提案して「私はこれを変えました」と誇るんじゃなくて、おかしいことを東京都に認識して変えてもらうことだな、それが与野党の違いとすごく認識させられた。

だから途中から、おかしいことを徹底的におかしいと追及する戦法に変えたら、動物愛護や待機児童問題でもこの4年で大きく変わった。私が当選した時はまだまだ都の重要課題ではなかったですから、やっぱり続けていくのは重要だと思っています。

——自分の質問で変わったことはありましたか。

待機児童の問題で、建物の検査済証がなかったり紛失していたりする建物を、安全が確認できれば保育施設に使ってもいいように通達してくれと、世田谷区長が知事との懇談の中で提案して、私も一般質問を通告したんです。

通告から質問まで3日ぐらいあるんですが、当初は「わかってるんだけどね、春ぐらいまでには」という回答だったのが、質問を通告したとたんに「今日の6時までに通達を出しますから、この質問、意味がなくなります」と言ってきた。野党の先生に花を持たせたことになるから、質問前までに実施する。野党も使い方だなと思いました。

動物愛護センターの改修も、当選直後の最初の委員会の質問から、私が何回も言いつづけてきました。それを多くのSNSフォロワーが拡散をして応援してくれて、他の議員もそこで気付くんです「確かに愛護センターぼろいぞ」って。いきなり動物愛護の機運が高まってきて、急にいろんな議員さんから質問が出て、ついに愛護センターの建て替えが決まりました。私が言ったことで変わったわけではないけれど、言い続けたことで取りあげられ始めたんですよね。

花は持たせてもらえないけど、改善まで持っていくのが仕事。まあ、でもいつかは「私が言ったことで変わりました」というのも、言ってみたいことのひとつではあるから、みんな与党になりたがるのもわからないではないけれど。

■なあなあな都議会、都政との癒着

——都庁は伏魔殿だと言われます。議員として向き合ってみた東京都庁という組織は手強いところでしたか?

ピラミッド形で、上を見ている組織。何をするにしてもその場で返事せず、上にお伺いを立てに戻っていくんですよ。自分で責任を負いたくない。時間がかかってしょうがない。都民の方を向いていないと感じることが多々ありました。

職員の評価が減点主義なんでしょうね。追及されたら斜め45度から強引な理屈をこねる。私が議会で「これはおかしい」と追及すると、「これまではこうやってきた、今はこれをやっている、今後ともこうしていく」という言い方をして、改善もしないし認めない。でも後からこそっと変えていることもある。追及を続けていると職員に嫌われるし、次も絶対にいい回答をもらえないので、議員はなかなか言えなくなる。

逆に大会派を敵に回すと、行政側の予算も認めてもらえませんから、いいことを提案させて「先生の提案でやります」と答弁する。その代わりに悪いところはあまり追及させない。最終的に改善されればいいんだけども、議会としても不健全です。

東京都の施策って、全部平均的に高得点の優等生なものが多い気がします。失敗は絶対してはいけないのだと。お金をかけているから進んでいるように見えるし、何かをやると決めたときは良くも悪くも強いんだけれど、総じてオリンピックを除くと、まったくアイデアから全国初というより全国で早期に始めましたという方が多い印象です。

——びっくりしたことってありましたか?

海外視察ですかね。あってもいいと思うんですよ、世界の首都の東京ですから。しかし何かにつけて議連を作って海外視察。それも毎回ドント方式で割りますから、絶対に一人会派に回ってこない。同じ会派の人たちばかりでもたれ合ってるのを感じます。

——リオ・オリンピックでは問題に大きな批判を浴びました。

あれは変でしたよ。舛添知事の問題があって「理解が得られない」と辞退した会派の分を、大会派で割り振り直す悪質なものでした。あの状況で私に声がかかっても行かなかったと思いますけれども、セコさというか浅ましさが見えましたね。

——他には?

一度、会派控室で金銭の出納帳がなくなって、Facebookなどで騒いでいたら、ある日いきなり戻ってきたことがありました。議会局に「防犯カメラの映像を見せてくれ」と言ったら、職員が「見たんですけど怪しいものは何も写っていません」と言ってきた。

「部長の命令で、『怪しいものは一切写っていなかった』と言ってこいと言われて僕は来ています」

「あなたの言う『怪しい』の定義って何?」

「僕たちの言う『怪しい』の定義とは、唐草模様のほおかむりをしている人です」

「いるわけないだろ!」

見せろ、見せないのやりとりの後、新宿署に連絡して、警視庁から要望を書面で出したら、防犯カメラの記録動画を出してきたんだそうですが、帳簿がなくなった日は「最初から写っていなかった」と言い出して、返ってきた日は映像が別の場所にすり替わっていました。正しい画像を提出するよう警視庁が要望すると「すべてもう消去しました」と都の議会局は返答してきました。

今は笑い話のように話していますけど、胃が痛くなるんですよ。平等ですらないし、公平にすら戦えない。私はメンタルが鋼鉄だと言われていますけど、2回ぐらい泣いたことがあるんです。普通の女性でどれだけ耐えられるか。

——都議会でやり残したことは?

やはり議会改革ですよね。ある種、職員も含めてもたれ合っていると思うんです。職員も大会派の先生の意向をくんでおけば、安泰じゃないですか。

海外視察もそうですし、費用弁償はなくなりましたけれども全国最高の1日1万円だったし、政務活動費も全国最高の月60万円が50万円になりましたけれども、これだけの特典がついているんだから「お互いうまくやりましょう」というところがあると思うんですよね。私たちが適正な要求と行動をしていれば、もっと職員たちに「おかしい」と言えるんだけど、もたれあっちゃってるもんだから、なかなか。

一人ひとりが都民の代表だという自覚を持ってきちんと仕事をすることが、振る舞いも含めて重要なんですけども、なんかね「選ばれし者」になってますから。選ばれたという意味を履き違えている人が多い。やっぱりその体質が見られていないからで、猪瀬元知事の言葉を借りればどんどん「光を当てる」ことで、一人ひとりが真っ当な議員として行動ができる環境作りは必要だと思っていました。

——時代と共に改まっていくという感じでもないようですね。

やっぱり注目されていないとダメですよ。私のヤジの問題や舛添前知事の前は、都政や都議会なんてほとんど注目されていませんでしたから。いくら志の高い議員でも、本当に強い思いを持っていないと、シメシメと流されちゃうんですよ。いろんな人が見るようになれば、隠したいことがどんどん外に出ていく。だから報道してもらえることってすごい重要だと思っているし、政治を監視というか、注目することは重要なんです。

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しおむら・あやか 1978年生まれ、広島県出身。タレントや放送作家などを経て、2013年の都議選で世田谷区選挙区から旧みんなの党公認で初当選。現在は一人会派「東京みんなの改革」所属。次期衆院選に民進党公認で立候補することが決まっており、今回の都議選には出馬しない。

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