トランプ大統領、ケベック銃乱射事件に沈黙を貫く。アメリカのイスラム教徒に動揺が広がる

世界のリーダーであるアメリカ大統領が、公式に哀悼の意を表明しないのは極めて稀なことだ。

カナダ・ケベック州のケベック市にあるモスク(イスラム教の礼拝施設)で1月29日に発生した銃乱射事件は、白人男性アレクサンドル・ビゾネット容疑者(27)による犯行だった。この事件では6人が死亡し、8人が負傷した。目撃者の話によると、犯人は男性・女性・子供関係なく、礼拝していた人々を無差別に銃撃したという。

ニュースの第一報が伝わると、保守系の報道機関は「銃撃犯はイスラム教徒だ」という誤報を流した。FOXニュースのTwitter投稿(現在は削除)にはこう書かれていた。「複数の情報筋から、ケベックのモスクでのテロ攻撃容疑者はモロッコ系の人物とみられる」。メディアの多くは、容疑者の出自に関する報道を訂正していないが、このツイートもその1つだ。そもそもテレビ局の多くが銃撃事件を報道していない。

モスクで祈りをささげていたイスラム教徒6人がテロ攻撃で殺害され、犯人は右翼的なSNS投稿で有名な男だった。どの新聞社が一面でこの事件を扱っているのかな?

モハメド・ベルカディールさんというモロッコ系のイスラム教徒男性が、事件直後に逮捕された。しかし彼は、人命救助のために走ってモスクに戻った目撃者の1人だった。

カナダのジャスティン・トルドー首相は、ただちにFOXニュースを非難する声明を出した。FOXニュースの報道で「恐怖と分断が長く続き」、さらに「デマ情報を流すことで、6人の犠牲者とその家族の記憶を屈辱的なものにした」と批判した。FOXニュースによると、後にツイートを訂正し、報道内容も訂正したという。

トルドー首相は、今回の銃撃事件はイスラム教徒へのテロ攻撃だと語った。事件の詳細が明らかになり、カナダ中で何千人もの人々が夜に集まり、犠牲者の死に哀悼の祈りを捧げる動きが広がる中、ホワイトハウスは沈黙を保ち続けている。

トランプ大統領が1月27日にイスラム教徒と難民を対象とした入国禁止令に署名した直後、この銃撃事件が起きた。しかしそれでもホワイトハウスは、同盟国カナダとアメリカのイスラム教社会に対して公的に哀悼の意を示していない。

事件後に出た唯一の反応といえば、ショーン・スパイサー大統領報道官が声明で、「ケベック市のモスク攻撃は、アメリカ国民が警戒を緩めず、大統領が国家安全保障を後回しにせず、先手を打つためのステップを踏んでいることを改めて思い起こさせる痛ましい事件だ」と述べたくらいだ。

しかし世界のリーダーであるアメリカ大統領が、公式に哀悼の意を表明しないのは極めて稀なことだ。バラク・オバマ前大統領は退任演説でイスラム教徒に対する差別を非難した。911同時多発テロ事件の後、ジョージ・W・ブッシュ大統領は就任中最も有名となった演説で「イスラム教は平和主義だ」と語っている。演説の中でブッシュ大統領はテロ攻撃が「無実の一般人を狙ったもので、イスラム教の根本的な教義に反するものだ」と認め、「我々アメリカ人がこのことを理解しなければならない」と述べた。

トランプ大統領は非公式にトルドー首相に電話をかけただけで、自国のイスラム教徒に手を差し伸べなかった。大統領がカナダで起きたイスラム教徒を狙った殺害事件について沈黙を保っているため、アメリカに住むイスラム教徒が抱える強い不安は増大している。状況は悪化する一方だ。

ニューヨーク市立大学法学部の「法執行の説明責任と法的責任を制定する(CLEAR)」プロジェクトでシニア・スタッフ弁護士を務めるタレク・イスマイル氏も同じような懸念を抱いている。「あきらかにイスラム教徒を無視する姿勢をとっている」と、イスマイル氏はハフィントンポストUS版に語った。「一致団結するために懸命に努力しなければ、イスラム教徒がコミュニティから完全追放されるのは間違いありません。甘い考えは捨てなければなりません」

イスマイル氏はトランプ大統領が今後どのような政策を取るか、特に心配だと語った。さらに、入国禁止令の文言には、対象国が追加され90日間という入国制限期間が延長される余地が残されているという点を強調した。

カナダのモントリオールにあるマギル大学に通うイスラム教徒の女子大生サムさん(23)はアメリカの報道を欠かさず見ており、特に自分の母国カナダのことが心配だと語った(ハフィントンポストが彼女の苗字を伏せているのは安全上の理由であり、彼女の父親がイラン系カナダ人で現在アメリカで就労しているため)。

「こちらに住む人々は、アメリカの政治とカナダの政治は別物と考えようとしています」と、サムはハフィントンポストUS版に語った。「同時に、外国人を排除する政策は数多くあり、イスラム教を嫌う風潮も高まっていて、カナダの政策に影響が出ないか心配です」

彼女は、父親が国外退去処分を恐れてカナダに戻れなくなるかもしれないのが心配だと語った。しかしケベックのモスク銃乱射事件のニュースを見て「心が折れかけた」と言った。

「週末のいろんな出来事のせいで、燃え尽きたような感覚でした。怒りが消えて、胸が張り裂けるような気持ちになりました」

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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