アメリカのドナルド・トランプ大統領は3月28日、バラク・オバマ前政権の温暖化対策を撤廃する大統領令に署名した。
トランプ大統領が署名した大統領令は、アメリカの二酸化炭素排出量縮減に向けてバラク・オバマ前大統領が取り組んでいた対策の大部分を無効にする。
大統領令では、オバマ前大統領が2013年に策定した温室効果ガス排出削減策「クリーン・パワー・プラン」の再評価を環境保護局(EPA)に命じている。この計画は、国内で圧倒的な規模の温室効果ガスを排出していた火力発電所による排出量の削減を訴えたものだ。今回の見直しは、クリーン・パワー・プランを廃止する第一段階となる。
「炭鉱作業員やエネルギー供給に携わる労働者、企業にとって、この規制はアメリカの産業に壊滅的な打撃を与えた」と、トランプ大統領は28日午後2時、EPAで署名した時に語った。「アメリカの繁栄を奪ってきた規制を終わらせ、愛する国を再建する」
この大統領令で、内務省が2016年に施行した政府所有地での石炭の新規採掘を一時停止する規制が撤廃されることにもなる。さらに、連邦規則制定の際は気候変動に考慮するように定めたガイダンスも撤廃され、「炭素の社会的費用」を算出するタスクチームも解散となる。
クリーン・パワー・プランの撤廃により、トランプ政権は二酸化炭素排出量を再び増加させることになる。また、2015年に195カ国が署名したパリ協定で設定された、アメリカの温室効果ガス削減目標を達成する見込みもなくなる。パリ協定は世界最大規模の温室効果ガス排出国である中国とアメリカを含んだ、気候変動に関する初めての国際協定だ。
中国がパリ協定を批准したのは2016年9月。中国の習近平国家主席は2017年1月、アメリカに対し、パリ協定を脱退しないよう呼びかけた。トランプ政権の大統領令では、パリ協定に批判的な文言は含まれていないが、科学的な温暖化対策に強硬姿勢をとらない一部の大統領顧問から圧力がかかったためだ。
確かに、トランプ政権は単純にクリーン・パワー・プランを完全撤廃することはできない。スコット・プルイットEPA長官はオクラホマ州司法長官時代に、クリーン・パワー・プランを阻止しようとオバマ政権を相手に訴訟を起こしたことがある。プルイット氏は、クリーン・パワー・プランがEPAの法的権限を逸脱するものだと主張していた。
最高裁判所は2016年2月、クリーン・パワー・プランの一時差し止めを命じ、プルイット氏と共和党に所属する他の州の司法長官は勝利を収めた。しかし、2007年に最高裁判所が判決を下したマサチューセッツ州対EPAの訴訟では、温室効果ガスを汚染物質とみなし、EPAに対し排出量を規制するよう法的な権限を認めている。
非営利団体「南部環境法センター」クリーンエネルギー・大気汚染部門の主任フランク・ランボー氏は大統領令署名前のインタビューでハフィントンポストUS版に「化石燃料の発電所という、アメリカで温室効果ガス汚染を起こす最大の要因に取り組もうと、最善で合法的な議論が再燃する動きが起きそうです」と語った。
環境保護活動家たちは、クリーンパワー・プランを守るため法廷で争う。ホワイトハウスに、この規制が「恣意的であいまい」な二酸化炭素排出の法定基準に合致することを法廷で知らしめるためだ。このあいまいな法定基準を利用してこれまでの司法判断を覆すため、ホワイトハウスの弁護士たちは、地球温暖化が人為的なものだという科学的な見解が誤っていることを法廷で証明しなければならない。
クリーンパワー・プランを撤回する上で最大の問題は、この計画自体が排出削減目標を達成するための予備段階に過ぎないということだ。計画が完全に実施されても、アメリカは2025年までに達成するべき排出削減目標の半分に達するだけだ。トランプ氏は計画を完全には廃止できないかもしれない。しかし、今の政権が温室効果ガス排出削減のため別の政策を制定する可能性もほぼないだろう。
トランプ氏は、アメリカの景気を盛り上げるために、ビジネスを抑制している原因だとする環境規制をなくすと公約した。トランプ氏は、EPAの予算を31%削減し、OA機器の省エネルギーを認証する制度「エネルギースター」プログラムを廃止し、職員を3200人削減する予算案を発表した。EPAはすでに3月になって、石油とガス掘削時に漏洩するメタン量の報告を義務づける規制を撤廃した。メタンは二酸化炭素の40倍強い温室効果がある。
アメリカがパリ協定に消極的なため、協定の存続自体が脅される可能性もある。この協定は2015年12月に締結され、国際的な二酸化炭素排出量の目標を設定した。産業革命以前と比べた世界の平均気温の上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えるために必要な削減量をかなり下回る設定だ。科学者たちはこの基準を超えると、人類と文明社会に取り返しのつかない害が及ぶとしている。
パリ協定では、各国が5年ごとに削減目標を見直して国連に報告することを定めている。アメリカのように裕福な大国が削減に取り組まなければ、貧しい発展途上国は経済成長を化石燃料に依存しているため、自国の排出量削減に取り組まなくなる。
1992年の京都議定書が失敗したように、温暖化対策は排出量削減を拒否したアメリカに左右されるところが大きい。そしてすでに、トランプ氏は開発途上国の温室効果ガス削減を支援する国連の「緑の気候基金」への拠出金を削減する提案をした。
「アメリカが強ければ、世界はもっと安全になる」と、ライアン・ジンキ内務長官はトランプ大統領の前座のスピーチで語った。「我が国の強みは、エネルギーに依存している」
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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