国連特別報告者が安倍首相に、「共謀罪」法案に懸念を示す書簡を送ったことについて、菅義偉官房長官は5月22日、「何か背景があるのでは」などと強く抗議した。
この発言を大阪国際大学准教授の谷口真由美氏が、28日放送の「サンデーモーニング」(TBS系)で、「日本政府は2枚舌」などと指摘した。日本政府はこれまでに国連特別報告者を叙勲することもあり、矛盾するのではないかという。
■これまでの経緯
・ケナタッチ氏が安倍首相宛に書簡:国連のジョセフ・ケナタッチ氏が18日付の書簡で、「(法案は)プライバシーや表現の自由を制約するおそれがある」などと指摘した。「新法案では、犯罪を立証するため国民への監視を強化する必要がある場合に、適切にプライバシーを保護するための新たな特定の条文や措置が盛り込まれていない」ことなどがその理由だった。
・政府が国連に抗議:日本政府は18日付で、国連に抗議。菅官房長官は22日の記者会見で、「政府外務省は、直接説明する機会を得られることもなく、公開書簡の形で一方的に発出した」などと声を荒げ、「書簡の内容は明らかに不適切なもの」「強く抗議を行った」などと述べた。24日の会見では、「何か背景があって(書簡を)出されたのではないかと思わざるを得ない」とも述べていた。
■国連特別報告者とは?
国連のプライバシー権に関する特別報告者とは、国連の人権理事会の任命を受け、各国の人権侵害などの状況を調査・監視・公表する専門家だ。各国から独立した立場におり、調査した内容は、人権理事会や国連総会に報告する。
報告書を作成するにあたっては、「当局と被害者の双方に会い、現場での証拠を集める」とされる。
日本は国連人権理事会の理事を務めており、特別報告者の任命権がある。
ケナタッチ氏はマルタ大学の教授でIT法の専門家。2015年7月に、プライバシー権に関する特別報告者に任命された。
■日本政府は過去に国連特別報告者を叙勲していた
谷口氏は28日の番組で、日本政府はこれまで国連特別報告者に対し、叙勲していたことがあると指摘した。
確かに日本政府は、北朝鮮による日本人拉致など深刻な人権問題解決に向けた取り組みなどに尽力したとして、インドネシア出身のマルズキ・ダルスマン氏(72)に2017年春に旭日重光章を授与した。ダルスマン氏は2010年8月〜2016年7月に同報告者を務めた。
谷口氏は番組で、「『何か意図のある人じゃないか』みたいなことを日本政府が言ったとしたら、これはもう重大な2枚舌」と批判。「そして、理事国としての信頼にもかかわるという、大変な問題をはらんだ今回の菅官房長官の抗議だと考えます」などと述べ、日本政府の矛盾を指摘した。