森美術館で日本初の「#empty」イベント開催、空っぽの美術館を自由に撮影

イベントに参加したインスタグラマーたちは、思い思いの表現方法で作品とともに写真撮影を楽しんだ。
Aya Ikuta / HuffPost Japan

東京・六本木の森美術館(東京都港区)が4月25日、閉館後の館内をInstagramのユーザー(インスタグラマー)に開放し、展示風景を撮影・Instagram上でシェアしてもらうというイベントを開催した。

『#emptyMoriArtMuseum』と銘打たれたこのイベントは、空っぽ(empty)の施設にインスタグラマーを招待するという海外発のソーシャル・イベント。美術館がInstagram社と開催する事例は、同社が把握する中で国内初となった。

今回舞台となったのは、森美術館で2月4日から6月11日まで開催されている「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」。一般応募を含む学生のインスタグラマー19名が閉館後の森美術館に集結し、2時間にわたって館内を自由に撮影した。

同展は、世界各地で開催される国際展に数多く参加しているインド出身の芸術家、N・S・ハルシャ氏の個展シリーズとして開催。現実世界の不条理さや、南インドの伝統文化や自然環境、日々の生活における人間と動植物との関係などをテーマにした絵画や彫刻、インスタレーションなどの作品を展示している。

■座り込んだり、寝そべったり。自由に空っぽの美術館で撮影

イベントに参加したインスタグラマーたちは、思い思いの表現方法で作品とともに写真撮影を楽しんだ。

Instagramに投稿された写真には「#emptyMoriArtMuseum」というハッシュタグが付けられ、一連のイベントで撮影された写真であることが投稿を見た人にもわかるようになっている。また、この『#empty』イベントでは特別に動画撮影も許可されており、24時間で自動的に投稿した動画が削除されるストーリーズを活用する参加者もいた。

展示作品の前で写真撮影する参加者。インスタグラマー同士の交流も生まれていた。(N・S・ハルシャ 「未来」)
展示作品の前で写真撮影する参加者。インスタグラマー同士の交流も生まれていた。(N・S・ハルシャ 「未来」)
参加者たちによって、Instagram上には「#emptyMoriArtMuseum」というハッシュタグ付きの写真が多数投稿された。
参加者たちによって、Instagram上には「#emptyMoriArtMuseum」というハッシュタグ付きの写真が多数投稿された。

ハルシャ展では、通常の展示時でも写真撮影が許可されている。しかし、他の鑑賞者の邪魔にならないよう、マナーを守って撮影することが前提だ。『#empty』は閉館後に開催された少人数向けのイベントということもあり、参加者たちは周りの目を気にすることなく、会場に座り込んだり、寝そべったりしながら撮影をするという贅沢な時間を味わっていた。もちろん、館内での飲食厳禁、展示作品に触れないといった最低限のルールは遵守するよう事前に伝えられている。

イベントに参加した高校生のDemiさん(Instagramでのアカウント名:@demi_osaki)は、学校の授業が終了した後に同イベントに参加した。普段から写真を撮ることが好きだという彼女は、ハフポストの取材に対し、いつもとは違うアングルから写真を撮影するといった楽しさを堪能したと振り返った。

「ハルシャさんの絵は、全体から見るのと、細部を見るという2つの視点から見た方が理解が深まるのかなと思ったので、その2つの視点をうまく切り替えながら撮れるように意識しました」

作品に合わせてポージング。作品ごとにどのような写真を撮るか、創作意欲が湧きそうだ。 (N・S・ハルシャ 「タマシャ」)
作品に合わせてポージング。作品ごとにどのような写真を撮るか、創作意欲が湧きそうだ。 (N・S・ハルシャ 「タマシャ」)
一つの作品を、周りの目を気にせずじっくり鑑賞するという至福の時間も堪能できる。 (N・S・ハルシャ 「ふたたび生まれ、ふたたび死ぬ」)
一つの作品を、周りの目を気にせずじっくり鑑賞するという至福の時間も堪能できる。 (N・S・ハルシャ 「ふたたび生まれ、ふたたび死ぬ」)
イベント終了後には参加者全員で集合写真も撮影した。 (N・S・ハルシャ 「レフトオーバーズ(残りもの)」)
イベント終了後には参加者全員で集合写真も撮影した。 (N・S・ハルシャ 「レフトオーバーズ(残りもの)」)

■撮影した写真自体が「アート」になる

森美術館は、Instagramといったソーシャルメディアを活用した集客戦略を積極的に取り入れてきた。

森美術館の広報担当者・瀧奈保美氏によると、今回のイベントは、海外の美術館で広がりを見せている「#empty」というコンセプトに着目した職員が提案し、満を持して開催に至ったという。さらに、舞台となった「N・S・ハルシャ展」に『インスタグラム映え』する展示作品が多かったことも、参加者の「写真を撮りたい」という気持ちを刺激し、イベントを盛り上げた一因となったと振り返った。

《イベント後、森美術館の公式Instagramアカウントでも参加者が投稿した写真がシェアされた。この作品は天井が鏡になっており、写真に写る人がまるで作品の一部になったかのようにもみえる。(N・S・ハルシャ 「空を見つめる人びと」)》

森美術館で写真撮影を許可するという取り組みは2009年、中国の現代芸術家アイ・ウェイウェイ氏の展覧会を開催した際に初めて行われた。その後も森美術館では、アーティストの了承を得た場合、館内での写真撮影を良しとする取り組みを続けてきた。

イベントの冒頭では森美術館館長の南條史生氏が挨拶し、アート作品がSNS上で広がりを見せるという現象について、「単に美術館内を撮るというだけではなく、変わった撮り方をする人もたくさんいる。それ自体がアートのようになっており、大変おもしろい」と期待感を示した。

一方で、SNS上で自身の作品がシェアされることについて、アーティストの立場にいる人はどのように考えるのか。

森美術館初の「#empty」イベントの舞台になった作品を生み出したハルシャ氏は、工夫を凝らして写真を撮る参加者たちをニコニコと微笑みながら見守っていた。ハルシャ氏は、一度作品が完成すると自分のものではなくなる、と考えているという。

「一度作品が完成してしまい、手中を離れてしまうと、それはもう私のものではなくなります。その後は、絵画の冒険のようなものとして見守っています。幼い頃、道ばたにばらまかれた映画やドラマのチラシを拾い、その内容を人に伝えていた時のことを思い出しました。形式が違うだけで、情報を広げるということは当時も今も変わりません」

N・S・ハルシャ氏(左)と南條館長(右)
N・S・ハルシャ氏(左)と南條館長(右)

データが洪水のように押し寄せて「情報爆発時代」とも言われる現代社会で、より多くの人に美術館に足を運んでもらい、アートを楽しんでもらうために何ができるか。Instagramを活用した『#empty』イベントの取材を通して、柔軟な姿勢でさまざまなチャレンジを続ける森美術館の意気込みを感じた。

■関連画像集「森美術館×Instagramイベント『#emptyMoriArtMuseum』(N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅)」

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