「魚民」「白木屋」運営の居酒屋大手 大量閉店の真相

「1つのビルに3〜4店出店していたものを1店に集約するなど、1店舗当たりの従業員を増やし、負担を軽減させるのが狙い」(会社側)

JR成瀬駅近隣のビルにはかつて、「魚民」や「千年の宴」など4業態が入居していた。1月下旬に退店しており、現在その痕跡は残っていない(記者撮影)

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「魚民」「笑笑」「白木屋」などを展開する居酒屋最大手モンテローザが大量閉店に踏み切っていたことが東洋経済の取材でわかった。

同社が採用サイトやウエブサイトで公表している総店舗数を集計したところ、2016年12月末には2119店だったものが2017年1月末に2044店、同2月末で2017店と約100店ほど減少した。

会社側は「閉店した店舗数や業態の詳細は公表していない」という。その理由を「ホームページには店舗検索機能がある」と説明している。検索すれば当該店舗があるのか、ないのか、わかるので、公表する必要はないと考えているようだ。そのため、大規模な店舗減少にもかかわらず、いつ、どこで、どういった業態を閉めたのかは不明なままだ。

閉店の理由は"人手不足"

記者が調べたところ、東京都町田市にあった成瀬駅北口の「魚民」など4店舗が1月下旬に閉店した。

正確な時期は不明だが、恵比寿駅前の「目利きの銀次」など3店舗も今年に入って閉店。香港といった海外エリアでも閉鎖が進んでいるようだ。

大量閉店に踏み切った理由を会社側は「人手不足のため、労働環境を改善させる必要があった」と説明する。外食業界は拘束時間が長く、給与も低く、労働環境が悪いというイメージが定着している。

このため、「1つのビルに3〜4店出店していたものを1店に集約するなど、1店舗当たりの従業員を増やし、負担を軽減させるのが狙い」(会社側)。労働環境を改善することで、少しでも人材を確保しやすくすることが目的のようだ。

モンテローザは1975年創業、1983年に「白木屋」、1993年に「魚民」、1999年に「笑笑」といった業態を開発。繁華街で飲食店用ビル一棟を丸ごと借り上げることで家賃を割安にして、数階にまたがる大型店を出店するといった手法で、積極的な出店戦略を続けてきた。未上場企業ながら、1998年以降は居酒屋業界の首位に君臨している。

2002年5月にグループで1000店舗を達成し、2013年5月に居酒屋業界初となる2000店舗を達成した。外食業界で2000店を超える規模を誇るのは日本マクドナルドホールディングスやゼンショーホールディングス、すかいらーく、コロワイド、吉野家ホールディングスなど10社にも満たない。

主力の「魚民」で約720店を展開するほか、200店超の規模で「白木屋」「山内農場」「笑笑」を展開している。モンテローザは流行っている業態を徹底的に研究し、それを参考に出店するという手法をとってきた。こうした業態の類似性をめぐっては、過去に同業のワタミと裁判沙汰になったこともある。

この15年間、売り上げは横ばいだった

居酒屋業界は少子高齢化や消費者のアルコール離れといった需要の縮小や、専門店業態が人気を集め、豊富なメニューに特徴がある総合居酒屋が陳腐化するなどの環境変化に苦しんでいる。

ワタミやコロワイド、大庄といった大手が次々と店舗網を縮小する中、モンテローザだけが店数を増やし、いわば業界の流れに逆行していた。

ただ、モンテローザもこの15年間で店舗数だけは1000店から倍増したものの、売上高はほぼ1300億〜1400億円前後と横ばいで推移している。

これはたとえば、3〜5階の3フロアを使っていた大型店舗を業態を変えることで3分割したり、競合の多い大都市繁華街を避けて小規模な都市にも出店を進めた結果が大きい。店舗数だけは増えたが、会社全体としての売り上げの伸びはほぼ止まっていたのが実態だ。

ここ数年は営業利益こそ黒字を保っているものの、固定資産除却損や減損特損といった要因で2期連続の最終赤字を計上。長年の取引関係があった業務用食品卸・久世から物流費高騰を理由に契約見直しを求められたところ、合意に達せず取引を終了している。

2016年8月には、十種競技で日本選手権を5連覇したこともある陸上部を2017年3月に廃止すると公表。同年11月には持ち株会社体制に移行してコストを圧縮しようとするなど、業績不振を思わせるような動きが散見されていた。今回の大量閉店もその延長線上にあるように見える。

東京都世田谷区にある「魚民」千歳烏山北口駅前店は閉店したが、同じビルにある「山内農場」は営業を続けていた(記者撮影)

会社側は「業績不振ではなく、あくまで店舗を集約することで従業員の負担を減らし、労働環境を改善することが目的」と説明する。

大手外食の関係者は「会社側の説明にも一理あるだろう」と理解を示す。確かに記者が確認した東京都世田谷区の千歳烏山の店舗でも、「魚民」を閉店する一方で、別フロアの「山内農場」は営業を続けていた。

また、同業のワタミが2015年3月期に100店を閉鎖した際には居酒屋事業そのものが大きな赤字だったが、モンテローザは営業利益段階では黒字を出してきている。

「別の新たな成長戦略も検討」

会社側は「2018年3月期までこの動きを継続し、その後は再成長する計画」「別の新たな成長戦略も検討している」と説明する。ただ、同業他社が長期間に渡って閉店を余儀なくされていることを考えると、そう簡単に立て直しができる話ではないだろう。

前出の外食業界関係者も「対外的には『人手不足』としか説明できないが、本当は業績不振が要因だろう」と分析をする。

ついに大量閉店に踏み切ったモンテローザ。このペースでいけばグループ総店舗数が2000店を割るのは時間の問題だ。市場縮小と人手不足という逆風にどう答えを出すのか。出店に頼った成長戦略を続けてきた同社は転換点を迎えている。

(松浦 大:東洋経済 記者)

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