アメリカ主導の有志連合は、過激派組織IS(「イスラム国」)の事実上の首都であるシリア北部の都市ラッカを奪還するための作戦を進めている。ラッカの奪還は、ISとの戦いの中でも大きな節目となる。ここ数カ月で対ISの民兵組織が増加する中、米軍の存在感が高まっている。奪還作戦は最終局面を迎えているようだ。
2017年3月初旬、追加派遣されたアメリカ海兵隊400人がマンビジなどラッカの周辺地域に配備され、ISのラッカへの供給ルートを遮断した。また、ISの指導者たちは、有志連合の奪還作戦を見越してラッカから脱出し、ISが支配する比較的安全なデリゾール県へ移っている。それでも、数千人のIS戦闘員が、まだラッカに残っているとみられ、ISとの戦闘は、困難を極める見通しだ。
ISに対抗する軍事力を増強し、大規模な作戦を展開しようとしているが、本格的な攻撃は、すぐには始まらないかもしれない。それどころか、アメリカは政治的な泥沼にはまっている。この地域にいる有志連合内では、誰がどの役割を担うかについて、さやあてを演じているからだ。
こうした内輪もめから、明らかになったことがある。奪還作戦は、ISを事実上の首都から追放するために重要だ。それだけでなく、有志連合内の複雑な対立を煽ることになりかねない。今、複数のグループが主導権を握ろうと争っている。
そうした主導権争いの中で、トルコの不満が高まっている。アメリカは、ラッカ奪還のためにクルド人民防衛隊(YPG)に武器を供与し、支援すると表明した。これは、トルコにとって問題だ。YPGが強力になれば、トルコへの脅威となり、トルコ政府と対立しているクルド人武装組織「クルド労働者党」(PKK)への支持を強める可能性がある、と懸念している。
2016年、対IS戦でラッカの前線を見守るクルド人民防衛隊(YPG)の隊員。NURPHOTO VIA GETTY IMAGES
トルコは、YPGを有志連合に加えることに反対している。トルコは、政府が支援するシリアの武装勢力「自由シリア軍」や、自国のトルコ軍を派遣したい意向だ。問題は、アメリカは対IS作戦で両方の武装集団と同盟関係にあるが、専門家によると、アメリカの高官はクルド人部隊をラッカ奪還の最も有力な戦力とみなしているという。
「クルド人なしでラッカを解放する方法はない。トルコが大きく介入することはほぼない。あるいは、アメリカが大きく介入することもないだろう」と、アメリカのシンクタンク「ブルッキングス研究所」のアナリスト、マイケル・オハンロン氏は語った。
米軍は、バランスを取るのが難しい状況にある。YPGについてトルコの懸念を和らげようとしているが、シリア内戦初期に支配した地域からISを追放する目的を達成しなければならない。
2017年2月、YPGはマンジブ付近でトルコが支援する自由シリア軍の侵攻を食い止めた。その後、米軍が追加配備され、この地域の治安は維持されている。マンジブでの米軍の存在は、抑止力の一環となっている。トルコはこの地域でYPGへの攻撃ができなくなっている。YPGへの攻撃は、ラッカ奪還の阻害要因になっていたといえる。
2016年11月24日、シリアのタル・サミンでラッカ隔離作戦中のクルド人民防衛隊(YPG)の隊員。
トルコは9日、YPGがラッカの闘いに参加すれば、二国間の関係に影響を及ぼす、とアメリカに警告した。この小競り合いの結果、アメリカの高官は同日、トルコで4月中旬に実施される国民投票の後まで攻撃は延期される可能性がある、とウォール・ストリート・ジャーナルに語った。投票では、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が、アメリカ式の大統領制度下で、より強力な実権を握るかどうかが問われる。
トランプ政権は、今もシリア情勢の行方を見極めており、ISとの戦いについて計画を見直している。その結果、ラッカ奪還作戦には暗雲が立ち込めている。トランプ氏はISを「イスラム過激派のテロリズム」と呼び、「卑劣な敵を地球上から消滅させる」と攻撃的な姿勢を強調しているが、現在の作戦に大きな変化はない。
ラッカを奪還してISを追い出したとしても、ISはシリア東部の比較的狭い領域に後退するものの、壊滅することはない。
ISや他の過激派組織は柔軟性が高く、指導者や領土を失っても存続してきた。指導者のアブー・バクル・アル・バグダディ容疑者は、空爆で死亡したと何度も報じられたが、生き延びている。また、ISに忠誠を誓う武装勢力は今も無数にある。
ISが勢力を伸ばしている根本的な状況も変わっていない。シリア内戦は多様化し、長期化して広い地域で不安定になっているからだ。ラッカ奪還作戦をめぐる主導権争いを見る限り、有志連合内の分裂や対立は、ラッカからISが追放されても消えることはないだろう。
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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