ドナルド・トランプ氏の大統領就任から10日の間、司法長官代行を務めたサリー・イエーツ連邦検事は、5月8日、上院小委員会の公聴会で証言し、ロシアと接触した疑惑で大統領補佐官を辞任したマイケル・フリン氏はロシアによる「影響」を受け、「事実上、脅迫される可能性がある」とホワイトハウス側に警告していたことを明かした。
フリン氏は、新大統領の就任前、駐米ロシア大使に接触していたという疑惑が浮上し、2月13日、大統領補佐官を辞任している。
ワシントンポストが報じた疑惑は、フリン氏がセルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使と連絡をとり、経済制裁解除について協議していたというもの。フリン氏の行動は、民間人が外交政策を禁じる法律に違反する可能性がある。
フリン氏は疑惑が報じられた当初は接触を否定、これを受けてマイク・ペンス副大統領も繰り返し疑惑を否定していた。しかし、後に事実だったことを認め、虚偽の報告をしたことで政権内の信頼を失ったフリン氏は辞任に追い込まれた。
イエーツ氏は、上院司法委員会の犯罪・テロリズム小委員会の公聴会でこの疑惑について証言。1月下旬に、ホワイトハウスの法律顧問のドン・マクガーン氏に対して「微妙な問題について個人的に話し合いたい」と伝えたと話した。
そして、1月26日と27日にホワイトハウスで行われた2人の話し合いでは、フリン氏がマイク・ペンス副大統領に提供した情報について、司法省は「真実ではないことを知っている」と伝えたと述べた。イエーツ氏は、フリン氏の行動について意見を述べることは避けた。
イエーツ氏の証言は、ワシントン・ポストが2月9日に報じた記事と一致している。
イエーツ氏は、ペンス副大統領がテレビの全国放送で「フリン氏はアメリカのロシアに対する制裁についてキスリャク大使と話し合いをしていない」と誤った発言をしたことを受けて、マクガーン氏と協議したという。
「我々は、副大統領ら関係者には、国民に伝えている情報が真実ではないことを知る権利があると感じていました」と、イエーツ氏は述べた。「我々は、フリン氏の行動について、アメリカ国民に誤った情報が伝えられていたことを懸念していました」
さらに重要なのは、事態が明らかになっていくのを見守っていたロシア政府が、その状況をうまく利用しようとするのではないかと司法省が疑っていたことだ。
「ロシア側もフリン氏が行ったことを知っており、フリン氏が副大統領をはじめとする関係者に誤った情報を伝えていたことも知っていた」とイエーツ氏は証言。さらに、ロシアから「国家安全保障担当補佐官だったフリン氏が脅迫される可能性がある」という状況を作り出したという認識を示した。
「当然のことですが、国家安全保障担当の大統領補佐官がロシアの影響を受けるのは、好ましいことではありません」と、イエーツ氏は付け加えた。
公聴会で証言したイエーツ氏。CHIP SOMODEVILLA VIA GETTY IMAGES
イエーツ氏は、司法省がフリン氏の行動をどのようにして把握したかについては証言を拒否した。アメリカの情報機関関係者は、定期的に他国の政府関係者の通信を監視している。
イエーツ氏は、1月27日のマクガーン氏との話し合いで、マクガーン氏は4つの質問をしてきたと語った。
・なぜ司法省は、ホワイトハウスの政府関係者が誤った情報を伝えていることを懸念しているのか。
・司法省はフリン氏に対して刑事訴訟を起こす可能性はあるのか。
・フリン氏に対して「訴訟」が起こされた場合、FBIによる現在進行中の捜査の妨げになるのか。
・フリン氏の行為を裏付ける根本的な証拠を見せてほしい。
イエーツ氏はマクガーン氏に対して、フリン氏はすでにFBIの聴取を受けており、訴訟が起きたとしても捜査に影響はないと話したと、公聴会で証言した。
2度目の話し合いから3日後の1月30日、イエーツ氏はマクガーン氏に、フリン氏の行動に関する証拠を示せるかもしれないと伝えた。しかしイエーツ氏は同日、イスラム教徒が多数を占める7カ国からの入国を一時禁止する大統領令に従わないよう司法省内に通知したため、トランプ氏に解任された。
イエーツ氏の警告に対し、ホワイトハウスはすぐに反応を示さなかったようだ。しかし数週間後、フリン氏がロシアに対する経済制裁についてキスリャク大使と話し合っていたことをワシントン・ポスト紙が報じたことで、フリン氏は辞任に追い込まれた。
イエーツ氏は8日、ジェームズ・クラッパー前国家情報長官と共に証言した。両氏は3月、上院とともにトランプ政権のロシア接触疑惑を調査している下院情報委員会で公開証言を行うことに同意していた。
しかし両氏が証言する直前、同委員会の議長を務めるデビン・ヌネス下院議員(共和党、カリフォルニア州選出)は突然公聴会を中止した。同委員会の有力者である民主党のアダム・シフ下院議員(民主党、カリフォルニア州選出)は、「公共情報の公開を妨害」しようとしたと、ヌネス氏を批判した。
「バラク・オバマ前大統領がトランプ・タワーを盗聴していた」という、トランプ氏の根拠がない主張を正当化するため、ホワイトハウスに情報を提供したとみられるヌネス氏は、批判を受けて、それ以降下院情報特別委員会の調査には関与していない。
ヌネス氏が公聴会を中止した後、ワシントン・ポストはトランプ政権下の司法省がイエーツ氏の証言を妨害しようとしたことを示す複数の書簡を入手した。司法省はイエーツ氏に対し、フリン氏の辞任や同氏のロシア大使との会話については、弁護士と依頼者間の秘匿特権、または大統領通信秘匿特権により、公の場での発言は禁じられていると伝えたという。
イエーツ氏の代理人は、トランプ政権が「依頼人の機密保持」を過剰に解釈しており、ホワイトハウスによるフリン氏に関する公式声明は、大統領通信秘匿特権には該当しないと主張した。
8日の公聴会で、イエーツ氏はフリン氏に関する一連の問題に対する自身の関連について初めて公の場で発言した。
イエーツ氏はオバマ政権で司法副長官を務め、トランプ政権で司法長官代行に任命されたが10日で解任された。イエーツ氏の解任に当たって、ホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官はイエーツ氏が「司法省を裏切り、国境管理については弱腰で、移民については非常に弱腰」だとする声明を発表した。
イエーツ氏は突然司法省を去ることになり、司法長官代行としてデイナ・ボエンテ氏が任命されたが、わずか1週間後にはジェフ・セッションズ氏が正式に司法長官に任命された。
解任されたイエーツ氏は、トランプ政権に対する「抵抗の象徴」として一躍英雄視されるようになった。
8日に行われた同氏の証言をリベラル派が待ち望む中、トランプ大統領はTwitterで、イエーツ氏がマクガーン氏にフリン氏についての懸念を伝えた後に、どうして「機密情報が新聞に漏えいしたのか」誰か彼女に尋ねてみてほしいと投稿し、イエーツ氏を攻撃した。
イエーツ氏は解任以来取材には応じていないが、2月にアトランタで行われたエリック・ホルダー元司法長官のイベントに聴衆の一人として参加した時にはスタンディング・オベーションを受けた。
ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。
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