4月19日、ベネズエラの通りに数万人があふれ、ニコラス・マドゥロ大統領に抗議した。国外に住むベネズエラ人も各国の大使館に集結して連帯を示した。ワシントンD.C.では約100人のベネズエラ系アメリカ人とその支持者らがベネズエラ大使館の向かい側に集結し、マドゥロ大統領をキューバのカストロ氏の支配にたとえ、「独裁者」と批判するプラカードを掲げた。
ワシントンD.C.のベネズエラ大使館の外で「死、暴力、独裁はもうたくさん」と書かれたカードを掲げて抗議する人。ZACH YOUNG
「ワシントンD.C.にいるベネズエラ人は、同胞が祖国の街頭に集まって訴えているのと同じように、抗議するためにここに集まりました」と話すのは、野党「ボルンター・ポプラル(人民の意志)」インターナショナル派の代表カルロス・デルガド・サラス氏だ。「私たちの要求はとてもシンプルです。民主主義と人権、それだけです」
数週間前からベネズエラ全土で抗議デモが激しくなっている。3月にマドゥロ支持者が大半を占める最高裁が、政府の一部機関で野党が多数派を占める議会の権限を制限することを決定したのが発端だ。この決定でほぼ独裁的な権限をマドゥロ氏に与えることになったが、国民からの抗議を受けて数日後に撤回された。しかしその時すでにベネズエラの人々は通りにあふれ出ていた。19日のデモ行進は「すべての抗議の母」と呼ばれ、首都カラカスなどの都市で実施された。写真と動画からはこれまでに例を見ないほど多くの群衆が通りや高速道路を埋め尽くし、警察と衝突している様子が映っている。
カラカスなど全土のデモで複数の死者が報告され、これまでに少なくとも22人が死亡している。
大規模なデモを写した1枚。カラカスだけではなく#ベネズエラ 全土で抗議が起きています。
ワシントンで抗議する人たちは、祖国ベネズエラでのデモ行進に関する最新情報をスマートフォンでチェックしていた。同じような抗議活動がマドリードなど世界中の大使館で実施された。
サラス氏によると、抗議する人たちが求めているのは「些細なこと」だという。マドゥロ氏が立法府の独立を尊重すること、総選挙の実施、そして最も重要なのが、マドゥロ政権に捕らえられた政治犯の釈放だ。19日の抗議デモで、サラス氏は政治犯の中で最も有名なレオポルド・ロペス氏が描かれたTシャツを身につけていた。ロペス氏は暴動を扇動した罪で投獄された2014年まで、野党の主要な指導者だった。ロペス氏と一緒に投獄されたのが、野党勢力の象徴で大統領選に出馬したこともある正義第一党のエンリケ・カプリレス氏だ。5日に抗議活動が激しさを増すと、マドゥロ政権はカプリレス氏がミランダ州知事だったときに政府の不正を訴えたことを引き合いに出し、同氏の政治活動を今後15年間禁じると発表した。ワシントンの大使館前で抗議する人たちは、カプリレス氏が「偉大な活動家」として世界中から称賛されていると訴え、政府の決定に怒りをあらわにした。ある人は「政府は恐れている。反対意見をすべて排除して自分たちだけが残ろうとしている。でもうまくいかないだろう」と語った。
これまではマドゥロ政権による反対勢力の抑圧は成功してきたが、今回はどうなるかわからない。1998年にマドゥロ氏の前任ウゴ・チャベス氏が大統領に就任して以降、最も反対派の力が増しているのが今だからだ。チャベス政権時代、反対勢力は都市部の中流階級の実態のつかめない「アバター」と揶揄されていた。しかし近年、小麦粉、砂糖、粉ミルク、トイレットペーパーなど日用品の配給に毎週何時間も並ぶのが日常茶飯事になった。また殺人事件の発生率の増加(カラカスはいくつかの調査で最も危険な都市とされている)もあり、古い階級区分はなくなってきたようだ。前回の選挙では僅差で勝利したマドゥロ氏は、自分の支持率が25%以下に落ち込んでいることを知っている。
「今、マドゥロを支持する人は誰もいません」と、デルガド・サラス氏は語った。
地元メディア『カラカス・クロニクルズ』の編集長エミリアーナ・ドゥアルテ氏は19日夜、スカイプで「最高裁が議会の権限を奪った時、反対派にとっては大きな好材料となりました」と話した。「もし政府側が独裁的な動きを見せなかったら、反対派は今頃こっそりと会合を開いていたでしょう。彼らは政府に憲法の尊重と総選挙を求めることで1つになっています。今はかつてないほど団結しているのです」
ドゥアルテ氏は、反対派で最も有名な人物はカプリレス氏ではあるが、今は誰か1人に従うのではなく、マドゥロ氏に抵抗することで反対派が団結していると強調した。「人々は通りに出ても、カプリレスの話はしません」とドゥアルテ氏は指摘した。話の途中、「カセロラソ」の音に遮られた。これは人々が鍋やフライパンを叩いて不満を表す、南米の伝統的な抗議のやり方だ。この金属を叩く音は19日の夜、町中に響いていた。
ベネズエラ統一社会党(PSUV)はこれまで、慢性的な日用品不足、 世界で最も深刻なインフレ率といった国内の経済危機が富の集中、財産の没収、価格や通貨の管理などの政府の政策と関連している可能性があることを認めず、代わりに野党とアメリカの陰謀だと非難している。マドゥロ氏とその支持者は「経済戦争」を「ヤンキー帝国主義が率いる北アメリカ帝国に対する戦争」と位置づけ、よく引き合いに出している。
マドゥロ氏自身は一連の抗議活動について、2002年に当時のウゴ・チャベス大統領へのクーデター未遂に何度も例えているが、多くの国民はアメリカの了解の下で実施されていると考えている。こうした違いが生まれたことで、何年も国内の政治制度を支配したが、マドゥロ氏とその支持者たちは国外からの陰謀論を引き合いに出さないと国内の意見の相違を説明することさえできないことが明るみになっている。最近、大統領は抗議活動を「テロリストのクーデター」とさえ呼んだ。
エミリアーナ・ドゥアルテ氏は「今は複数の現実が並行して存在しています。大統領や政治家が使うSNSはTwitter、Instagram、Facebookといったものになるでしょう。そういったSNSでは、事実を無視するようになりがちです」と語った。ベネズエラの国営メディアは抗議を放送せず、少数派の政府支持者を特集する。だからSNSが反対派の主な通信手段となっている。20日のデモ計画も、その日のうちに広まっていた。あっという間に情報が広まるため、暴動を防ぐような解決策を探すのは難しい。
ワシントンD.C.の大使館で抗議に参加した人は「暴力があるかどうかに関わらず、現状を脱する方法を探さなければなりません。なぜなら私たちは子供、家、産業、すべてを失いつつあるからです」と語った。抗議活動に参加した別のベネズエラ人はただ国の未来だけを願った。「息子を私の父のところへ連れて行けるぐらい安全な国になってほしい」
ワシントンDCのベネズエラ大使館でニコラス・マドゥロ大統領の退陣を要求するプラカードを眺める通行人。ZACH YOUNG
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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