イギリスのテリーザ・メイ首相は3月29日、欧州連合(EU)の基本条約「リスボン条約」50条を発動し、EU離脱(ブレグジット)を正式に通告した。
リスボン条約50条とは、EU加盟国が「自国の憲法上の要求に従い」、自由意志で撤退することを認めるEU基本条約の条項だ。
しかし、EUとの交渉を完了させる期間はわずか2年しか残されていない。
メイ首相は28日夜、歴史をつくった。EUとの絶縁状(離脱通告の書簡)をしたため、ヨーロッパの政治・経済共同体の加盟国として数十年間維持してきた地位を捨てるという、前代未聞の事態へとイギリスを導いたからだ。
駐EUイギリス大使のティム・バロー卿は29日朝、EU本部があるベルギー・ブリュッセルにいるEU首脳に、EU離脱を通告する書簡を直接手渡し、離脱手続きを正式に開始した。
ドナルド・トゥスク欧州理事会議長は、その通知を受け取ったことを認め、「嬉しい日だ、とうそぶく理由は何もない」と述べた。
9カ月を経て、イギリスは約束を実行した。
イギリス国民はEU離脱の是非を問う2016年6月23日の国民投票で51.9%が離脱に賛成した。2019年3月末までには、EUの母体となるヨーロッパ経済共同体(EEC)を設立し、欧州統合の礎となった「ローマ条約」調印から60年経ったヨーロッパ現代史の中で、EUを去る初めての国となる。
首相:「EUとの交渉にあたり、イギリス全体にとって最大限有利な合意を求めていく」
メイ首相は29日、議会で演説し、グローバルな視点に立脚した、強力で公正な国づくりへの決意を改めて表明した。
「これからの道のりが非常に大事になりますが、目の前には機会が広がっています。私たちは共有の価値観や利益、目標によって団結できるでしょうし、そうでなければなりません。全国民が目指しているのは真にグローバルなイギリスであり、閉じこもることなく、世界の古い友人や新たな同盟国と関係を構築できる国です。私はイギリスを信じることを選択し、最高の日々が待っていると信じています」
メイ首相はEU離脱の結果を受けてデイビッド・キャメロン前首相が辞任した直後、権力の座に就いた。メイ首相は当初EU離脱に反対していたが、現在は差し迫ったEU離脱の先頭に立つ任務を課せられている。メイ首相の政権は今後数年にわたり、極めて困難な問題に直面する。EUとの交渉内容が明らかになり、大きな代償を伴うからだ。
イギリス政府は現在、2年の交渉期限の間に、EUや他の主要な同盟国との外交関係や貿易協定を作り直すとともに、EUから独立して1国のみで自国を統治するための新たな戦略を、急いで策定する必要に迫られている。また、イギリス国民の権利を守るためにも闘わなければならないし、イギリスに住むEU国籍をもつ人の運命も決定しなければならない。
さらにイギリス政府は、約束している強硬的なEU離脱「ハードブレグジット」の指針を示す必要がある。これは、内部国境のない単一の領土としてEUを意味する「欧州単一市場」へのアクセスをイギリス国民が喪失することを意味する。また、特別な許可を取得することなく他の加盟国で生活し働くことを可能にする、EUの基本原則の1つ「移動の自由」とも決別しなければならない。
イギリスの交渉担当者はEUとの円滑な協議を望んでいるが、他の加盟国の離脱を阻止しようとするEU首脳から厳しい条件を突きつけられる可能性がある。EU離脱の最終協定はEU加盟国の「特定過半数」の承認を必要としており、欧州議会で否決される可能性もある。
メイ首相は、スコットランド独立を問う住民投票の再実施を訴えるスコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相とも真っ向から対立している。RUSSELL CHEYNE/REUTERS
イギリスは、EUに加盟する残りの27カ国との交渉以外にも、ますます深刻化する国内の混乱も抱えている。イギリスの離脱決定に失望したスコットランド自治政府は今、自らイギリスからの独立に向けた新たな住民投票を推し進めようとしている。
スコットランド議会の議員の多くは、スタージョン氏が訴える住民投票の提案を支持している。しかし、実施のためにはイギリス議会の同意が必要だ。メイ首相は2019年にイギリスのEU離脱が完了するまで、スコットランド独立を問う住民投票の実施を拒否している。メイ首相は「今はその時期ではない」と述べ、イギリス国民は「協力し合わなければならず、バラバラになるべきではない」と主張している。
2年間の交渉期間のうち、ブレグジットの批准に6カ月ほど必要になるため、離脱交渉の実質協議は18カ月となる。
メイ首相は29日、「これからの数カ月、私は全イギリス国民の代表として交渉の席につきます。我々は誇り高き歴史と明るい未来を持つ国民と複数の国家から成る1つの偉大な連合国です。EUからの離脱が決まった今、団結する時が来ました」と語った。
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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