「私たちは取材で"普通"が揺らいだ。きっと、あなたも」NHK、1年間の『発達障害プロジェクト』を始動

いま、発達障害に対する世間の理解が、ちょっと偏っているのではないかな、という思いがあります。

NHKが『発達障害プロジェクト』を開始した。5月21日に放送された『NHKスペシャル』を皮切りに、脳機能が関係する障害である「発達障害」を、1年間かけて継続的に報じていくプロジェクトだ。『Nスペ』のほかにも『あさイチ』や『ハートネットTV』『ETV特集』など10もの番組が連携を予定しているという。

なぜいま発達障害なのか? 1年間つづけることの意味は? このプロジェクトを「新しい挑戦」だと語る担当プロデューサーの齋藤真貴氏とディレクターの上松圭氏にねらいを聞いた。

NHK『発達障害プロジェクト』ウェブサイト

■「周囲はどう受け止めればいいか」に力点を置きすぎていないか、という問題意識があった

——なぜ発達障害をプロジェクトのテーマに取り上げたのですか?

齋藤:NHKではこれまでも発達障害を散発的に取り上げています。たとえば『あさイチ』では、2012年を皮切りに3回特集したことがあり、2015年にはモデルの栗原類さんが番組内で「自分も発達障害だ」と告白したこともありました。

驚いたのは、発達障害を扱った回は、視聴者の方からの反応がすごいことです。メールやFAXが普段の2倍以上届きますし、その内容も非常に熱がこもっている。発達障害自体への関心はもちろん、少し人と違う自分への不安や、人間関係やコミュニケーションの難しさといった切り口でも、視聴者の共感を得られたのではないかと想像するのですが。関心も切実さも高い話題なんだなと認識していましたし、継続して扱っていきたいと思っていました。

ただ、今までの番組では、内容が「周囲は発達障害をどのように受け止めればいいか」「支援の方法は」といった点に力点を置きすぎていたのではないか、という問題意識があった。もっと「当事者はどう感じているのか」「何に困っているのか」という点に注目して伝えてみたいというのが出発点でした。

——単発の番組ではなく、継続するプロジェクトにしたきっかけは?

齋藤:まずは『NHKスペシャル』で『あさイチ』とは違う伝え方に挑戦しようとしたのが出発点でした。ただ、『Nスペ』の企画をする中で、もっと他の番組も巻き込めないかという話になり、他番組の担当者に相談してみたんです。「こういうのをやろうと思うんだけど」と。

そうしたら、予想以上に反応がよかった。半分ぐらいの人が興味を示してくれたらいいと考えていましたが、「ぜひやりたいけれど時期については相談させてほしい」といったものも含め、全員が前向きな回答をしてくれました。いま、プロジェクトに参画する予定の番組は10を数えるまでになっています。

5月27日放送の『ETV特集』では、特別支援学級に取材した

■発達障害への世間の理解が偏っているのではないか

——番組の制作上でこだわっている点はありますか?

齋藤:先ほどもお話したとおり、今回の企画は「当事者の声をいかに伝えるか」が出発点ですので、そこにはこだわりたいと思っています。

上松:いま、発達障害に対する世間の理解が、ちょっと偏っているのではないかな、という思いがあります。落ち着いていられない人、急に暴れだす人で、「よくわからないけど対処しなきゃならないらしいよね」とか、逆にみんな才能に溢れているとか。当事者や家族は、そんな無理解に苦しんでいる側面もある。なので、世間の理解が少しでも、現実に即する形へと進めばいいなと。

齋藤:複数の番組で、1年をかけて発達障害を扱うと、そこにはさまざまな当事者が異なる形で現れることになる。その姿を継続して観ていただくことで、発達障害に対する理解はもちろん、なによりも「当事者も人それぞれ」であることがわかってもらえるんじゃないかと思っています。

■取材を通じて“普通”が揺らいだ

——今回のプロジェクトが持つねらいや、一番伝えたいメッセージは?

齋藤:発達障害の当事者を、ただ「困った人」や「変わった人」ととらえるのではなくて、「そこには理由があるんじゃないか」と想像することが自然にできるようになると、いろいろな人が生きやすくなるのではないかなと思うんです。簡単にいうと「相手の立場に立って考える」ということですが、そんな社会になるような後押しができるプロジェクトになるといいなと思っています。

上松:取材を通じて発達障害の方々と話すと、“普通”が揺らぐんですよね。

たとえば、廊下を歩いている。それまで持っていた“普通”の感覚で、黙って歩いてはいけない、何かしゃべったほうがいい、と思って話しかける。すると、「情報が多くなってしまって混乱するので、急用でなければ、できればしゃべらないで歩いてもらえますか」とお願いされるんです。

自分の “普通”で推し量れない感覚を持っていて、しかもそれを正直に伝えてくれる人と出会えたのが、非常に興味深かった。

何しろ見えない障害なので、外からは非常にわかりづらいんですよね。なので、一人ひとり違う特性を持った人たちに「自分の場合はこうだった」「自分の場合は…」と、1人称で語ってもらう。プロジェクトを通じて、とにかくたくさんの人生を見せていく。そうすると、きっと視聴者の方々にとってもさまざまな気づきを得られるものになるだろうと思っています。

■『発達障害プロジェクト』とは

発達障害について、NHKが当事者や家族の声を継続して発信する。誤解を受けることが多い発達障害の実像を多面的に伝えるのが狙いだ。

期間は2017年5月から2018年4月までの1年間。現時点で『NHKスペシャル』『あさイチ』『ハートネットTV』『ETV特集』『おはよう日本』『ニュースシブ5時』『クローズアップ現代+』『ウワサの保護者会』『すくすく子育て』『バリバラ』の10番組で特集が予定されている。放送予定はプロジェクトウェブサイトに随時公開される。

プロジェクトウェブサイト:http://www1.nhk.or.jp/asaichi/hattatsu/

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